葬儀?
マーサが亡くなった。
葬儀は、疫病で亡くなった村人達と一緒に行われた。
マーサを荼毘に臥すときリリとナナが泣いていた。
かわいそうだと。
炎で焼かれるマーサを私とノーマンはただ、黙って見ていた。
村の墓地にマーサの骨を埋葬する。
ノーマンと私は黙祷する。
ふと、墓石を見る。
マーサの名前だけが彫られている。
「あっ、母さんいくつだっけ?」
思わず声を出していた。
マーサの年齢を私は知らない。
何時だったかマーサに年齢を聞いた時があったが、
「女性に歳を聞くのは、失礼よ!気を付けなさい」
と、かわされた。
ノーマンに聞いてみると。
「あー、確か、さんじ」
ノーマンはそこから先を言わなかった。
いや、言えなかった。
何故なら、私の後ろにマーサが立っていた。
鬼の形相で、
「何の話。ノーマン?」
「いや~、なんだっけ?」
棒読みですよ?ノーマンさん。
そんな感じで私はマーサの年齢を教えてもらえなかった。
するとノーマンが。
「そうか、おまえは知らなかったな?」
「母さんの年齢は、……」
そうか、そんなに若かったのか?
えっ、いくつだって?
そんなの教えられないよ。
マーサの年齢がいくつだなんて怖くて教えられない。
マーサの年齢を教えてもらって気づく、私は家族のことをあまり知らなかった。
マーサの葬儀から幾日か経った。
ノーマンは忙しかった。
あの疫病で村人が18人亡くなった。
そのなかにマーサが入る。
ノーマンは疫病による被害を書類にまとめ、セルラス伯に報告しないといけない。
悲しんでいる暇はなかった。
ノーマンは亡くなった村人の家々を訪ね、話を聞き、報告書を纏める。
1日がそれに費やされる。
マーサのことを考えないようにしているのかも、しれない。
私はというとあまり変わらなかった。
朝起きて、ランニング。
朝食をとって、素振りを少し。
子供達が屋敷に来ると読み書きと算数を教えて、昼間になるとリリとナナと一緒に剣の稽古と、魔法の練習。
夕暮れになると夕食の支度。
ノーマンと一緒に夕食を食べてお片付け。
その後は、自分の勉強をする。
ノーマンが買ってくれた本でこの世界の知識を蓄える。
そして、夜更かししないように早めに就寝。
疫病がおこる前のいつもの日常。
そんな我が家に少しだけ変化があった。
変化といってもエルク親子が離れから屋敷に移り住んだことだ。
私とノーマン、シルバァだけではこの屋敷は広すぎる。
そして、……淋しい。
ノーマンがエルクに頼んで移り住んだのだ。
屋敷はマーサが居たときよりも騒がしく、明るく感じた。
食卓を大勢で囲む。
その日の出来事をみんなが話す。
一家団欒の風景。
でも、楽しい時間のはずなのに、あまり嬉しくない。
マーサがいない。
それだけで、全然違う。
そして、ある日の夜。
私は夜中に起きてトイレに行き部屋に戻ろうとした時、書斎に灯りが見えた。
まだ、ノーマンが起きているのかと思い部屋に近づく。
そこからノーマンの声が聞こえた。
「くそ、なんで、なんで、どうして!」
ノーマンの悔しげな声が聞こえる。
書斎の扉が少し開いていたので覗き込む。
ノーマンは拳を握り机を叩いている。
眼からは涙が流れていた。
ノーマンはマーサが亡くなってから、1度も泣いている姿を見せていない。
ノーマンが人前で涙を流す姿は、私が知る限りない。
「家族が悲しい顔をしていたら、マーサが安心出来ないだろ。
だから、笑顔で送ってやろう。」
ノーマンは葬儀の時、そう言って微笑んでいた。
いつもの爽やかな笑顔ではなく、どこかぎこちない作り笑いをしていた。
そんなノーマンが泣いていた。
一人で泣いていた。
私はそんなノーマンに声をかけることはできないと思った。
なんと声をかけたら言い。
色々考えるがまったく浮かばなかった。
そして、私がノーマンなら声をかけて欲しいだろうか?
いや、私なら泣いている姿を見られたら、恥ずかしい。
笑顔で見送れといったのに。
自分は一人、女々しく泣いている。
そんな姿を息子に見られたら!
私なら恥ずかしくて恥ずかしくて逃げ出したくなるかもしれない。
ここは、そっとしておこう。
私はそう思い扉から離れて部屋に戻ろうとした時。
ギィ。
「誰だ!」
し、しまった!
そう思った時にはすでに遅かった。
扉の前にノーマンが音を立てずに立っていた。
は、はや!?
ほんの一瞬の出来事だったがノーマンの反応は速く、私はまったく反応出来なかった。