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7.手を伸ばす。例え腕が千切れても

短いです

「ねえ」


「ん?」


「大好き」


ある日彼女は唐突にそう言った。

神秘的で膝まで届く長い銀髪をふわりと揺らして、血色の瞳を穏やかに細めて、処女雪のように白い頬をほんのりと朱に染め、暖かな手を俺の頬に添えながら。

俺の眼球を正面から覗きこんでそう言った。

俺は少し気恥ずかしくて。だけどやはり嬉しくて。


「勿論、俺もだ」


上手く声を出せなくて。しかしちゃんと伝えたくて、彼女の耳元でそう言った。

少女はくすぐったかったのだろうか僅かに身をよじりながら、満足げに俺の頭を自らの胸に抱き寄せ、そのまま俺の頭を撫で始める。

暖かくて、柔らかくて、ボーっとして、安心する。


「あ、い、し、て、る」


ゆっくりと、耳元でそう囁かれた。


「ん……」


溺れそうな程に幸せで。沈みたい程脱力させられ、声を出すのも億劫で、感謝と返事を込めて彼女の胸に頬を少しだけ押し付ける。


「くすぐったいよ」


言いたい事が伝わったのだろう、そう言った彼女もやはり幸せそうで、その声音(こわね)何処(どこ)までも俺の耳に染みこんでいく。


「……」


「……」


トクン……トクン……


彼女の心拍がまるで子守唄のようで、(まぶた)がどうしても上がらない。


「……目、とろーんってしてる……かわいい……」


男としては「かわいい」と言われるのに少々抵抗があるが、しかし彼女が満足してくれるなら別に良いかと、俺は結局抗議しない。


「……」


「……」


彼女の吐息。彼女の心拍。体温、柔らかさ。

五感を支配するのはただそれだけで。

世界にあるのはそれが全てで。

彼女が俺を受け入れて、俺は彼女に溺れきって。

ひどくひどく幸せで。


「昨日は私が甘えさせてもらったから……今日はなーくんが甘えてね……」


麻薬のように依存してしまう。


彼女の事が好きだ。

彼女の事が大好きだ。

彼女の事を愛してる。

愛しくて愛しくて、狂おしい程愛しくて。


「、」


それを言葉にしようとしたところで、口にそっと彼女の指が添えられる。


「だいじようぶだよ……ちゃんと解るから……だから今は……とことん私に溺れて……」


そう囁かれて、今度は掌で瞼を閉じられた。

彼女に優しく包まれていると、ひどくひどく眠くなる。

幸せで。安心して。

まだまだ彼女を感じてたいのに。

もっともっと愛し愛されたいのに。

どうしようもなく眠くなる。

しかし彼女はどうやら俺がうとうとしてる様子が好きなようで、俺が抵抗するのを許してくれない。どんどんどんどん眠気を量産してくる。


「……、……」


彼女が何かを囁くが、それはもう吐息と言っていい程ささやかな声で、明確に何を言ったかは解らなかった。

しかし言いたい事はだいたい解る。


好き、好き、大好き、愛してる。

どうしようもなく愛してる。


嗚呼。

そんな事を、そんな囁きで言われたら、幸せで幸せで幸せで、思考がとろとろと溶けて行くじゃないか。

もう、何も、考えられない。

否。

彼女が愛おしい、もうそれしか考えられない。

彼女に溺れる。

彼女に沈む。


愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してるーーー


互いにそう思い合ってるのが解ってしまう。

俺と彼女は解り合ってしまう。

ただそれしか考えられない。

ただそれしか解らない。

俺はもう他に何も考えられなくなって。


互いに溺れ合いながら、俺達は意識を手放した……




◆◆◆




不死鳥(フェニックス)は炎の中から甦る、そんな伝説があった気がする。今対峙しているこの魔物はその伝説通りに、コアが破壊されてなお復活した。


トクン……トクン……


彼女の心拍が……愛しい愛しい彼女の心拍が、刀から俺の手に伝わってくる。


トクン……トクン……


彼女は俺が殺した。魔物化しかけた彼女の(コア)を俺が斬ったから。


トクン……トクン……


彼女の血肉は、コアは、残らなかった。

否。

この刀に取り込まれた。


トクン……トクン……


その刀が、今彼女と全く同じ心拍をしている。

おそらく、不死鳥の焔を喰ったために。

嗚呼、嗚呼。

涙が出そうになる。嬉しさと希望と渇望と狂おしいほどの愛しさがないまぜになったぐちゃぐちゃな感情が溢れてきて。


逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい。


この5年間、寂しさで狂いそうだった。

まるで砂漠のように頭が乾いた。

まるで凍土のように心が冷えた。

欲しい、欲しい、欲しい、欲しい。

彼女(みず)を求めては更に渇き。

彼女(ぬくもり)を求めては更に凍え。

手を伸ばしてはただ空気だけを掴んできた。


トクン……トクン……


もっと不死鳥の炎を食わせれば。

もっと不死鳥を斬り刻めば。

彼女に逢えるだろうか。

彼女に届くだろうか。




「なあ、どれだけお前を斬り裂けば、何度お前を殺したら、彼女に触れられる?」




さあ。

この鳥を殺し続けよう。

彼女を抱き締められるまで。

ああ早くいちゃらぶ書きたい

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