#12 真相
ガサ…。ゴソ…。
草をかき分ける音が辺りに鳴り響く。普段聞こえないようなこの音も人気のない無人島なら大きく聞こえる。目的地の祠はどこだろう。私は手に持った祠への手がかりが書かれている黒い手帳とにらめっこをしていた。
「あなたはいったい祠の下に何を埋めたんだろうね」
渚は私の顔をのぞきこみながらそう話しかけてくる。いまだに失われた記憶は思い出せないが、この先に真相がある。そんな思いを私は強く持った。
森を抜けるとその先には小さな空き地がある。ここだけ木が生えてない。そんな場所に私達の目指す場所があった。何かの目印なのか祠の側に石が小さく積まれている。なんとなくではあるが、私はこの下に探し求めていたものがあると感じた。
「たぶんここだね。それにしてもこの祠って誰が作ったんだろうね」
「うん…。誰だろうね。でも昔の人が何か意味を込めてこの祠を作ったんだろうね。よし、ちょっとこの下を掘ってみるね」
私はリュックからスコップを取り出して掘ってみた。
ザクッ…。ザクッ…。
地面は比較的柔らかく余り強い力は必要なかった。みるみる内に小さな穴ができた。そして、その穴からプラスチックでできた缶のようなものが出てきた。
「これ…。かな?」
「うん…。そうみたいだね。でも何が入ってるんだろう。この中に」
余り大きくない小さな箱だ。ちょうど子どもが宝物を隠すようなそんな雰囲気の箱だ。
「開けてみようか?少しドキドキするけど」
「自分が埋めた箱でしょ?勇気出して!」
渚に励まされた私は恐る恐る箱の蓋を開けてみた。
中に入ってる物を見た瞬間、私の失われた記憶が甦る。
彼女との出会い。
そして二人で過ごしたひととき。
それがまるで走馬灯のように頭の中を駆け抜ける。そう、私は記憶を失う前日に彼女をこの島に呼んでこれを渡そうとしたのだ。大切な渚が好きだったこの島の中心で。
なぜ埋めるという回りくどいやり方をしたのかというと彼女の驚く顔が見たかったから。でもそのせいで彼女に渡すタイミングが遅くなってしまったが…。
「思い出したよ。これを見た瞬間。すべてを」
「えっ!?本当に?じゃあ私の誕生日は?」
「5月15日だよね」
「正解!じゃあ私の好きな食べ物は?」
「アジフライ!」
「それも正解!本当に思い出したんだね。ところでその箱の中に何が入ってたの?」
そう言いながら渚は私が開けた箱をのぞきこんできた。
「えっ!?景君これって…」
「渡すの遅くなってごめんね。そして、こんなまわりくどいやり方になってしまったけど…」
私はそこで声を詰まらせてしまった。あの一言が言えない。緊張で手に汗がにじむ。いや、ここで終わってはいけない。この言葉を彼女に届けないと。
そして、勇気を振り絞り言った。
「渚、私と結婚してください!」と。
数分後、彼女の左の薬指には銀色に輝く結婚指輪が輝いていた。