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マーセナリーガール -傭兵採用試験-  作者: 海野ゆーひ
第02話「ファミリア襲来」
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02-3

 街の中心部へ近付くにつれ、人々が騒ぐ声は大きくなる。

 やっぱり、何か起きたんだ。そしてそれには、おそらく奴ら、ファミリアが関係してる。

 根拠は無い。直感だ。


 一昨日、オルトリンデ国に入り込んだファミリア。きっとそいつらだ。

 ここに来たんだ。ファミリアが、この街に。


 ファミリア? ……そういえば私、初めてだ。ファミリアを見るの、初めてだ!

 ……怖い。でも、行かなきゃ!


 もう随分先を走る父の背を見つめ、私は押し寄せる疲労感を気力だけで押し退け、スピードを上げた。




 避難する人々の群れが、向かう先から押し寄せてくる。


「うっ、……くっ」

 その群れに飲まれ、押し戻されそうになる。血相を変えて走る彼らには、もう周りは見えていない。他人より早く逃げる、それしか考えてない。


 私は道の端に脱出し、そこから農道に入って進む。今ので、前を走っていた父を見失った。急に心細くなったけど、父より弟たちを探さないと!


 農道から再び通りに出て細い路地に入り、建物の間を駆け抜ける。


 人々の声は東に向かっているように聞こえる。なら、何かが起きたのは西。

 ここからだと、……やっぱり商店街だ。


 路地から大通りへ飛び出した私は、ちょうど眼前を通り過ぎた警官を呼び止める。


「何が起きてるんですか?」

 足を止めた警官は、「ファミリアだ! 早く逃げなさい!」と叫んで商店街の方へ走って行った。


「ファミリア……」

 やっぱり、来たんだ。


「……」

 どうする? 警官を追うか? ……でも、怖い。それに、もうスヴェンとミリィは避難した後かもしれない。私が行く意味はあるのか?


 馬鹿! 考えるより行動だ。危険な場所に、あの子たちがまだ残っているかもしれないじゃないか。その可能性が0じゃないなら、……行くしかない!


 迷いと恐怖を振り切り、私は商店街へ向かった。




 大通りから再び路地へ入り、走る。

 広い通りには、警官が何人もいる。見つかったら、確実に止められるだろう。そうなれば、弟たちを探しに行けない。


「……」

 建物の影から慎重に顔を出し、周囲を確認。ほとんどの住民は、すでに東の方へ避難したようだ。人の姿は、見当たらない。


 時折、武器を持った警官らが走って行くものだから、心臓に悪い。


「あ……」

 そういえば私、武器を持ってない。万が一ファミリアと遭遇しても、丸腰じゃどうしようもないじゃないか。


 ……どうしよう。父もいないし。


「うわあああぁぁぁっ!」

「――!」

 突然の悲鳴。男性の声だ。それはすぐ近くから聞こえた。


 声のした方にあるのは、商店街。ここから通りに出て、最初の十字路を右に曲がったところにある。

 私が今立っているところからだと、もう目と鼻の先だ。


 ……すぐそこに、いるんだ。ファミリアが。


 もう一度、建物の影から様子を窺う。


「!」

 その時、通りを挟んで向かいにある路地へ、2人の人影が駆け込んでいくのが見えた。一瞬過ぎて分かんなかったけど、もしかしたら、スヴェンとミリィかもしれない。


 そう思ったら、もう身体が勝手に動いていた。


 路地から出た私は、警官らが十字路の方へ駆けていくのを横目で確認しながら通りを横断し、人影が入っていった路地へ駆け込んだ。

 そして、慎重に路地を進む。


 さっきここに入り込んだ2人は、スヴェンたちではないかもしれない。それでも、こんなところにいるのは危険だ。見つけたら、私が保護しよう。


「!」

 物音。そして、囁き合う声が届く。私は、意を決して声をかけてみることにした。


「……誰か、そこにいるの?」

 すると、「え?」という、今度ははっきりとした声が聞こえた。


「スヴェンとミリィなの? 私だよ。姉ちゃんだよ」

 再び、物音。そして、物陰から2つの人影がのそりと現れる。


「あんたたち……」

 それは、今にも泣き出しそうに顔を歪めた、スヴェンとミリィだった。


 2人は、「姉ちゃん」と弱々しい声を絞り出してから、こちらに駆け寄ってきて、ぎゅっと抱きついてきた。私も、2人を抱き締める。


「良かった。会えて良かった」

 2人の背を撫で、頭を撫でてやる。弟たちは私にしがみつき、涙をぽろぽろ流して震えている。


「……さぁ、早く逃げよう。ここは危ないから」

 スヴェンとミリィは、私の胸に顔を押し付けたまま無言で頷いた。


 その時、背後でトッという軽い音が、妙に大きく響く。


「?」

 振り返った私の視界に入ってきたのは、……狼。


「あ……あ……」

 いや、それは、狼の形をした何か。


 四本の脚はすらりと長く、細い。その身体は大きく、全身を覆う長く黒い体毛が、風になびいている。

 そして、その大きな頭、大きな顔の中心にあるのは、これまた大きな一つの目。血走った黄色の単眼が、私達を完全に捉えていた。

 唸りを漏らす口からは、赤い血が滴っている。あれはおそらく、人間の血。

 それは、すでに誰かが襲われたことを示していた。


 震える弟達を抱き寄せる私もまた、震えていた。怖くて、動けない。


 どうしよう。……誰か助けて。


 助けて、お父さん……!

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