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マーセナリーガール -傭兵採用試験-  作者: 海野ゆーひ
第19話「最終試験開始」
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19-4

 およそ1000体ものゴーレムたちは、35人の受験者の手によって、1体残らず倒し尽くされた。


 一面緑色だったはずの草原は、その面積のほとんどに土色が混ざっている。

 こんもりと盛り上がっているそれらは、全てゴーレムの死体だ。陰惨な光景であるはずのそれは、しかし、見た目はただの土や泥なので、そこまで気分の悪いものではなかった。



 試験官は受験者たちに、宿舎へ戻り身体を休めるよう指示した。

 自分の足で歩けないほどに疲れきっていた私は、フランカとイライザに肩を借り、ほとんど引きずられるように施設を後にする。


 施設を出る時にふと後ろを振り返ると、試験官たちが地面をならす作業に入っているのが見えた。




 全身、緑や茶色に汚れていることに気がついた時には、私を支えて歩くイライザたちの足は、大浴場へ向かっていた。


「え? このままお風呂に行くの?」

 弱々しい声で問うと、イライザが「当たり前だろ」と返してくる。


「こんな汚れた状態で宿舎に戻ったら、部屋が汚れてしまうでしょう?」

 フランカも、半笑いだ。


「……あれ? マリサさんは? さっきまでいたのに」

 やや後方を歩いてついてきていたはずのマリサが、いつの間にかいなくなっていることに気付く。


「ああ、マリサさんはあまり汚れておられないようでしたので、部屋に戻り、私たちの着替えを持ってきていただくことになりました」

「……あ、そう」


 あれだけ無駄のない動きで戦ってりゃ、そりゃ汚れもしないか。

 それに比べて、自分のこの体たらく。やっぱりあの人のようにはいかないなぁ。


「なんだよ、ティナ。溜め息なんかついて」

 不思議そうに顔を覗きこんでくるイライザに対し、私は「疲れただけだよ」と答えておいた。




 先に服を脱いだイライザとフランカによって、私はされるがままに裸に剥かれ、まずは洗い場で上から下まで泡まみれにされ、芋を洗うように汚れを落とされた。


「ひゃひゃひゃひゃっ、やめっ、やめて! くすぐったいって!」

「ふっふふふ、我慢しろ! ティナ!」

 などとやっているところへ、マリサが現れた。


「……マリサさん?」

 泡人間になっている私を、無言のまま見下ろし続けるマリサ。そして、その手が私のもとへ伸びる。


「手伝う」

 そう呟き、イライザたちに加勢。


「ちょっ、ちょちょっ、ひゃははっ、ダメダメっ、やめて~!」

 そうして、薄汚れていた私は、全身ピカピカになったのだった。




 湯船に浸かって4人で会話をしていると、少しずつ少しずつ、ほかの受験者たちも大浴場に集まってきた。

 1人でゆったり身体を休める人もいれば、私たちのように数人で楽しげに話しながら入ってくる人たちもいる。


「それにしても、随分早く終わったな。これで、今日はもう予定は無くて、明日は休みだろ? なんかゆったりしてるよな」

 イライザの呟きに、フランカが「そうですね」と応じる。


「でもさ、それくらい休みを取らないと、疲れが溜まっちゃうよ。あんな戦いが休みなしに続いたら、絶対倒れるって」

 私が言うと、イライザは「そだな」と言って口の端を上げる。


「特にあんたは、本当にぶっ倒れたもんな」

 そう言ってイライザは笑い、フランカもつられるように笑った。


 私は口を尖らせて、そこでふと、あることに思い至り、マリサの方に顔を向ける。


「ねぇ、マリサさん。私って、試験中に倒れたんだよね? ってことはさ、まだゴーレムは残っていたわけで――」

「私が、倒した」

 言葉を重ねるように、マリサは声を発した。私が小首を傾げると、マリサは私の目を見つめて、言葉を続ける。


「あなたが倒れたのは、試験終了間際。残ったゴーレムはそう多くなかったけど、何体かはあなたに向かっていた。そいつらは、私が倒した」

 やっぱり、私はマリサに助けられていたんだ……。


「ごめん。ありがとう、マリサさん」

「謝ることも、お礼を言う必要も無い。あなたが餌になってくれたおかげで、私はより多くのゴーレムを倒すことができた。それだけのこと」

「餌……」


 もう少しほかの言い方があったんじゃないのと思いつつも、この子らしいかなとも思ったので、微笑を浮かべるにとどめる。


「なんだよ、マリサ。素直にどういたしまして、でいいだろ。照れてんのか~、こいつぅ」

 にやにやしながらそう言って、イライザはすい~っとマリサに近付いていく。


 そして次の瞬間、マリサの眉間が寄り、無表情だった顔がやや引きつる。


「……やっ、やめてっ。……う、あ、あははっ」

「ほれほれ、もっと思いっきり笑え~」

 どうやら、マリサの脇やら脇腹やらをくすぐっているようだ。私とフランカは顔を見合わせ、マリサの表情に注目する。


「あぅ、あっ、あははっ、あはははっ」

 私とフランカは、思わず「おおっ」と驚きの声を上げる。

 だって、笑ってるんだよ? 初めて見たよ。マリサがあんなに口を開けて笑ってるのなんて。


「やっ、やめて。……もうっ」

「うっ、あひゃひゃひゃひゃっ、やめっ、そこ弱いんだよ! うははははっ」

 やられっぱなしかと思いきや、一転、反撃に出るマリサ。途端に立場逆転。


 湯船の中で何をどうしているのかはわからないけど、イライザはばしゃばしゃと暴れ回る。舞い上がった飛沫をざぶざぶと浴びながら、私たちも笑った。


 あれだけ身体を重たくしていた疲労を、その時だけは、どこかへ飛んでいったかのように感じなくなっていた。

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