10.闇色の安寧
ただイチャイチャを書きたかった。後悔も反省もしていない。
ぎゅー。
ぎゅぅううぅ。
なでなでなでなで。
すりすりすりすり。
……何か忘れてる気がする。
まあいいか。
ぎゅ。
ぎゅう~。
わしゃわしゃわしゃわしゃ。
ベッドの上で布団にくるまりながら夜衣と抱き締め合って、撫で合って、互いの肌を擦り合わせて。
じー。
お互いの眼球を覗き込む。
深紅のルビーのような左目と、深く深い夜闇のような真っ黒な右目を。
やはり何か忘れてる気がする。
ギョロり。
夜衣が笑った。しかし目が笑ってなかった。
「私と抱き締め合ってるのに、何を考えてるのかなー?」
あ、やばい。
「私だけ見て。私にだけ触れて。私の事だけ感じて。私の事だけ考えてよ」
「すまん、何か忘れてる気がした」
「それは私よりも大事なこと?」
「お前より、というか夜衣以外に大切なものなんてない」
彼女の暗い眼球を真っ正面から見つめながら言う。
安心させたくて、強く強く抱き締める。
「ん……苦しい」
「にやけてんじゃねぇか」
「ふふふ……だって、きもちいいから。なー君に包まれてると、暖かくて、安心して、すごく、幸せ」
夜衣はそう言って目を細める。
幸せそうに。心地好さそうに。蕩けたように目を細める。
その表情がひどくかわいらしくて。
その表情がひどく美しくて。
頬に手のひらを添えてそっと撫でる。
「ひぅっ……くすぐった、ふぁあぁ……」
うりうり。なでなで。
「んぅ……あぁ……はむ」
反撃のつもりだろうか、指を唇で甘噛みされた。柔らかくて暖かくて、しっとりとした夜衣の唇。
「んむっ?……んん、れろ……」
唇の隙間から指を彼女の口腔内に滑り込ませると、初めは驚かれたがすぐに受け入れられ、甘噛みされ舐められる。
にゅるりとした夜衣の舌と指を絡めると、彼女は積極的に俺の指へと舌を這わせて甘噛みしてきた。
「りゅ……れろ、れろ……あむ……ちゅ」
その仕草が、行動が、妙に艶かしくて。
俺は彼女から目を、思考を、離せなくなってしまう。
「ふふゅ」
彼女が笑う。
そのふんわりとした笑顔がひどくひとく愛おしくて、自分の顔が緩むのを感じた。
「あむ……れろ……ちゅ…………ん」
やがて夜衣は最後に口づけを1つ俺の指に落とすと、今度は俺の頭を自らの胸元に抱き寄せた。
柔らかくて。暖かくて。ほんのりと、微かに甘い香りがして。
というかぶっちゃけよう。夜衣は巨乳だ。
しかし決して下品な大きさではなく、形が崩れることもなく、美しいお椀型を保ち、柔らかくて、そのくせ適度な弾力がある。
「……」
夜衣がそっと優しく俺の頭をを手のひらでゆっくりと撫で、慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。
……女神かと思った。
ふぅ~~ーー……。
耳に吐息を吹きかけられる。
耳の中をくすぐられたかのような快感とこそばゆさが通り、背中がゾクゾクと震えてしまう。
「ふふ」
「……もっかい」
「ん……いいよ……いくらでもしてあげる」
ふぅうーーー……。
そっと耳元で囁かれ、今度は耳たぶ全体を暖めるかのような柔らかい吐息をかけられた。
「……やばい、これ、きもちいい……」
先ほどのゾクゾクするような快感ではなく、優しく包まれるかのような暖かい心地好さ。
「……やっぱり、なーくんが目を閉じかけて、とろーんってしてるの、すごくかわいい……」
そっと囁かれる。
吐息に耳たぶをくすぐられ、それたけでゾクゾクしてしまうが、そのくせ、柔らかな声に眠気を誘われ、目を開けていられない。
「大丈夫だよ……どんな悪夢からも……私があなたを守るから……」
夜衣が言う。
彼女に包まれて。囁かれて。撫でられて。愛されて。
溺れる程に幸福で。
ひどくひとく安心する。
「【幸夢】」
夜衣が魔法を使う。
彼女の魔力に包まれて。彼女の魔法に守られて。
暖かくて。安心する。
「……、……」
おやすみなさい。
愛してる。
そう彼女が言った気がした。
そう彼女が微笑んだ気がした。
愛してる。
俺もそう言おうとして、しかしそれが言語になったか、おぼろげな意識ではわからない。
でも、夜衣がとても嬉しそうに微笑んでいるから、きっと伝わったのだろう。
愛してる、愛してる、愛してる、愛してる。
愛してる、愛してる、愛してる、愛してる。
互いに同じことを想う。想い合う。
もっと彼女と愛し合いたいけれど、眠気が限界だった。この五年間、一度として深く眠っていないのだから。
暖かい。柔らかい。幸せで、心地好い。
まぶたが閉じる。
彼女を全身で感じながら意識を閉ざす。
彼女に身を、精神を委ね、安心して眠る。
悪夢は、見なかった。