第6球 エースと四番の離脱
3番の山室が送りバントを決めて、1アウト3塁。打席には4番バッターのドーズ。
「4番キャッチャードーズ」
ニューヨークの英雄ドーズが右打席に立った。衰えてはいるものの、とてつもない威圧感をバリスタは感じていた。
(アコガレノドーズサンガ、ワイノメノマエニオルゾ……)
(バリスタ力を抜け。こんな老害、フォークで三振にしてやれ)
(ワカッタゼ)
1球目、全力投球で投げた152km/hのストレートが真ん中に……。
(馬鹿野郎!)
(シマッタ)
「モラッタゼ」
ドーズはニヤリと笑い、ホームラン狙いでバットを振った。
「ストライーク」
何と、元メジャーリーガーのドーズが、ど真ん中のストレートを空振りしたのだ。
「アブナカッタ」
「ッチ、イガイトハヤイジャネェカ」
「コレデモオレハムカシ160km/hノストレートヲナゲタコトガアルノデスカラ」
「オレハストレートニハメッポウツヨイゼ」
「ナラバ、ストレートショウブデイキマショウカ?」
「ノゾムトコロダ」
バリスタの嘘を真に受けて、3球目の甘いフォークボールで空振り三振。
「ガッデム!」
ドーズは地面にバットを叩きつけた。かなり御乱心の様子である。
「キサマ、ウソヲツイタナ」
「ショウブノセカイニ、ウソモホントウモアリマセンヨ」
「フザケルナ!」
怒りに燃えるドーズが、ヘルメットを投げ捨てて、バリスタに殴りかかった。乱闘である。
プロ野球の紅白戦で、味方同士の乱闘。赤組と白組が止めに行くものの、肉弾戦車と化したドーズは止まらない。
ひたすら殴る蹴るの暴行。バリスタは悲鳴を上げて逃げ続けるも、豪腕のラリアットや飛び蹴りがバリスタを襲った。
「ユルシテクダサーイ」
「イキノネヲトメテヤル!」
「オーマイガー」
ついに警察沙汰になり、まもなくドーズは暴行罪で逮捕された。しかも、バリスタは全治7ヶ月の重症。貴重な先発エースと4番を失った阪海は絶望の淵に立たされてしまう。
しかし、この惨状で1人喜びの声を上げている者がいた。
その男の名前は、一二三。去年は阪海ワイルドダックスの正捕手だったが、ドーズの加入で控え捕手に降格されていたのだ。
「ブュフフ……俺の時代が来たで!」
今年で37歳の一二三。もう後が無かっただけに、ドーズの逮捕に歓喜を感じている。
「嬉しそうですね」
ベンチにふんぞり反って、ガッツポーズの一二三に声をかけてきたのは鈴木だった。どこか浮かない顔をしている。
「どうしたんや鈴木?」
「ドーズさんとバリスタさんが離脱したんですよ。そんな態度は無いでしょう」
気だるそうに鼻の穴をほじる一二三。
「鬼崎のジジイも怪我すればいいのにな!」
「はい?」
「天下の鬼崎やぞ。このままだと、お前開幕ベンチもありえる」
「…………………………」
「あんな老害怪我して、若手に座を譲ったらええんや。カハハー! カハハハハー!」
鈴木は激怒している。拳を震わせて、今にも殴りかかりそうだった。今ならドーズさんの気持ちが分かると思う鈴木。
しかし、相手は先輩だ。嫌味な先輩だが、この人が居なくなれば、正捕手が誰もいない状態になる。
鈴木は必死に耐えた。憧れの人を馬鹿にされて、黙っていられる鈴木では無かったが、何とか怒りを沈めたのだ。