新しい家族?
すごいモノを見てしまった!
あっ、マーサが近づいて来る。
顔は笑っているがなんか凄くコワイ。
マーサが目の前に立つ。
思わず後退り。
「さぁ~、話してみなさい?」
マーサが顔を近づける。
いや、近い、近いって!
さらに後退りしてしどろもどろに話す。
顔が近いので視線を反らして話す。
とてもじゃないが目を合わせられない。
だって恐すぎる!
笑顔のはずが眼がコワイ。
肩が震えている。
大狼と対峙した時よりある意味コワイ。
「そう、そういうことなの」
「そ、そういうことです」
マーサの言葉に相槌をうつ。
ちなみに私の腕の中には子狼がいる。
子狼は私と同様に小刻みに震えている。
明らかに、母マーサに恐怖していた。
ことの次第を説明してマーサの反応を待つ。
マーサは明らかに怒っていた。
ノーマンに鮮やかな右ストレートを叩き込み私に近づいて来るマーサは本当に怖かった。
しかし、マーサの両腕が私を包み込む。
力一杯に。
痛い、痛い、むちゃくちゃ痛い!
子狼がもぞもぞと動いている。
マーサの豊かな胸に挟まれていやいやしている。
うらやましいぞ、こいつ!
しかし、羨ましがってもいられない。
ホントに痛い。
なんかミシミシ言ってる。
ほ、骨が折れる。
マーサは無言で私を抱き絞めている。
これはあれですか?
無事なことが嬉しいのとどう怒っていいかわからない複雑な心境というヤツですか。
単に無事なことが嬉しくて抱き締めているだけか。
力加減を考えずに。
だがこれ以上は、無理です。
勘弁してください。
「母さん、苦しいです」
「あっ、あら、ごめんなさいね」
気のせいだろうか?
なんか嬉しそうに聞こえた。
「さっ、中に入りましょう。風邪をひいてしまうわ」
「でも、父さんは?」
「あんなのは、放っておきましょう。さっ早く」
「は、ハイ、そうですね」
哀れノーマン。
最愛の人にあんなの呼ばわりとわ。
しかし、マーサは気にした様子もなく私を家の中に入れる。
父親って、報われないのですかね?
まぁ、今回はノーマンが悪いけどね。
その日の晩餐は私が狩りで仕止めたウサギがメインのシチューでした。
私は狩りの様子を身振り手振りを交えてマーサに報告する。
マーサは嬉しそうに頷いたり笑ったりしている。
本当に楽しい晩餐だった。
子狼は私の足下でウサギの足を食べている。
「その子、何て名付けるの?」
「飼っても良いの?魔物なのに?」
「大丈夫よ。元は狼だし。それにあなたになついているもの」
「あ、ありがとうございます」
思わず頭を下げる。
あっ、しまった。
今のはおかしい。
マーサは私の返事を聞いて少しの間キョトンとしていたが、しばらくして弾けたように笑い出していた。
子狼が何事かと私の方を見る。
私は大丈夫だよと子狼の頭を撫でる。
こうして、我が家に新しい家族が出来ました。
ノーマンはこの日、一人寂しくお外にいました。