彼女の事情?
襲撃事件の翌日、街に着いた。
賊は全て、街の兵士につき出された。
どうやらラグラドには、賞金が掛けられていたようだ?
ダグラはその賞金で、新しい奴隷と、護衛を雇った。
傷ついた奴隷は売り払い、役に立たない護衛は、解雇したためだ。
そして、数日後には興行が行われた。
もちろん、私とレティも興行に出ていた。
今回の興行では、私は人を殺す事なく、無事に切り抜けた。
しかし、レティは…………。
レティは、全ての試合で、対戦相手を、斬殺した!
私は普段控えの間にいるが、レティの試合は観ておこうと思い、出場口の側で試合を観ていた。
その試合の光景は、凄惨の一言しか無かった…………
腕を斬り落とされ、足を斬り落とされ、心臓を一突きにされたり、喉元を斬られたりと、派手に血が飛び散るその試合に、観客達は熱狂していた。
そして、ダグラの高笑いが響いていた。
「ウハハハ~♪たまらん♪たまらんぞ!
まさに金の成木だ!無理して買った甲斐があった! ウハハハ~♪」
下に居ても、あの男の笑い声が聞こえて不快だ。
もっと不快なのは、レティの戦い方だ。
明らかに実力が違いすぎるのに、相手の命を奪う必要は無いはずなのに?
どうして、殺す?
私は、興行の間、レティとあまり話をしていない。
興行の間も私は、鍛練を欠かさない。
しかしレティは、私と一緒に鍛練することは無く、試合が終わると、一人で食事をして、さっさと寝てしまう。
周りの連中も、レティを避けているのか、話かける人はいない。
私も何度か、話かけようとしたのだが、なんと話かけたらいいのか、分からない。
それに私は私で、自分の戦いで精一杯でもあった。
闘技場の中で、相手と相対する時、どうしてもあの時の事を思い出すのだ!
一瞬、吐きそうになるのを堪えて戦い、戦い終わった後に吐く。
更に、レティの試合を観て、吐く。
私の体調は、興行の間、不調だった。
周囲の人、特にドッチさんからは心配されたが、何とか耐えられた。
そして無事に興行を終えた。
******
興行を終えて、翌日の朝。
私はいつもどうり、朝の走り込みをしようと、部屋を出ようとしたとき、レティが起き出した。
「私も行く」
久し振りに聞く彼女の声は、いつものようにぶっきらぼうに聞こえた。
二人で街の外周を走る。
門番や、朝早くから働きに出る人達から挨拶される。
「よう、今日も走ってるのか?頑張れよ」
「おはよう、いつも早いな」
「昨日はお前さんに賭けたよありがとな」
この街に来てから、走り始めているので、いつのまにか顔見知りが出来ていた。
そして私に話かけた後に、レティの存在に気づいて、後退りする人、挨拶して固まる人、反応は人様々だが、皆一様にレティを恐れていた。
朝の走り込みを終えて、朝食を摂った後、本格的な鍛練を始める。
レティに、今日から魔術の鍛練を始めるか、聞いてみる、すると?
「ちょっと、聞いて?」
私達は、街の外にいて、周りには誰もいない。
レティは、ぽつりぽつり話始める。
「私、弟がいるの。いつも一緒。
でも、襲われた日、別だった。
私、探した。でも、……………。
私、奴隷になって、売られた。
そして、あなたに合った。
あなた、弟に似ているの 」
「弟に似てるの?」
「全然、似てない 」
似てないんかい!
「雰囲気が似てた、何となく」
何となくかい!
「そして、あいつに合った」
あいつ……?
ああ、賊の頭ね?
「私、怒ると、覚えてない」
覚えてない?
我を忘れるのか?
「気づいたら、殺してた」
気づいたら?
斬って我に返り、冷静になったってことか?
「弟、行方、分からない?
私、私………」
その後、彼女は泣き出していた。
う、泣かれると困る?どうしよう?
泣きながらも話は続く。
試合で八つ当たりをしたとも話してくれた。
八つ当たりで殺すなよ?
でも、彼女にとって弟の存在は大きいようだ。
彼女にとっての唯一の肉親。
そう彼女は、私に教えてくれた。
「あなたの側、安心できる。弟と居るみたい」
私は、弟の代わりか?
いままでの振る舞いは、弟に対してか?
何となく、納得した。
そして、同時に絶望する。
肉親の情で見られたら、それ以上は無い!
私が、リリやナナに対する感情と同じものだろう。
いや、そうだ!別にいいんだ!
私が、彼女に抱く感情は肉親の情でいいんだ!
彼女にとって、私は弟の代わり。
それで、いいんだ!
それなら、間違いは起こらない。
うん、いいんだ!それで、いいんだ!
その日は、彼女をあやしつつ、彼女の話をただ、聞き続けた。
しかし、我を忘れると饒舌になるのか?
あれかな?
普段は言葉を選んで話して、怒ると感情のまま話す。
例えとしては、文系少女が、普段は頭の中で一杯考えているけど、言葉に出せない。
そんな感じかな?
普段から、普通に話せれば良いのに?
女の子はよく分からんな?




