#3
散らかった部屋。服や本が散乱している。ここが私の部屋。いつからだろうか、片付けをしなくなったのは。
なにも聞こえない静かな部屋。静寂が支配したこの部屋に聞こえる音はない。目を閉じれば、さっきいた薄暗闇の世界が脳裏に浮かぶ。そして、音詠渚と名乗る女性の顔。彼女の寂しそうな微笑みが私の心を静かに痛める。
彼女に私が撮った最高の写真をプレゼントしよう。私は足元を気にしながら本棚へと向かった。
散らかり放題の私の部屋もではあるが、本棚に入れた自分が撮った写真だけはしっかりとアルバムに入れている。虹、青空、そして綺麗な夕焼け…。どの写真も私の宝物だ。写真の中の色褪せない思い出達はまさに私が生きてきた証明のようなものだった。
私はあまり人物は撮らない。このアルバムを見ても人が写った写真は数えるくらいしかない。どうしてだろう。正直自分でもわからない。でも、ただひとつ言えることは、私は人の笑顔の底にあるものをつい勘ぐってしまうから…。だろうか。
その点、風景はそんな必要はない。ファインダーの中に記憶されたその世界は常に私に光をもって接してくれる。疑いや疑念から解放されたその世界の数々は見るたびに私の心を癒してくれる。
「変わらないもの」
この言葉こそが私が写真を撮る理由だった。
***
「よし、これにしよう」
どの写真にしようか数十分考えた後、私はアルバムに綺麗に整理された写真の中から1枚だけを慎重に抜き取った。
私が選んだ写真は先日、にわか雨が降った後に空に大きく描かれた虹の写真だ。
「どんなに悲しいことがあってもその先には七色に光る希望がある」
写真を手に取りながら私は一言そうつぶやいた。どんな些細なことでもいい。希望というのは人それぞれだ。誰かの小さな親切が人を勇気づける。そしてその小さな親切がバトンリレーのように誰かに繋がる。私が撮った写真だってそうだ。この写真を見ることによって誰かを勇気づけることができるなら…。
それがきっと次の希望に繋がっていく。
私は小さな封筒にこの1枚の写真を入れた。
明日、彼女にこの写真を渡そう。
今日、二人が出会ったあの場所で