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第九話

「…ピピピピピ」

目覚ましが無機質になる。あずさは音源である目覚ましを布団の中から手を伸ばして手探りで探す。となりの布団ではかりんが少し不快そうに寝息を吐く。

「ピピピピピピピっ」

目覚まし時計を止めると同時にあずさは起き上がる。かりんはまだ寝ている。時計を見るといつも起きる時間より一時間は早い。あずさはかりんを起こさないように洗面台で顔を洗い台所に向かう。今日、かりんは学校の行事で遠足に行く。なので普段は給食なのだが今日は保護者がお弁当を作らなければならない。あずさはなんとめんどくさい行事だと考えながらちゃっかり昨日買っておいた弁当用の冷凍食品たちを冷蔵庫から取り出して並べる。今の時代、便利な物があるものだと珍しく世間一般を賞賛しながらそれらを適当な量を袋から取り出し電子レンジに入れる。その間に昨日といでおいたご飯の入った炊飯器のスイッチを入れ、食パンをトースターにつっこむ。そのあとにテーブルにかりんの好きなナテラとコーンフレークを用意する。そしてその合間にあずさは仕事に行く準備をする。しばらくするとトースターのトーストが跳ね上がりご飯が炊き終わったと炊飯器が雄叫びをあげる。あずさは再び台所に戻りトーストを机の皿の上にのせ、かき混ぜご飯用のふりかけを用意し適量のご飯とかき混ぜてるのであった。

「こんなもん?」

人生で初めて弁当を作るあずさは、混ぜ終わると何も考えず出来上がった混ぜご飯を濡らした手のひらにのせた。

「ぅわっちぃ!!!」

左右の手のひらで混ぜご飯が踊る。我慢できなくなったあずさは勢いよくまな板に混ぜご飯を叩き付ける。落とすというもったいないという結果にならずにはすんだ。あずさは急いで水道水に手をかざす。冷や汗と安堵の声が吹き出る。

「愛がない」

はっとなって後ろ振り向くと一部始終を見ていたかりんがたっていた。そして視線をまな板に戻すと原型をとどめていない混ぜご飯がそこに居た。

「誰のために作ってやっていると思ってんの!?」

そしてあずさはいらだちをあらわにしながらまな板の混ぜご飯をはがし形を整える。恥ずかしいところ見られたあずさのおかずを入れる手が荒々しい。それを横目にかりんは黙ってトーストにナテラに塗り始めた。数分後かりんの遠足用弁当完成。かりんはあずさの作った弁当を黙って鞄にいれた。いつもはあずさと一緒に出るのに今日は早苗ちゃんと一緒に学校に行くというので先に出た。

「いってきます」

あずさは無言のままトーストを口に放り込む。

「……ありがと」

聞こえたか聞こえないかぐらいで同時にドアが閉まる。フラッシュバックした、あの日の雪の顔があずさの脳裏を支配した。あずさは急いで立ち上がりドアを勢いよく開けた。そこにはまだ遠くまで歩いていない、かりんがどうしたのかと振り返ってこっちを見ていた。その視線にあずさは少し安堵した。

「…どうしたの?」

「…なんでも無い。…お弁当、おいしくなかったら残してもいいから」

不思議そうにかりんはあずさを見つめる。そして小さくうなずく。

「あと、えっとーーーー」

あずさは頭をかきながら、次に言う言葉を口に出すか出さないか考えた。まるで告白する男子中学生みたいに、だけどあずさは自信の無い声で言った。

「いってらっしゃい」

かりんは聞こえたのだろうか?しばらくの沈黙が二人を包んだ。するとしばらくしてかりんは笑って大きな声で叫んだ。

「いってきまーーーす!」

そして勢いよく走り出した。転ぶんじゃないか少し心配したけど、かりんは転ばなかった。あずさは安堵し、気づけば自分が微笑んでいたことに少し驚きつつも自分も家を後にした。


 その日会社から帰るとかりんはずっと遠足のことを話していた。みんなのお弁当は華やかで手作りの物が多かったと。それを聞いたあずさは少しいらだちを覚えながらも最後まできちんと話を聞いた。そして疲れたのか、かりんはいつもりは早く寝た。かりんが寝たあと、かりんのお弁当箱を洗おうとお弁当箱のふたを開けると、中は空っぽだった。

「あんだけ、文句言いやがって。完食かよ」

ふっ、と笑ってあずさはお弁当箱を食洗機に入れた。そのあとかりんの寝顔を見に寝室に行くとそこには微笑むかりんの寝顔があった。そんなかりんの寝顔をつまみながら

「キャラ弁、挑戦してみようかな?」

そう呟いたあずさの顔はまるで本当の母親のようだった。

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