17-4
フランカに渡されたタオルを首に掛けたまま、結果発表を待つ。
と言っても、ここにいる誰もが、すでにそれを知っていた。
さっきの最終戦で使用された舞台は、一つだけ。つまり、その舞台で戦っていた2人が、残された2枠を手にしてしたわけだ。
それが私と、私と二度に渡って戦った、受験番号2016番、エミー・ラシュトンである。
あの最終戦を迎えた時点で、私とエミーは全勝、ほか5人は2敗以上していた。
だから、私たちのどちらかが負けて1敗となっても、2人とも通過は確定しているのだから、そもそも最終戦を行う理由は無かったんだ。
だけど、私たちは戦うことを選んだ。戦いたいと先に言い出したのは、私。1戦でも多く戦闘経験を積んでおいた方がいいと思ったんだ。
そんな私の声に、エミーも同調した。彼女がなぜ、はっきり言って無駄な一戦を引き受けてくれたのかはわからない。
それでも、私は嬉しかった。結果として、これまでで最高の戦いもできたし。
彼女には、感謝している。
「今日の結果で、受験番号2016番と2079番の2人が、最終試験へ進むことが決定した。ほかの5人もよく戦ったが、この2人の実力には及ばなかったといったところか。こちらとしても、良い戦いを見せてもらった。ご苦労様」
審判を務めた協会員たちの言葉をもらい、解散。
落ちた5人はさすがに肩を落とし、涙ぐんでいる子もいた。その様子を見て、心を動かす必要は無い。無いんだけど、やっぱり気の毒に感じた。
だって、彼女たちだって、辛く厳しい訓練を経てここに来ているわけだし、その努力が報われなかった絶望感は、半端なものではないはずだから。
中には、また次の試験を受ければいいと考えている子もいるだろう。
だけど、もしも私と同じように、もう後がない子がいたら?
その原因が、私に負けたことだとしたら?
……やめよう。そんなことをいくら考えたって、もう結果は出ているのだから。
私は受かり、彼女らは落ちた。それが事実であり、現実なんだ。
はぁ……。まだまだ心が弱いのかな、私。
宿舎へ変える途中で、「おーい、ティナさーん」と声を掛けられ、足を止める。振り返ると、こっちへ駆けてくるエミーの姿を見つける。
後ろで束ねた茶髪を揺らしながら私の前まで来たエミーは、切り揃えられた前髪の下にある大きな目をキラキラさせて私を見つめる。
「エミー……さん。えっと……」
何の用だろう。
私と一緒に歩いていたフランカたちも見守る中、エミーは私の右手をガシッと掴むと、ぐいっと引き寄せて両手で包み込んだ。
「えっ、なっ……?」
「ありがとねっ!」
「え?」
戸惑う私に、エミーはニッとまぶしい笑顔を見せる。
「あなたとの試合、最高だったよ。1回目は、なんだかちょっと迷ってる感じがあったけど、さっきの試合ではまるで別人のようだった。あんなに強いのに、なんで6敗もしたの? って、それは私もだけどさ。あはは。んじゃま、最終試験も頑張ろうね、お互いに!」
私が「あ、はい……」とおどおどしている間に、エミーは「じゃーねー」とぶんぶん手を振りながら走り去っていった。
その姿を、私たちはぽかーんと口を半開きにして見送る。
「……元気な奴だな」
イライザが呟くと、フランカは「そうですね」とにこにこしながら言った。
私は、……そりゃ突然だったからびっくりしたけど、エミーの言葉をもう一度思い出し、嬉しくて、いつの間にか笑みを浮かべていた。
うん。最終試験、頑張ろう!
その後着替えを済ませ、みんなと一緒に、少し遅い昼食を摂りに食堂へと向かった。
ほとんど人のいない食堂で、静かにお腹を満たしていた私たちのもとへ、「よぉ」とあいつがやってきた。リュシーだ。今日は、その横にテッサもいる。
「どうやら、ギリギリ次に進めたみたいだなぁ、ティナ。よかったじゃねぇか、おい」
私の横に来て、ねっとりとした口調で言うリュシー。腹は立つけど、無視するとうるさいだろうから、私は食事の手を止めて、「どーも」とだけ返した。
その態度が良かったのか悪かったのか、リュシーは「はっ」と鼻で笑って、視線をマリサへ移した。
「……マジなんだな」
それが何に対する問いなのか、マリサにはわかっているようだ。持っていたスプーンを置き、リュシーと目を合わせる。そして、「うん」と頷いた。なんだかわからない私たちは、じっと2人の様子を注視する。
「……ふん。まぁ、一応信じてやるよ」
あ、これって、例の件の続きかな。突然始まったな……。
リュシーは溜め息をつき、不満そうな顔で頭を掻く。そこへテッサが来て、マリサとリュシーの間に入る。
「じゃあ、これで仲直りってことで……」
「いいわけねぇだろ。アホか」
ぴしゃっと言い放ち、テッサの笑顔を強張らせるリュシー。
「言ったろ。あたしは別に、あの人を取られてこいつを恨んでたわけじゃねぇって」
確かに言ってたな、そんなこと。でも、それって結局……。
「あの人が、マリサばかり気にかけて、自分より強くしちゃったことが気に入らないんでしょ? 分かってるよ。何度も何度も言ってたもんね!」
テッサの口調が、突如としてきつくなる。さすがのリュシーも、目を丸くした。
「でも、それってやっぱり嫉妬だよ。ただの嫉妬! それにさ、どうしてこう考えないの? マリサの方が、リュシーよりも才能があったんだって。いい加減に認めなよ!」
「テッサ……」
リュシーはよろりと後退り、顔を歪めた。悲しげに。
それは、親に叱られた子供が見せるような表情だった。
「うるせぇ。……うるせぇよ、くそっ」
悔しげに唸りながら、リュシーは身を翻し、食堂を飛び出していった。その後ろ姿に、「あっ」と手を伸ばすテッサ。
そしてその直後、マリサが立ち上がり、リュシーを追いかけて食堂を出て行く。
私たちは無言のまま、それを見送るしかなかった。
だけど、私は聞いた。
リュシーがテッサに背を向けたあの瞬間、彼女が囁くように漏らした言葉を。
――わかってんだよ――
あの子は確かに、そう言った。




