今日も生きている?
フゥ~、今日も生き残った。
私は、控えの間で壁にもたれ掛かっていた。
私が奴隷に、戦奴になってから一年が過ぎていた。
この一年間は、剣闘志として戦っていた。
危ない試合が何度もあったが、無事こうして生きている。
それもこれも、ノーマンやマーサに教えて貰った戦闘技術のお陰だ。
この世界というか、どこの世界でも何かしら戦う術は必要だ!
前世では、それが何だったのか?
それは、個人で在れば、知識で有ったり、純粋な筋力で有ったりするのだろうか?
正直よく分からない?
ただ、知識は必要だった!
知っているのと知らないとでは、結果に差が表れていたからだ。
そう、知識は必要だ。
だが、今いるこの世界では、単純明快な物理的な戦闘力が必要だ!
強くなければ、ある程度の自由や権利も得られない。
今の境遇から抜け出す為には、とにかく強さが求められる。
そして、それを与えてくれたこの世界の両親に感謝している。
私は、今日の戦いを思い返していた。
相手の選手オルタスは、正直今まで戦って来た相手の中では一二を争う強敵だった。
結果は、呆気なく勝ったが、見た目程、楽勝ではなかった。
事前に、オルタスの戦いを見ることが出来たのが大きい。
オルタスは、見た目程鈍重ではなく、また、力任せの戦法を用いない。
自分の身体能力を無駄なく使っていた。
強そうな相手には、小刻みなステップを踏んで、相手に徐々に近づき、直ぐには間合いに入らないようにしていた。
フェイントを入れながら、戦槌を振るってくるその姿は、間近に見るとへたり込んでしまうだろう。
当たれば、体の一部を砕かれるか、抉られるかのどちらかだろう?
だが、欠点もあった。
オルタスは、自信家の面があった。
自分が、強者で在ることを自覚し、相手を低く見てしまうところだ。
だから、態と足を震えさせて見せれば、相手から突っ込んで来るだろうと予測した?
結果は、予測した通り。
後は、足下に魔法でいくつか凸凹な地面を生成させて躓かせて、体勢を崩させる。
そして、チェックメイト。
あんなに、呆気なく勝てて少し拍子抜けしたが、実際はドキドキものだ!
もう一度戦えと言われても、御免被る。
だが、オルタスに勝ったおかげで、この街での試合が組まれることは、もうないだろう?
次の街までは、試合は無いはず? だよな?
私は、頭を降って思考を止める。
今、考えても仕方ない。
今日はもう宿に戻ろう。
肉体的よりも、精神的疲れた。
まだ、日は高いが、勝った後はある程度自由にしていい決まりだし、宿に戻ろう。
私はそそくさと、闘技場を後にする。
宿に戻ると、一階の酒場では私が所属している傭兵団の仲間が、昼間から酒を飲んでいた。
「よう、今日も勝たせて貰ったぜ」
「いや~、今日も酒が旨い!」
「次も頼むぞ♪」
傭兵団の連中は、私に賭けて勝ったようだ。
初めて会った頃は、
「死ぬなよ、坊主!」
「無理だと、思ったら直ぐに降参するんだぞ」
「まだ、若いのに御愁傷様」
等と、心配と冷やかしが半々だったのに?
今では、心配されるどころか?
「今日も勝つんだろ?」
「楽勝だよな♪」
「てめえに全額賭けてんだ!ぜってぃに勝てよ!」
「頼む!勝ってくれ! 勝って俺達に酒を」
勝つのが当たり前ようになっていた。
いや勝たないと、死んじゃうから勝つけどね?
傭兵団の仲間と言ったが?
正確には、仲間でも何でもない?
そもそも彼らは、奴隷ですらない?
ただの傭兵だ。
私はとある傭兵団に買われて、傭兵兼剣闘士をしている歴とした戦奴だ!
まぁ、奴隷の仕組みは、詳しくは知らないので説明しにくいのだが。
私は、酔っぱらいの連中を適当にしらい、割り当てられた部屋に戻る。
固いベッドに大の字になって眠っていた。
二時間ほど横になっていただろうか?
不意に扉が開かれる。
同部屋の相手が、帰って来たようだ。
こいつはきっと、今日の私の戦い方を見ていただろうから、開口一番こう言うだろう?
『あれは、何?』 と
扉が開かれ、相手が部屋の中に入って来る。
私は、ベッドに寝たまま顔だけは相手を見る。
そして、相手は私の顔の近くまで顔を寄せて、
「あれ、何?」
おしい! 一字違いだった!
「聞いてる?あれ、何?」
更に顔を近づけて来る。
「え~と、勝ちました、よ?」
「知ってる。それで、あれ、何?」
会話にならない。
私は、困り果てていた。
私の相部屋の人間に、
レティに!
とうとう、やっとヒロイン登場?




