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11.闘いの終わり

その日、独立防衛都市「天原(あまのはら)」にはいくつもの話題で溢れかえっていた。

一年間半ぶりの発生予兆、それによる避難、厳重防衛態勢の展開、蘇生する新型魔物【不死鳥(フェニックス)】の出現、討伐成功。

この仕事を最後に、Sランクハンター【絶斬】(またたき)刹那(せつな)の辞職。


そして、五年前に魔物化しかけ、瞬刹那によって介錯(かいしゃく)された元Aランクハンター【常夜(とこよ)の魔女】真宵(まよい) 夜衣(よい) の宿った呪具が不死鳥の蘇生能力によって生き返り、都市がハンターズギルドからの脅hゲフンゲフン誠意(さつい)ある説得(きょうかつ)により、真宵夜衣を一人の『人間』として扱うことを決定した事など。


真宵夜衣は瞬刹那が監視という建前で24時間張り付くことや、彼女自身が元々練達した魔法士で極限状態での戦闘さえしなければ再び魔物化する可能性が限りなくゼロに等しいという点が、ハンターズギルドからの要請(あつりょく)を抜きにしても都市上層部が安全だと判断したこともある。

そのため真宵夜衣はハンターを辞める事と、瞬刹那が四六時中ずっと傍にいるということを条件に、人権ある人間として扱われる事になった。




◆◆◆




「ずっと一緒にいてください。一生、死んでも、俺の人生丸ごとやるんでお前人生全部ください」


「うん、いいよ♪」


遠回しに結婚してくれと言ったらあっさりと承諾された。

世界が変わって10年以上経った。

人類の人口が激減し多くの都市が滅んでネットワークが死に、別都市との交流がおよそ不可能となった今、プロポーズに宝石を送ったりすることはなくなった。

宝石なんていう稀少なだけで何の役にも立たない石ころよりも家や魔道具をプレゼントした方が遥かに喜ばれるし、ハンターや騎士なら武具を送る事が多い。

しかし俺はもう一戸建ての家があるしハンター辞めたしそもそも六年程前に夜衣に「嫁になってください」と言ってこれまたあっさり承諾されている。

今回再びこんな恥ずかしい事を言う羽目になったのには事情がある……なんてことはない。


「私も大好き大好き大好き大好き大好き大好き愛してる」


ただ単に夜衣(こいつ)が馬鹿なだけだ。

頭が悪いとか勉強できないという意味ではない。


「すーき、すーき、だ~い好き☆」


夜衣は俺の事になると頭のネジが飛んでしまうのだ。


「あ、い、し、て、る」


正面から抱き締められ、そっと耳元で囁かれ。

彼女の背中に腕を回し、優しく頭を撫で回す。


「私の全てをあなたにあげる。だからあなたの全てをちょうだい。もっと言って。好きって言って。撫でてぎゅーしていっぱいいっぱい」


「おい、俺は何度お前に告白すればいいんだ」


もう不死鳥を狩り色んな雑事をこなしてやっと家に帰りベッドに倒れこんで真夜中になる。

その間何度も何度も夜衣に愛してると言い抱き締めては撫で回した。勿論嫌ではなくむしろ永遠にこうしていたいが流石にこう連続で愛の告白をねだられると俺の貧相な語彙(ボキャブラリー)ではネタ切れだ。何より恥ずかしい。


「言って、くれないの……?」


「ごめんなさい愛してます大好きです本気ですだからその物騒な魔法をしまってくださいお願いします」


涙目かつ上目遣いで(背後に真っ黒なナイフを大量に生産しまくりながら)お願いされては断れない。

満足けな夜衣(アホ)の背中を手のひらでそっと撫でる。


「ふふ……くすぐったいっ……あはは♪」


何故こいつは囁くような声音でありながら艶のある声を出せるのだろうか。

夜衣の鳴き声がひどく耳に心地よくて、俺は右手で背中を撫でながら、左手で脇腹に指を這わす。


「ひうっ……ま、ま、あは♪……んふふふっ……も、……もうだめ、もうダメっ……ひゃぁっ……♪」


脚をプルプル震わせながら背中を仰け反らせビクビクと俺の腕の中で鳴く夜衣に(よめ)がひどくかわいくて綺麗で、目を離せない。

しかし流石にくすぐり続けるのも辛そうだったので、指を止めて強く抱き締める。


ぎゅー。がしっ。すりすり。


互いの脚を絡め合って頬を擦り合わせる。

それだけで、心がひどく満たされる。


「なー君」


「ん?」


「愛してる」


そう言って、夜衣が俺の頬に手を添える。


どくどくどくどく。


自分の鼓動がひどく耳障りだった。

彼女の手が暖かくて、心地よくて、うとうとする。

ねむい。


「ふふ……」


夜衣が微笑む。

愛おしげに。幸せそうに。

その笑みが堪らなく美しくて、愛しくて。

ずっとずっと見てたくて。

でもやっぱり眠くて。


「なーで……なーで……」


頭をそっと撫でられる。

ひどくひとく安心する。


ぎゅ。


いつのまにか俺は彼女の胸元に抱き締められており、柔らかな双丘に優しく迎えられた。

暖かくて、夜衣に包まれて。

ひどく幸せな気分になる。


「おやすみなさい……」


耳元で夜衣が囁く。

ゾクゾクするような気持ち良さとは違い、満たされるような心地好さが思考を支配してゆく。

抗いようのない安心感と多幸感に包まれて、俺の意識は沈んでいった。

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