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4.仕事仲間(バカども)と【絶壊(ばか)】と【聖女(ブレーキ)】

ギルドカードから鳴るアラームが(やかま)しい。

ギルドカードは、かつて魔素が発現する前の時代に存在していた携帯端末と似ており主にハンターのライセンスとして利用されるが、都市の内部、及び周囲では通話と文のやり取りが可能で、時にギルドからハンターへ連絡が来る。


都市北東部森林エリアで魔素濃度の低下が危険域。都市内のハンターはギルドへ招集、ね。


走りながらカードへ目を向けると、物騒な文字列が並んでいた。

ゴーグルをかけて学校の駐輪場に停めていたバイクに跨がり発車する。


都市のあちこちから一斉に緊急警報が鳴り響き、人々が慌ただしく避難を始めたのが気配で解った。都市には多くの施設に大型のシェルターが設置されており、有事の際に一般人は皆避難する事になっている。

人気が無くなったのを見計らい、バイクの速度を思いっきり上げる。

エンジンがタンクから魔力が供給される事で回転数を上げるが、かつて燃料で動いていたバイクと違い魔導具であるこのバイクは静かなものだ。


少ししてハンターズギルド北支部……普段俺が利用してる支部に着くと、氷雨さんから「あなたが最後ですよ、刹那さん」と言われる。都市内で待機していた北のハンターはもう皆集合していたようだ。


「では全員揃ったのでブリーフィングを始めましょう」


ロビーにある大型スクリーンを操作しながら氷雨さんが話始める。

スクリーンには都市北東の地図と、赤い丸。


「調査班が北東森林エリアで発生予兆の中心部を発見。スクリーンで赤い点で示した場所です。魔素の挙動から強力な個体の発生が予想されます。対単、森林という点を考慮し、戦闘班は極少数、他は周囲で警戒と支援、不足の事態における伝達と防衛を行って下さい。戦闘班はウチから【絶斬】の刹那さん。南支部から【絶壊】の赤崎(あかさき) ギルバートさんと【聖女】安部(あべ) 真理亜(マリア)さん。後方支援班はーーー」


森林エリアという障害物の多いフィールドで対単体相手に大人数で挑むのは得策ではないのだろう。

やがて氷雨さんがハンターの配置を説明し終わると、周囲のハンター達は決戦前に仲間と語らい出した。


「一人じゃない。もう何も恐くない」「何かあったら妻に伝えてくれ。愛していると」「俺、この仕事が終わったらあの娘に告白するんだ」「 実は俺、お前のこと、一番信用してるんだ。これからもよろしくな」「このペンダント無くすと困るから持っててくれる?」

「なあ、俺達が組んでどれくらい経つ?」

「……五年弱ってとこか」

「もうそんなに経つのか。最初は喧嘩ばかりしててすぐ解散するだろうと思ってたが、案外長かったな」


「何で死亡フラグ建てまくるんですか!?」


がやがやと言い合う馬鹿共にツッコミを入れる氷雨さん。


「いやだって、乱立させれば折れるって言うし」


「馬鹿でしょう!? 馬鹿ですね! さっさと仕事に行って下さいノロマ共!」


『『ありがとうごさいます!! 蹴って下さい!!』』


何処までも馬鹿な仕事仲間達だった。




◆◆◆




曇天。

今にも雨が降りそうな程に暗い荒野をバイクで駆ける。


あの日も、こんな風に暗かったな……。


彼女を斬ったあの日も曇天だった。

曇りは嫌いだ。あの瞬間を思い出してしまうから。

曇りは好きだ。彼女の事を思い出す事ができるから。


「相変わらず、貴様は根暗な顔つきだな【絶斬】」


「……【絶壊】か」


もう一人のSランクハンター、【絶壊】の赤崎 ギルバート。

背が高く筋肉質な男で、赤い短髪と好戦的に見える黄金色の眼。

奴は後ろに【聖女】安部 真理亜を乗せた大型バイクでこちらへ寄ってくると獰猛な笑みを浮かべる。

【聖女】は二人乗りバイクの後ろで【絶壊】の腰に腕を回してくっついている。ゆったりとした法衣と長いプラチナブロンドの髪が風に揺れていた。碧眼だが【絶壊】に頭を押し付けている為に今は見えない。

二人とも確か23歳で、ハンターになったのは3年前。


「貴様と仕事するのは一年ぶりだな。前回はこちらがコアを頂戴したから今日は譲る。だg……」


「こんにちは……(またたき)さん……」


【聖女】が【聖女】たる所以(ゆえん)は優しさでも突出した光魔法のセンスによるものでもない。

絶壊(ばか)】の暴走を止めれる事にある。


「ん」


彼女の挨拶に適当な返答をして【絶壊(ばか)】をスルーする。こいつは声がでかいし馬鹿だし嫌いだ。


「おいマリア、俺様がしゃべっていただろ」


「……お仕事中……無駄話は控えるべき。でも、ごめんなさい……」


聖女(ブレーキ)】はそう言って、【絶壊】の背中に額を押し付け、奴の腰に回していた腕に力を込める。

法衣がゆったりしている為に身体のラインを知らないが、あの体勢では【絶壊】に柔らかい部分(どこがたは言わない)が押し付けられるだろう。


「むぅ……」


押し黙る【絶壊】。柔らかな笑みを浮かべる【聖女】。


「……よし、よし……いいこいいこ……。帰ったら沢山、好きなだk」


「聞こえてんぞ馬鹿ップル」


「!」


頬を朱に染めてビクッと驚く【聖女】。

クソが。死ねリア充共。爆発しろ。


「ん? 何だ? 羨ましいのか?【絶斬】」


「……」


「おい、【絶斬】?」


「……」


「……ギルが煽るから……。瞬さん、気にしないで……瞬さーん……?」


本音を言おう。


殺したい程羨ましい何あいつらこっちは二人乗りバイクに独りなんだよ背中にぶち当たる風がクっソ冷たいんだよあああもう四年間ずっと仕事も私生活も何もかも()()なんだよあえあいえ人肌の温もりなんて返り血でしか覚えてねえんだよ女の肌と髪を最後に撫でたのも刃でだよえあああえお香りだって血なんだよ覚えてんのはあばばっばばば声だって気管斬ったときのカヒュウって音が最後だったんだよあばばばばばばばっばばべば


「……ブツブツ……ブツブツ……abbabaくぁwせdrftgyふじこlp」


「壊れたな」


「……ギルが壊した……引き返してネジを拾わなきゃ……」


「随分なポンコツ扱いだな!?」


……はっ。

一瞬意識が飛んでいた気がするろ。

もう森が近付いてるのに迂闊だったろ。

あれ、なんかおかしいろ。

……まあいいろ。


「おい、【絶壊】、そろそろバイク降りるろ。森じゃ足で移動だろ。」


「……お、おう」


「……不安……この仕事すごく不安……」


バイクを森の外縁に停める。ここからは自分の脚で移動しなければならない。

俺が森の中へと走り出すと、数歩遅れて【絶壊】が【聖女】を抱き抱えて追い縋った。


……チッ。


やがて、数百メートルに渡り木々が消失して土が剥き出しとなったエリアにでた。発生予兆の中心部。

発生予兆を監視していた偵察班のハンターに【絶壊】が作戦内容を告げて交代する。


ゴオォォォーーー


風が出てきた。

気圧差で発生した風ではない。魔素があまりにも収束し、周囲から更なる魔素が吸引されているために起こる一種の魔法だ。

木のない広場の中心部を注視する。


そこには大量の魔素が集まっていた。

いや、最早魔力だった。可視出来るほどに、黒い。黒い。何処までも黒い。まるで小さなブラックホール。

魔素は生体内においてその形態を魔力へと変える。

魔素を原子とするならば、魔力は分子だろうか。

魔力というのは生物の個体それぞれで微妙に特徴が変わる。大まかな分類分けはできるものの、その実僅かに性質が変わるのだ。

振動、スピンの向き、魔力構造など。

振幅が大きく振動数が大きいとおよそ火属性となるが、色や温度などは個人差が出るように。


ゴオォォォーーー


魔素を吸引してるあの空間に近付けば一気に魔力を冒され魔物化してしまう。大抵の発生予兆の真中心50m以内は近寄る事すらできない。

遠距離から魔法を撃っても吸収されておしまいだ。


ゴオォォォーーー、…………。


…………。


風が止む。


「始まる」


「貴様に言われずとも」


【絶壊】はバカでかい赤褐色の大剣を、【聖女】は銀色の長杖を取り出す。

俺も刀を一振り、魔道具【異空間ポケット】から取り出した。

ボケ魔女相手に使った鋼製の刀ではない。

対魔物用の魔導具。魔銀(ミスリル)製のため本来銀色だが、真っ黒に染まってしまった愛用の一本。



トクン……トクン……




それは心音であり産声だ。




トクン……トクン……




黒い魔力のブラックホールが急に崩壊し、拳大の……そう、ちょうど心臓位の大きさの(コア)を形成した。


トクン、トクンと脈動する黒曜石のようなソレはいきなり莫大な量の紅蓮の焔を纏い始める。

火の粉が桜吹雪のように舞い散り、膨大な熱量で陽炎(かげろう)ができる。


グチュリ……


自然発生(オリジナル)型の魔物の、受肉だ。

焔が一瞬凝縮され、そして破裂した。




『ピイイィィィィィィヒョロロロロロロロローーー』




焔の中から産まれたのは、一匹の赤い鳥。

大きさは5m程だろうか。紅と金の体毛を持ち焔を纏った、魔物と呼ぶには神々し過ぎる気がしないでもない。


『ピイイィィィィィィヒョロロロロロロロローーー』


咆哮と言う程荒々しくない鳴き声だが、奴の周囲から火炎が吹き出す。50m以上離れてるこちらにすら熱気と火の粉が届いて鬱陶しい。


目が合う。


さて。

殺そう。

斬ろう。

いつものように。

何の躊躇も呵責も無く。


「死ね、鳥」


俺は一気に駆け出した。







データ消失恐い((((;゜Д゜)))

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