5.慟哭(どうこく)する刃
崩壊した世界という事で、義務教育や道交法に反するシーンがありますが、バイク乗るならヘルメット被ってくださいねー。
前回までのあらすじ。
強い魔物発生してヤバイよ。リア充爆ぜろ。
彼女と初めて会ったのは9歳の頃。今から10年前の事だ。
俺の母親は俺がまだ幼い頃に病で死んだ。だからほとんど覚えていない。
父親は騎士でそこそこの地位を築き忙しくも多くの人間に慕われていた。しかし家事が壊滅的で、仕事で家に帰れない事も多々あった彼は、友人の家に俺を預ける事が多かった。
10年前のその日も父親の仕事仲間である友人宅へ預けられ、一晩泊まらせて貰う予定だった。
そこで俺は彼女に会った。
大人しく優しげで、後天性アルビノを患った同い年の女の子。
二年経って俺が11歳になると父親が殉職。俺は彼女の両親へ引き取られ、しばらく共に暮らす事になった。
はずだった。
義父と義母は父の後を追うようにして殉職したのだ。
幸い金には困らなかったが、俺と彼女はハンターになった。
特に親しい友人もいなかった俺らは学校に行き続ける理由もなかったし、保険が効くものの堅苦しい騎士になりたくはなかった。
俺は刀の扱いを、彼女は魔法を親から教わっていたため、下手な低ランクハンターよりも戦力にはなるだろうと。
実際、一人前と見なされるCランクまではさほど時間はかからなかったし、14歳の時にはAランクとなっていた。
いつからだっただろうか。彼女と抱き締め合って眠るのが当たり前になったのは。
いつからだっただろうか。彼女と一緒に入浴するのが当たり前になったのは。
いつからだっただろうか。彼女が傍にいないと不安でしょうがなくなったのは。
いつからだっただろうか。彼女が愛しくて愛しくて仕方なくなったのは。
彼女といると幸せだった。彼女が俺の全てだった。
そして俺は俺の全てを、俺自身で斬り刻んだのだ。
◆◆◆
「【愛してる】」
魔鳥へ向かい走りながら小さく小さく、誰にも届かないようにそう呟いて、刀に風の刃を幾重にも纏わせる。
「【爆風】」
加速する。
彼我の距離がみるみる内に縮まり、肌が熱気でチリチリした。
魔鳥が焔のブレスを放つ。火炎放射の如きソレは範囲が広い。避けれなくはないが、体力と魔力の無駄な消費を抑えるために正面から飛び込んだ。
炎が俺に触れる寸前、刀を縦に振り下ろす。
「……ッ」
ざしゅ、と、肉を斬った幻聴がして、焔の海が縦に裂ける。
手に、刃に、血肉がまとわりつくような錯覚がした。血の臭いを嗅いだ気がした。
接近戦は不利と判断したのか、鳥は羽根で大気を蹴って空高く飛び上がる。。
逃さない。跳ぶ。
「【天駆け】」
更に魔法で足元に圧縮した空気を作り、踏み込む瞬間爆発させる事で空を駆ける。
数十mほど上空で鳥は翼を大きく広げ、羽のような細かい炎をガトリングのようにばらまくが、
「……【天使の滂沱】」
【聖女】が杖から同様の光弾の雨を射出する事で、半分近くを相殺される。空いた隙間を俺は通り抜けた。
魔力というのはとんでもなく柔軟性、応用性を持っている。
魔法とは魔力を変換し何がしかの現象を発生させることだ。そのため魔力から火を生み出しても、それは酸素と何かの燃焼反応ではないし、氷魔法も固体H2Oではなくそれに良く似た魔力である。光魔法で発生させた光だって、秒速30万km 近く出たりはしない。
火の粉が踊り狂う中を突っ切って鳥の懐へたどり着く。
「墜ちろ」
すれ違い様に翼の付け根に刃を這わせる。
いつもの如く彼女を斬った感触に襲われ一瞬悲鳴をあげたくなる。
風を纏った刀に斬られたために、本来一筋の斬り痕のみがあるはずのそこは、チェーンソーか何かで斬られたかのようにズタボロだ。
やはり、一撃で斬り飛ばせはしないか。
付近一帯の魔力を飲み込んだ化け物なのだ。流石に一刀両断というのは難しいらしい。
しかし一瞬とは言え片翼の制御を失った鳥は僅かにバランスを崩してしまった。
この場において、それは致命的だった。
「【俺様に倒せぬものがあるはずない】!」
轟いたのは自信だった。
己への絶大な信頼。悪く言えば傲慢、良く言って自信家。一言でいうと馬鹿野郎。
「はあああっ!!」
バカでかい大剣を振りかぶった【絶壊】が裂帛気合いを入れて鳥の胴体をかっ捌く。
「【爆散】!」
喧しい音と爆炎が炸裂し、5mもの体躯を誇る鳥が真横へとすっ飛んで行った。
「……【必滅の槍】」
更に【聖女】が一本の長大な光の槍を紡ぐと、それは狙い違わず鳥に直撃し、曇天の下で落雷を連想される閃光を撒き散らながら赤金の鳥を地に叩きつけた。
「……」
おかしい。弱すぎる。
周囲から魔力を食い尽くして発生した個体にしては脆い。不自然にも程がある。
何かある。
しかしどうせやる事は変わらない。
魔物を殺す方法は、体の何処かにある核を破壊するしかないのだから。大抵の場合心臓や頭辺りに存在するが、中には尻尾や腕にコアを持つ魔物もいる。
ならば俺の仕事は、頭か胸を中心に斬り刻む事。
地に墜ち砂塵を盛大に巻き上げた鳥に尚も追撃をかける。
鳥の真上へと【天駆け】で移動し、そこから急降下。
風が轟轟と唸るがそれを置き去りにし、彼我の距離が半分を切った所で砂塵の中から再び羽のような細かい炎が放たれる。
しかし、その数が先程よりも遥かに多い。
その焔は一つ一つが小鳥であるかのように複雑な軌道とタイミングで此方を飲み込もうと殺到してきた。
いくつかは魔鳥程度、5m程に大きく動きが遅いものが混ぜられている。
更に追加の熱線が10本以上。
濃密で嵐のような弾幕だった。
まず正面を狙ってきた熱線を紙一重でかわす。熱線を影にして飛んで来た羽根は更に加速し前へ進んでやり過ごす。大きい火球は斬り裂き、また避けては斬るを繰り返す。
一瞬のミスが致命傷か死に繋がると理解して、俺はは止まること無く鳥への最短距離を駆け抜けた。
【絶壊】と【聖女】はお互い庇いながら焔を防いでいる。
ピイイィィィィィィヒョロロロローーー
鳥が焔を鎧のように纏い飛び上り、ジャベリンの如く突進して来た。
熱気で気管を焼かれぬように呼吸を止め、真っ正面から斬りに行く。
一瞬だけ、目を閉じた。
「【大好き、愛してる】」
その言葉を引き金にし。自分から真っ黒な思い出を紐解いて。思考をただただ黒に染めて。
巨大な炎槍を斬り裂いた。
ビーーーーーーーーーッッ!!
叫び声は響かない。何故なら鳥の頭を吹き飛ばしたから。
全身に返り血を浴びたかのような錯覚に陥るが無視。
鳥はまだ生きている。なら核は頭に無い。頭を斬った事で弾幕も収まった。
しかし火炎の鎧はまだ消えてない。俺の一撃で一瞬吹き飛ばしたがすぐ元に戻るだろう。一旦退く。
「【爆散】!」
入れ替わるようにして【絶壊】が鳥の胴を薙ぎ払ったが、傷を与えたもののまだ浅い。
再生してやがるな。
炎の鎧が掻き消えた一瞬、俺が斬った翼の根元が元通りに治ってたのが見えた。
魔物はどいつも核を破壊しなければ再生するが、こいつは今まで見てきた魔物の中で最も自己再生が早い。
「【ヤドリギの芽矢】」
【聖女】が魔法を紡ぎ上げる。
蔦が細長く絡み合った矢のような、ともすればドリルにも見える弩矢を放ち、それと同時に【絶壊】が退く。
ピイイィィィィィィヒョロロロロrrrrーーー
着弾したものの、鳥は煩い虫でも払うかのように炎を上げて羽根を振り咆哮した。
【絶壊】の与えた傷がもう回復してる。
「不死鳥か、こいつ?」
「俺様も同感だ」
この鳥……不死鳥は焔を纏う度に傷が回復している。
脆いと感じていたが、その分再生に魔力を割いているのたろう。
だがしかし。結局やる事はいつもと変わらないのだ。
再生が追い付かないほ斬り刻んで、コアを破壊すれば良いだけの話。
「【好き、好き、大好き、愛してる】」
小さく小さく呟いて、真っ黒な記憶で自分を汚して、ギアを最大まで引き上げる。
刀に濃密な魔力を流し込んで、風の刃を更に増やす。
ピイイィィィィィィヒョロロロロロロロローーー
再び不死鳥が弾幕を放ち、熱気と閃光で世界が赤く染まった。
「馬鹿ップル、道開けろ」
「俺様に命令するな」
「後でカフェのペア割引券くれてやる」
「乗った」
「……(コクリ)」
俺は馬鹿二人をさくっと売買し、魔力を刀に喰わせ続けた。
「【天使の羽根吹雪】」
「【終炎】!」
Sランクの人間(?)達はそれぞれ得意分野が異なる。
【絶壊】は【聖女】と組んでの対多、殲滅戦、範囲攻撃。
俺は対単、一点集中。
そのため俺は、弾幕系の魔法に対する迎撃力において【絶壊】達に及ばぬものの、しかし、一点を斬る、その部分では他者の追随を許さないのだ。
【聖女】が吹雪を放ち焔の弾幕に隙間を開け。
【絶壊】が爆炎を纏わせた大剣を振るって道をこじ開け。
「【爆風】」
その道を俺は駆け抜ける。
彼我の距離を零にする。
目を閉じる。
追憶する。
彼女の肉を、骨を、髪を斬った感触。
彼女の血を浴びた感触。
彼女の体温。彼女の吐息。
『好き、好き、大好き、愛してる、刹那』
彼女の事が好きだった。
彼女の事を愛してた。
約束した。ずっと一緒にいようと。
約束した。必ず守り通そうと。
俺が斬った。
俺が殺した。
だから。
俺に斬れないものはない。
不死鳥の姿に彼女を重ねる。
抱擁を待つかのように両腕を俺に伸ばし。
口付けを待つかのように首を差し出した女の姿を。
「あああああぁぁぁぁぁぁあアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアあああああアアアアアアッ!!」
俺は再三斬り裂いた。
次回ヒロイン出したいなー(出すとは言ってない




