会話って大事?
翌朝、まったく眠れなかった。
隣ではすやすやと安眠を貪る彼女がいた。
私は日課の早朝トレーニングの為、部屋を出ようとすると彼女も起き出した。
「う~ん、どこ行くの?」
私はドアノブに手を掛けたまま動けずにそのまま返事をする。
「朝の鍛練ですけど?」
なぜか丁寧語で話してしまった。
「そう、じゃ一緒」
後ろでゴソゴソと服を着る音が聞こえる。
ふ、振り向きたい!
これはアレだ! いわゆるラッキースケベというやつか?
返事のついでに振り向けばそこには着替え途中の美少女が。
『やだ!こっち見ないで♪』
な~んて言われて。
『あっ、ごめん。うっかりしてた』
みたいな受け答えが。
出来るかー!
私はロリではない! 断じてない!
こんな姑息な罠に引っ掛かるものか。
そうだとも、男は紳士でなくては。
大丈夫だ。私は冷静だ。冷静だから振り向いたりしない。
しないったらしない!
それに、チャンスなら昨日の夜からいくらでも、って何考えてるんだ。
だ、駄目だ!全然冷静じゃない……
なんて邪な思いと戦っているうちに。
「じゃ、行こ」
「はい」
私は邪な思いに勝った。だが、なぜか虚しい?
私の朝の鍛練は村に居たときと代わらない。
街を一周し、型の復習をし、朝ごはんを食べる。
その後は人目に付かないように魔術の練習をする。
私が初級魔術以上を使えるのは秘密だ!
何故なら切り札は取っておくものだ!
と、どこぞの主人公が言うように、私の今の境遇で全てを晒すのは不味いと思ったからだ。
いざとなったら魔術で切り抜ける!
しかし、魔術が封じられるとどうするか?
そこが問題だ!
魔術の練習を昼前に切り上げ軽く昼食を取る。
その後は兵士の練兵所で、兵士達に混じって実戦訓練だ。
そして、夕方には宿に戻り井戸の水で汗を流して夕食を取る。
その後は、魔力を高める為に瞑想をして睡眠。
出来れば本を読みたい所だが奴隷の身分では本は買えない。
いや、買えなくもないが高すぎる!
私は興行で試合に出て勝利したことで金を貰ったが、余りの少なさにガッカリしてしまった。
何でも成人前の奴隷には金は必要ないらしい。
15で奴隷から開放されるのでそれまでは金が出ない。
例外的に一部の奴隷にはほんの僅かに貰えるようだ。
戦奴、姓奴隷等はだ。
今は三食食べられるし寝床もある。
おまけに美少女付き!
これで文句を言えば罰が当たる。
そう割り切ることにしよう。
ちなみに美少女は昨日から付いたが。
そして今、その美少女と朝のトレーニングをしている。
彼女『レティ』は私の鍛練に難なく着いてこれた。
奴隷になってから私の鍛練が気になったのか何人かの護衛や、同じ戦奴が私の鍛練に着いて来ようとしたが、朝の街内一周マラソンだけで根を上げてしまう始末。
午後からの実戦訓練に至ってはまったく相手に成らなかった。
だが、レティは涼しい顔で着いてくる。
想像以上に彼女の実力は高い。
昨日は魔術を使わずに戦って完敗だった。
はたして魔術を使っても勝てるだろうか?
私は朝食の後、昨日レティに負けた街の郊外に来ていた。
何時もなら魔術の練習をする所だが、私は彼女に関して気になっていることが有った。
こんな時はコソコソと回りくどい言い方はしない!
直球勝負だ!
「レティ、君は闘気が使えるね?」
彼女は私に近づいて来る。
私の目の前で止まり私の目を直視する。
その瞳に見つめられると顔が上気してしまいそうになるが、これは真剣な事だ!
私も負けずに彼女の目を見る。
「何で?」
素直に聞いてくる。
と言うか、この何ではどういう問いだろうか?
『何で、分かったの?』
『何で、そんな事聞くの?』
『何で、闘気を知ってるの?』
こんな感じでたくさんの問いがある。
私は考えている間に抜けた顔をしたかも知れない。
そんな私を見てレティは溜め息を着いて私に答えをくれた。
「何で、教えて?」
更に私は間抜けな顔になっただろう?
思わず肩の力が抜けて脱力してしまう。
昨日から気になっていたのだが……
彼女との会話には通訳が必要かも知れない。
そう思う、朝の素晴らしい一コマだった……




