20-1
次の日、私は誰よりも早く目を覚ました。
おもむろに窓外へ視線を向けると、白み始めた空が見え、その下はまだほとんど暗闇だった。
「……」
横に流れていた髪を手櫛で直しながら、昨日のことを思い返す。
試験が終わって大浴場へ行き、その後食堂へ行った。だけど、あまりの疲労感に食欲は湧かず、結局サラダとスープだけを無理矢理胃に入れて部屋へ戻った。
そうしてベッドに転がった後の記憶は、無い。寝転がった瞬間、強烈な眠気に意識を持っていかれたんだと思う。
その後、なんか起こされて夕食を食べに連れて行かされたような、そのままふらふらと寝支度を整えさせられてまたベッドに放り込まれたような、……なんかもう、ホント覚えてない。
とにかく、ずっと寝ていたような気がする。
そのおかげなのかどうなのか、今朝の寝覚めはかなり良い。どうやら、疲労の持ち越しはほとんど無いようだ。眠気も残ってない。
非常にすっきりとした、いい気分だ。
ベッドからのそのそと下りて、「う~ん」と伸びをする。
そうして、フランカとイライザがぐっすり眠っていることを確認しつつ、最後に、マリサの顔を一瞥。
……ベッドに入った時から全く寝返りを打っていないのかと思うほど、彼女はピシッと真っ直ぐ、仰向けのまま眠っている。
掛け布団やシーツには、ズレや歪みは一切なく、死んだように眠るっていうのは、まさにこのことだろうなと感じてしまった。
やっぱり、マリサも疲れていたのだろうか。
そうだよね。いくら凄腕の持ち主であってもさ、やっぱ人間だもん。疲れるよね。
などと1人で納得していた私の視線の先で、マリサの目がばちっと開いた。
私は、思わずビクッと肩を揺らす。まさか、寝たふりだったのか?
「……お、おはよう。マリサさん」
声をかけてみると、しっかりと開かれた瞳が私を捉える。目だけ動かすもんだから、ちょっと怖い。
マリサは、私の言葉に何か応じるわけでもなく、ゆっくりと身体を起こし、窓の外を見やる。そして一言、「早いのね」と呟いた。
……どうやら、寝たふりをしていたわけではなさそうだ。
「え? あ、ああ、うん。なんか、目が覚めちゃってさ」
私の言葉に、マリサは「そう」とだけ発し、ベッドから下りて靴を履く。
そしてロッカーを開き、洗面用具の入ったポーチを手に、部屋を出て行こうとする。
「あ、ちょっと待って」
思わず、引き止める。ドアノブに手を掛けたところでぴたっと停止したマリサは、表情の無い顔をこちらへ向けてきた。
「私も、一緒に行っていい?」
慌てて靴を履き、マリサと同じように洗面用具を出そうとロッカーへ向かおうとしたところで、「うん」という返答があった。
私はホッとして、バッグから洗面用具を出し、マリサと共に部屋を出た。
薄暗い廊下に、人影は無い。
「……ちょっと肌寒いね」
「そうね」
歩くのが速いマリサに、早足で並び、廊下を進む。
そして、エントランスホールに出てすぐに、二階へ続く階段の方へ歩き、その横を通り過ぎて奥へ。そこに、洗面所がある。
奥行きのあるそこには、きれいに掃除された洗面台がずらりと並んでいる。ちなみに、洗面所の隣はトイレだ。
マリサが、出入り口に一番近い洗面台の前に立ったので、私はその隣の洗面台へ。
「……」
洗面台に洗面用具を置いて、ちらっとマリサの様子を確かめる。すると、同じタイミングでこちらを見たマリサと目が合ってしまう。
「えっと、……先にトイレ行こっかな」
なぜか、別に言わなくてもいいだろってことを笑い混じりに言ってから、私はそそくさと洗面所を出てトイレへ。
……そういえば、マリサとこんなふうに朝二人きりになるのなんて、初めてだ。この、妙な緊張はなんだろう。
トイレから出た後、まずは歯を磨き、その次に洗顔。さっぱりしたところで、再びマリサの方に顔を向ける。
マリサは、その綺麗な黒髪をゆっくりと丁寧にとかし、それから、左の髪を慣れた手つきでくるくるっとゴムでまとめ、右側も同じようにまとめた。
まさか、そんなところまで動きに無駄が無いなんてね。無意識のうちに、私は彼女の動きに見とれていた。
「どうしたの?」
だから、マリサに声をかけられた時、心臓が大きく跳ね上がった。
ドキドキしながら、「なんでもないよ」と笑って誤魔化す。
「……はい」
「?」
マリサは、何を思ったか、自分の櫛を私に差し出した。困惑する私に、彼女は「寝癖、直したら?」と小声で言う。
「……え、あ、大丈夫だよ。自分のあるから」
もしかして、私が櫛を貸してほしくて見てたと思ったのかな。
マリサは「そう」と言って櫛をポーチにしまい、洗面所を出て行った。どうやら、トイレへ行ったようだ。
1人残された私は、もう一度鏡を見て、「ああ~……」と変な方向へ跳ねた髪を触り、櫛を出して念入りに直すのだった。
その後、部屋に戻った時には、フランカとイライザも起きていた。
「なんだよあんたら。今日は随分早起きだなぁ」
寝ぼけ眼でふらふらと歩きながら、イライザが言う。フランカはベッドの縁に座って、大きなあくびを手で覆って隠している。
「おはよう、フランカさん」
「おはようございますぅ」
挨拶を返しながら、よろよろと立ち上がったフランカは、私とマリサが今してきたことをするために、イライザと一緒に部屋を出て行った。
再びマリサと二人きりになって、何か話すべきか考えていると、ふと別のことに思い至った。
……そういえば、今日は昨日の結果が出るんだっけ。私、何位になったかな。




