第5球 盗塁王の実力
時は立ち、紅白戦。
「1番ライト鬼崎」
ウグイス嬢が鬼崎の名前を読み上げたのだ。それと同時に球場からは鬼崎コールが絶え間なく鳴り響いている。
応援歌では無い。なぜなら、この日のお客さんは全員外国人だからだ。鬼崎ファンの外国人が、日本の球場に応援しに来ているのであった。
鬼崎クラスの超一流選手は、球場を外国人で埋める集客力を持っているのだ。
「O・N・I・Z・A・K・I!! O・N・I・Z・A・K・I!!」
割れんばかりのスタンディングオベーション。鬼崎はヘルメットを取ってお辞儀した後に、打席に入った。
ピッチャーはベテラン外国人ピッチャーのバリスタ。日本球界で10年以上投げ続けており、外国人枠が外れている。
1球目、148km/hのストレートが外角に決まった。
「ストライーク!」
球審が手を上げた。148km/hのストレートは日本でいうと豪速球であるが、アメリカでは平均スピードに過ぎない。
2球目、149km/hのストレートが放たれた瞬間に、バントの構えをした鬼崎。
「マジカ!?」
驚きの声を上げるバリスタ。なんと鬼崎は、ピッチャーと1塁の間にドラックバントを仕掛けたのだ。
「セーフ」
バリスタが球を拾った時には、既に1塁のベースを踏んでいた鬼崎。
(トンデモネェハヤサナイカイ)
60を越えた今でも俊足を誇る鬼崎であった。
「2番セカンド村田」
村田が左打席に立った。この選手はミート力も無ければパワーも無い。いわゆるバント専用の打者である。
「ッチ、ショカイカラワンナウトニルイカヨ」
バントの構えをする村田に、ストレートを投げた。
「セーフ!」
「ハァッ!?」
バリスタが後ろを振り返ると、鬼崎が盗塁していたのだ。
「O・N・I・Z・A・K・I!! O・N・I・Z・A・K・I!!」
興奮するファンを余所に、あくまでも冷静な顔の鬼崎。
「トンデモナイジイサンヤナ」
バリスタが3球目を投げた。また盗塁をする鬼崎。
キャッチャーが腕を千切れんばかりに、三塁に投げるも、タッチは「セーフ」。
「フザケンナヨ、クソジジイガ」
鬼崎の盗塁で投球リズムを崩したバリスタは、村田を四球で歩かせてしまった。
「3番レフト山室」
村田は足が早い。さっきの二の舞にならない様にウエスト気味に放った。
「カカッタ」
思った通り、村田が走り出したので、キャッチャーが二塁に球を投げた。
「セーフ」
「ナンヤト!」
村田の盗塁と同時に、鬼崎がホームスチールしていたのだ。
これで赤チームの一点先制だ。