#2
classicplusⅨ《クラシックプラスナイン》。
私がこのカメラと出会ったのは暑い暑い夏の日だった。その日、私は夏季休暇を利用して原付バイクで旅をしていた。1泊2日の予定で飛び出した自宅の玄関。今、私は夏のまとわりつくような風を浴びながら走っている。
会社の同僚からは「原付じゃあスピードでないのでは?普通自動二輪の免許取れば?」とよく言われる。でも、私はこれでいい。だってスピードを出して急ぐ気はないのだから。私の旅はいつだってそうだ。目的地なんてない。私が見たいのは海と空だけなのだ。
出発してからどのくらいの時間がたったのだろうか。気がつくと私は小さなカメラ屋を見つけていた。そこにこのカメラは置いてあった。昔風の言い方をすればこのカメラはインスタントカメラだ。しかし、私が知っている重たくてデカデカとしたヤツではなく、このカメラはとてもコンパクトでスマートな形をしていた。それに、私が持ってる一眼レフにはない「新しい光」のようなものを感じ取った。デジタルカメラに慣れた私にとってこのカメラのもつ特徴はとても新鮮なものがあった。それにしても見たことも聞いたこともない名前だ。作ったメーカー名すら書いていない。
その後、迷うこともなく私はこのカメラを購入した。値段が比較的安かったのも購入を決断した理由の1つだ。このカメラのファインダーから見える世界を1枚でも多く形にして残していこう。真新しいカメラを手に持ちながら、私はそう決意を新たにした。そしてまた私の旅の相棒がひとつ増えた。
***
「カメラ好きなんですか?」
暫しの沈黙の後、私がもつカメラを除き混むように見ながら彼女はそう言った。
「はい、好きです。カメラっていいですよね。なんだか時間の流れを止めてくれるような気がして。私達は年をとる。そして、いつかは死ぬ。でも、写真の中に記憶された瞬間は永遠に生きることができる」
私は空を見上げながらそう言った。光なき夜の空。この空も色がない。
「奇遇ですね。私も写真好きなんです。ほら?」
そう言いながら彼女はカバンからカメラを取り出した。
「あれ、そのカメラ?」
一瞬、私は目を疑った。彼女の手には色違いのclassicplusⅨがあった。
「今度、お互いのお気に入りの写真交換しません?ほら、これインスタントカメラだから同じ写真は世界に1枚しかないわけじゃないですか?」
突然、知り合った女性からの思いがけない提案。私はなぜかそれを素直に受け入れた。
正直、カメラの腕には自信がある。それに二人が持ってるカメラは同じclassicplusⅨ。この提案を断る理由なんてなかった。
そして、彼女は微笑みながらこう言った。
「明日の午後6時。私この場所で待ってますね」と。