18-1
最終試験に駒を進めたのは、男子83人、女子35人の、計118人。
二次試験で落ちた受験者らは、すでに試験場を後にしている。だから、初日と比べると、随分静かになった気がする。
それが寂しいかと聞かれたら、別にそんなことはないって答えるね。二次試験が終われば、人が減るっていうのは分かってたことだしさ。
落ちた人たちを気の毒に思う気持ちはあれど、達成感と、そして優越感の方がそれを遥かに凌ぐ。
昨夜は、喜びのあまり、なかなか寝付けなかったしね。
そうして今、私、フランカ、イライザの3人は、グラウンドに出て軽く身体を動かしている。昼食後の運動だ。
今日は雲ひとつ無い青空。日の光が暖かい。
グラウンドには、私たち以外にも何人か、同じように運動をしている受験者らの姿がある。その人数も減ったなと思うけど、それだけだ。
ちなみに、マリサは部屋で本を読んでいる。朝から……というか、昨日からそんな感じだ。
昨日、食堂を飛び出していったリュシーを追いかけていって以来、なんだか元気が無いように見える。彼女と何を話したんだろう。何を言われたんだろう。
あの後部屋に戻ってきたマリサは、図書室で借りてきていた本を読み耽り、リュシーとのことは一言も喋らなかった。
というより、「話したくない」という雰囲気を纏っていて、とても質問できる様子じゃなかったんだよね。
そして今日も、食事以外は完全に別行動。
さすがに、空気を読み続けるのも限界というものだ。
「やっぱ、聞いてみっか」
イライザの言葉に乗り、私たちは、マリサに昨日のことを聞いてみることを決め、宿舎へ戻ろうとグラウンドを出た。
「?」
ちょうどそのタイミングで、協会員たちのいる事務所から誰かが出てきた。
その顔に、私は足を止める。
その時はまだ、その人物が誰なのかはわかってなかったけど、なんだか見覚えがあるなと記憶を辿り、そして気付いた。
「あれ? どした、ティナ」
「ティナさん?」
私が立ち止まっていることに気付いたイライザたちが、声をかけてくる。
私はそちらを見ずに、「先に帰ってて」と言い残し、こちらに背を向けて歩き始めたその人物を追った。
私の足音に気付いてか、声をかける前に彼は振り返った。
そして、目と目が合う。
彼は立ち止まり、同じく立ち止まった私をじっと見つめ、やがて「あっ」と声を上げた。
「君、この前会った、……えっと、そう。ティナだ。ティナ・ロンベルク!」
なぜか嬉しそうに笑う少年。
彼とは以前、一次試験を受けに行くために乗った汽車の車内で会っている。
綺麗な金髪に、整った顔。一方的にベラベラと喋っていたあの姿は、記憶の中にしっかりと残っていた。
「ここにまだいるってことは、二次試験通ったんだね。おめでとう」
そう言いながら、歩み寄ってくる少年。その無邪気な笑みは、結構上から私に向けられている。
あの時はそんなに意識してなかったけど、この人、かなり背が高い。
身長は、レオーネ以上、……いや、父と同じくらいあるんじゃないだろうか。
私は「ありがとう」と返し、頭に浮かぶ疑問を投げかけてみた。
「あなた、どうしてここにいるの? もしかして、協会の人?」
私の質問に、少年は「違うよ」と首を振った。
「まぁ、協会には属してるけどさ」
となれば、答えは一つしかない。
「じゃあ、傭兵なの?」
まさかと思ったけど、協会員でないなら、傭兵しかないもんね。
彼は「うん、そだよ」と頷き、「証拠を見せてあげる」と、ジャケットの内ポケットに手を突っ込んだ。
そして差し出されたそれは、傭兵を目指す者にとっては憧れの、あのカード。
「……それって、ま、マーセナリーライセンス?」
思わず両手を揃えて前に出すと、彼はそれを私の手の平に乗せた。
片手の手の平ほどの大きさのカード。
それが、傭兵であることを証明する証明書、マーセナリーライセンスだ。
傭兵採用試験に合格すると、証明書たるマーセナリーライセンスが発行される。
傭兵である証明として重要な役割を果たし、傭兵として仕事をする際などに必要となる。
父が持っていた物を何度も見たことはあるけど、こうして手に持つのはいつ以来だろう。
なんだか、持つだけで緊張する。
「……ん? えっ?」
そこにある文字に、私は驚愕した。
「どうしたの?」
いや、どうしたのじゃないよ。
「こ、これ……」
私は、震える指でその文字を示した。
「とっ、AAAってなってるけど……」
彼は、畏怖さえ覚えている私に対し、何をそんなに驚いているのかわからないといった感じで首を傾げ、口を開いた。
「うん。僕は、AAAランクの傭兵だよ」
「えぇっ、……ええええぇぇぇぇぇぇ~?」
仰天した私は、大きな声を抑えることなく発した。その声に、少年は目を丸くする。
傭兵には、その実力と実績に見合ったランクが与えられる。
試験に合格すると、自動的に最下級のEランクが与えられ、そこから、主に仕事の成績によって、D、C、B、Aの順に昇級していく。
一般的には、Aランクまで行けたらかなり優秀な傭兵であると認識される。
だけど、その上にもまだランクがあって、ここからはAの数が増えていく。
現役時代の父の最終ランクでもあるAAランクは、達人の中の達人と称され、Aランク以下の傭兵の憧れの的だ。
Aランクまでは結構な人数がいるけど、AAランクは一国に10人ほどしかいないと言われている。
AAランクでも相当凄いのに、ランクにはまだ、さらにその上がある。
それが、AAAランクだ。
世界に数人しかいないとされるAAAランク傭兵は、もはや神や化け物扱い。
幻とさえ称されるほど、その姿は滅多に見られない。
……その幻が、今目の前にいるんだ。
いや、これで幻を見るのは2度目ってことだよね?
う、うわぁ……。鼓動が激しくなってきた。
わ、私、幻見ちゃってるよ……!




