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第1話~いつもの日常~

新作投稿となります。駄文ですがお読みいただけると幸いです。

好評ならびに批評の方募集しています。書いていきながら成長していきたいと思いますので、たくさんの方からのお言葉お待ちしております。

強めの雨が降る夜、一人の男が街灯のない暗い道を走っていた。バシャバシャと音を立てて必死に走るその姿は、まるで何者かから逃げるように感じられた。


「……、関係ないな」


その様子を遠目から見ていた少女は、パーカーのフードを目深に被り目を背けた。自宅に帰る途中だったこともあり、興味本位で追ってみようという気持ちも湧いてこない。無論、湧いてきたとしても結局追わないだろうが。


今日は学園から全員学生寮ではなく自宅に帰れと通告されたため、少女は約二週間ぶりに帰宅することになった。理由はわからない、と言うより聞いていないからそもそも知るつもりもない。少女にしたら帰るのが面倒としか思えないが、彼女以外の学園生は喜々とした雰囲気で帰って行った。


「ウザったい天気だ」


少女は目深に被ったフードの端を掴み空を見上げる

。その瞳はアメジストの様な紫色で、無気力感と何処か虚しさを感じさせる輝きを帯びていた。


夏の盛りにはもう少しあるが、それでもこの雨のせいで蒸し暑さは最高潮。嫌な汗を軽く拭いながら前方に目をやり、両手をパーカーのポケットに入れる。なぜこんな暑い日にパーカーを着ているかといえば、特に深い理由はない。これが少女の普段着なのだ。


「さっきの奴、なんだったんだろうな」


ふと、興味の欠片も持てなかったあの男のことを思い出す。命懸けで何かから逃げるようなあの必死な形相。逃げるとなれば何かしらやらかして警察から追われる程度しか思いつかないが、それは無い。


警察は捕まえるのが仕事で、決して犯人を殺そうとはしないからだ。


だが先ほどの男はどうだったか。捕まえられたら最後といった雰囲気が満載だったではないか。銃殺が確定したのかとも考えられる、でも頭の片隅でそれは違うと否定してくる。


「……って、何考えてんだか」


少女は軽く頭を振って考えるのをやめた。毎回無駄なことでトラブルに巻き込まれるのだ。今回はそのフラグをへし折る大チャンス。逃がすわけには行かない。

などと馬鹿馬鹿しいことを考え始めたのと同時にデバイス、学園が独自開発した携帯電話が振動した。取り出して画面を見ると、登録されていない番号が表示されていた。


もとより登録件数が少ないため、テキトーに通話ボタンを押す。耳に当てると、


『おや、出てくれるとは思ってなかったですけど』


「なら最初からかけて来るな、迷惑だ」


割と本気で切ろうとしたのがわかったのか、相手は少し慌てながら話を続けようと少女を宥めてくる。


『ジョーダンですって!切らねーでくだせー!』


「チッ、それで? 何の用だ、神無月」


電話の相手は居候兼同級生の少女、神無月紗妃だった。かれこれ三年ほどの付き合いになるが番号登録はしてなかったらしい、何ともまあ奇妙なものだ。


神無月は安心したのか呆れたのかわからない溜め息をついた。


『はぁ、あんたさんの性格どーにかならねーんですかね?ウチだからまだ流せますけどフツーならハブられますよ?』


「切るぞ」


『もーそのやりとりはいーです。さっさと本題に移りてーので』


お前がやり始めたんだろうと思いつつ、少女は無言で先を促す。どうせいつもの面倒ごとだろうと、そう考えていた。


『今日は街でぶっそーなことが起こったみてーなんです。えーと、通り魔でしたっけ?そーゆー類のものだった気がします』


「その犯人を警察が追っているから気をつけて帰って来いと?」


『そのとーりですよ。トラブルメーカーってわけじゃねーですけど、来栖焔とゆー人がトラブルに巻き込まれやすい体質ってことは周知の事実ですからね』


周知の事実と言われると、割と本気でショックを受けてしまうのは仕方ないだろう。彼女とて巻き込まれたくて巻き込まれてるわけではないのだ。


『それと、念のため言っておきますけど』


「なんだよ」


『学園外で魔法及び礼装の使用は禁じられてるということを忘れねーよーに』


「面倒ごとになるってわかんのにアタシがやると思うか!?」


めんどくさい。怒りによってショックも無くなり、というより怒りが先行したまま怒鳴ってデバイスをポケットに突っ込んだ。少し冷静になった脳裏に、あの男の姿が横切る。


……。いや、あの男が通り魔には思えない。あんな気の弱そうな奴が何人も殺れるわけがない。殺害方法はどうであれ、返り血も付いてなかったと思う。通り魔には無関係だろう。


そして自分も、こちらから調べない限り巻き込まれない。珍しく向こうから巻き込んで来るようなことはないという事実に少しだけ頬が緩む。


今日の晩飯はシチューにしようか、などと他愛もないことを考えながら最後にもう一度だけ男の走っていった方向を見た。理由はないが、何となく見ておこうと思っただけだ。


そう、何となくだ。決して、彼女を呼び止める気配がしたわけではない。


「ん……?」


来栖が目を向けた先に、発光するナニカが落ちていた。月明かりも星明かりも、さらには街灯すら無いため反射するということは無い。となれば自ら光を放っていると考えるのが妥当だろう。


近づいて見てみると、ソレは紫色の鉱石だった。それもかなり緻密な加工が施されており、そこらの職人では到底できないほどの物。


一瞬迷ったが、おずおずとその石を拾い上げる。落とし主が誰であれ、ここに置きっぱなしにしておけば他の人が持ち去り売り捌くかもしれない。そう思ったからだ。断じて自分の物にしようとしたわけではない。


「アメジストかな。それにしてはおかしいけど、落とし主が見つかるまでは持っておくか」


自身の瞳と同じ色で光るソレをパーカーのポケットにしまい、彼女は帰路についた。


雨脚はより強くなり、雷までなり始めた。


早めに帰らないと神無月に小言言われるな、という確信が生まれ自然と駆け足になる。


来栖焔の拾った石が、彼女の最も大嫌いなトラブルに巻き込まれる原因とは知らずに。

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