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マーセナリーガール -傭兵採用試験-  作者: 海野ゆーひ
第02話「ファミリア襲来」
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02-2

 木刀を横に構え、体勢低く駆ける。そして、斜めに振り上げて一閃。しかしそれは、軽々と受け止められ、弾かれた。


「くっ」

 体勢を崩さぬように踏ん張り、父の向かって左側へ移動。父が身体をこちらに向ける前に、構えた木刀を振り下ろす。


「おっと!」

 しかし、その一撃を父は身体を反時計回りに回転させて躱し、振り下ろした状態の私の木刀を、上からさらに自分の木刀で叩き、大きくバランスを崩した私の腹部を横から蹴り上げた。


「うげっ」

 苦鳴と共に、身体が宙を一回転。背中から地面に叩きつけられた。


「げほげほっ。……くそっ!」

 咳き込みながらも素早く立ち上がり、直後降ってきた父の剣閃を横に跳んで躱し、地に足がつくと同時に方向転換。横に構えた木刀を、身体の捻りを加えて思いっきり振る。


「うおっ」

 父は慌てた声を出したものの、身体を回転させ、木刀の刀身で私の一撃を軽々と防いでみせた。


 直後、互いに武器を弾いて間合いを取る。


「ふぅ。今のはなかなか良かったぞ、ティナ」

 笑顔で私を褒める父は、やっぱり息を切らしていない。それに比べて私は、荒い呼吸と滴り落ちる大粒の汗。


 剣術の訓練を始めて1時間。

 途中、一度も休憩を入れずに戦い抜けるようになったのは、自分でも大きい成長だとは思う。だけど、相変わらず余裕な父を見ていると、実に悔しくて、自分の力不足を痛感するんだ。


「体力はまあまあだが、力が弱いな。あと、お前の攻撃は読みやすすぎる。何をしてくるのかが分かるから、簡単によけられる」

 ……そんなこと言われたって、どうすればいいのかわかんないよ。


 そう考えていたのが伝わったのか、父は助言と対策を口にする。


「今のお前に力技は無理だから、とにかく素早く動き回って相手を翻弄しろ。そして隙ができたら、一気に攻める。……よし。体力作りは今まで通りにやり、これからは瞬発力も重点的に鍛えていこう」

「……はい」

 声を出すことさえ、キツい。


 そんな私の様子を見て、父は「そろそろ休憩にするか」と構えを解いた。

 それを見て、私はその場にへたり込む。地面に手をつき、呼吸を整える。ぼたぼたと、額から頬から顎から、汗の雫が落ちて芝生を叩いた。




 オルトリンデにファミリアが侵入して丸二日が経った。あの後、未だに続報は入っていない。


 そして、今日は休日。私は朝早くから外に出て、父と共にトレーニングをし続けている。

 ……あーあ、毎日さ、結構頑張ってると思うんだけどなぁ。まだまだ、私は弱い。


 早く強くなりたい。

 んー、でも、強くなったってどうやって判断するんだ?


 ……そうだなぁ。やっぱり、父に「強くなったな」って言われたら確信してもいいんだろうけど。それにはまだまだほど遠いって感じなんだよね。


「行ってきまーす」

 その声と共に、玄関のドアが開く。振り返ると、買い物用のバッグを持ったスヴェンとミリィが立っていた。


「あ、姉ちゃん。私達、お昼の買い物に行ってくるから」

「うん。行ってらっしゃい。気をつけてね」

「はーい」


 玄関前の階段に腰掛けたまま、何やら楽しげに話しながら歩いて行く弟たちを見送る。

 一つ息を吐き、「さてと」と立ち上がった私は、汗を流そうとお風呂へ向かった。




 シャワーを浴びた後、再び外へ。


 なんか、家の中にいる時間が短くなってる気がするな。なんだろ、自然と足が外に向かうんだよね。


 ……これも、習慣って奴かな。まぁ、部屋にいてもすること無いしね。

 家事も、弟たちがしてくれるようになったから、外で身体を動かすくらいしかやることが無いって言った方がいいのかも。

 勉強は、……うん、程々にはやってるよ。


 私の家の周りには、あまり家が建ち並んでない。街の中心部へ行けば、それなりに建物は増えてくるんだけど、この辺りには畑などの農地の方が多い。

 だから、建物に遮られることなく、心地いい風が吹き抜けていく。私はまた階段に座り、濡れた髪を風に晒す。


 昼食を摂ったら、またトレーニングだ。今のうちにゆっくりしとかないとね。

 目を閉じて、風を浴びながら息を吐いた直後だった。


「――!」

 悲鳴が、聞こえた。かなり大きく。そしてそれは、一つだけじゃない。


「なっ、何?」

 慌てて立ち上がった私の後ろで、玄関のドアが乱暴に開く。


「お父さん。今の聞こえた?」

 飛び出してきた父に問いかけるけど、返事は無い。父は悲鳴が聞こえる方を向き、「まさか」と呟いた。


 それを聞いて、ぞっとする。まさかって、つまり……。

 父の顔が、突然こちらに向けられる。


「スヴェンとミリィは? まだ帰ってきてないのか!」

 私が返事をするよりも早く、父は駆け出した。


「お父さん! 待って!」

 ものすごいスピードで駆けていく父の後を、私は必死に追いかける。


 ……さっきの悲鳴、商店街の方角からだった。

 まさか、……ないよね?


 大丈夫だよね? スヴェン! ミリィ!

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