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第六話

 12月31日、そう今日は唯一子供が夜更かしを許される日。かりんの目はいつも以上に見開いていた、そして毎年恒例の年越し歌番組をみてテレビの向こうのアナウンサーと一緒にカウントダウンを叫ぶ。

「5!、4!、3!」

あずさはこういう時に限って三日ぶりのお通じと格闘中である。しかし本人はクリスマスのときもそうだったが、あまりこういうイベントものにたいしての執着が薄いため全然気にしている様子はない。

「2!、1!」

トイレの中でかりんの声を聞きながら下半身に力を入れる。

「新年!あけましておめでとう〜!!!!」

夜更かしでテンションが最高潮のかりんが鍵を閉め忘れたトイレに突っ込んできた。

「うぇ!?」

あずさは飛び込んできたかりんに抱きつかれて、生まれかけていたお通じが引っ込んでしまった。一人暮らしに慣れてトイレの鍵を閉め忘れることが習慣になっていたあずさは今度からきちんと鍵をしようと強く心に誓った瞬間だった。しばらくして

「初詣に行きたい!」

とテレビの向こうの神社に群がる人々を指差してかりんがねだる。あずさはお通じ出なかったときの不快感と、かりんに対してのかすかな怒りがあったので「一人で行け!」と発狂したくなったがそこをぐっと抑えコートを重ね着して一応財布を持って近所の神社に向かった。

 かりんは雪がでていってから雪が故意的おいて行ったのかわからないが、忘れていった雪の緑色のマフラーを外に出かけるときは必ず身につけている、それをしかっりと首に巻き付けて鼻息荒くあずさの横を歩く。神社に到着すると夜遅いというのに町内会のおっさんどもがたき火をしていた。その周りを甘酒片手に囲みながら新年の抱負を語り合っていた。その少し横にそれたところで同じくおばさんたちが新年の挨拶をかわし合っていた。それを横目にあずさとかりんは賽銭箱に向かう。かりんは目で小銭をねだる。あずさは十円玉を二つ取り出して一つをかりんに渡した。かりんは受けると同時にお賽銭の作法も関係なくひょいと投げ込んだ。そして手をパンパンと二回ほどたたいてから、しばらくずっと目を閉じていた。あずさもそれにならってひょいと十円玉を投げてパンパンと二回手を叩いて目を閉じて願い事?というか今年の抱負を心の中で呟いた。

(えぇ〜と、とりあえず。今年はかりん関係で何も起こりませんように!事件が起こりませんように!ていうか雪ちゃんが早く帰ってきますように!)

そう思いながらちらりと隣にいるかりんを横目で見るとまだ願い事をしている、子供のくせに何をそんなに願うことがあるのかと考えいるとかりんがあずさの視線に気がついてあずさを見上げる。

「かりんは何をお願いしたの?」

あずさが驚きを隠すためにとっさに出た言葉がこれだった。

「あずさは知らないの?お願いごとを人に言ったらかなわないんだよ」

あっそ、別に興味も無いけどね。あずさは心の中でそう呟いた。大体予想はついている、かりんのことだ、きっと雪関連だろう。あずさは静かに歩き出した。しばらく歩くとかりんの気配を後ろで感じなくなる。あずさがうしろを振り向くとかりんが町内会のおっさんたちから無料配布の甘酒を受け取っていた。あずさは急いでかりんに駆け寄る。

「何してんの?」

あずさは若干見下す視線でかりんに問う。かりんは罪の意識は無く、もらった甘酒で手の体温を取り戻している最中だった。

「あなたがこの子の保護者かい?」

町内会のおっさんの一人があずさに話しかけてきた。あずさは、はっとなって少し戸惑いながら聞こえるか聞こえないかのか細い声で

「…はい、一応」

『一応』は多分絶対に聞こえなかったと思う。まじまじとおっさんたちがかりんとあずさを見比べる。

「似てないね!」

もう一人のおっさんがげらげらと笑いながら言う。このおっさんからは甘酒以外の本物の酒のにおいがする、相手にするとだるいタイプだとあずさの人見知りセンサーが赤信号を出す。そんなあずさの気も知らないで、あずさの横でかりんは甘酒をふーふーしながらすすっている。あずさは人見知りの上にコミュニケーションが苦手だ。これ以上ここにいたくないと思ったあずさはとっさに

「甘酒ありがとうございます、失礼します」

と、自らかりんの手を握ってその場から逃げた。その二人の後ろ姿を町内会のおっさんたちが見つめる。

「おめ、あんなこというから帰っちゃったじゃないか」

一人のおっさんが酒臭いおっさんに言う。

「そぉかぁ、そりゃわるいことしちまったかな」


 少し神社から離れたところであずさはかりんの手を離した。かりんは熱い甘酒に夢中になりながらもあずさの歩く速度に追いついていった。自宅に着くとあずさは手際よく部屋の鍵を開けて部屋に入る。とりあえず冷えた体を温めるためホットミルクを入れる。かりんはテレビの前に座って甘酒を飲み干す。ホットミルクに口を付けながらあずさはかりんを見る。似てないもなにも、他人なんだから。そんなこと考えながらテレビ画面とにらめっこするかりんの背中を見つめる。そのとき、かりんが一定の感覚でテレビに向かってうなずき始めた。あぁ本当に子供って、単純。そう思いながらあずさはかりんの顔をのぞく。案の定かりんは飲み干した甘酒まじりのよだれを流しながらうつらうつらとしていた。あずさは汚いと思いながらもかりんのよだれを近くにあったティッシュで乱暴にふいた。それでもまだうつらうつらとしているかりんを抱き上げて寝室に連れて行った。かりんは布団に入ると寝息を立て始めた。

「アホな顔」

口を大きく開けて寝息を立てるかりんの顔をあずさはつねってみる。かりんはなんの反応も無く睡眠欲を満たしてた。普通の人なら可愛いと思うであろう天使の寝顔も、あずさにとっては何の変哲も無いただのアホな寝顔。あずさは自分に子育てなど無理だと今でも思っている、不可能だと。一人の人間(子供)を幸せにすることができるか自信がない、その責任が自分には重すぎる。かりんの寝顔をみてあずさはそういうことしか思いつかなかった。しばらくして、あずさも居間のテレビを消しすべての暖房の電源をきって、部屋の電気も消して自分も床についた。今日から始まる彼女たちの波瀾万丈な生活を想像しながら、恐れながら、あずさは重いまぶたを閉じた。

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