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01-4

 父を剣の師と仰ぎ、特訓を始めて1週間が経った頃、すでに私の身体は限界を迎えていた。

 自分でも驚いてる。まさか、ここまで力も体力も無いとは、思ってなかった。


「どうした、ティナ。さっさと立て! さっき休んだところだろう」

「くっ……」

 そんなこと言われたって、身体が言うことを聞かないんだよ。


 それでも私は、渾身の力を込めて立ち上がり、もう力の入らなくなった手で木刀を構える。


「続き、行くぞ!」

「はい!」

 父は木刀を振り上げ、私の頭部目がけて振り下ろしてくる。その攻撃を木刀で受け止め続けるのも、訓練の一つだ。


「13! 14! 15!」

 父の攻撃に容赦は無い。受け止めるごとに、腕や肩、それから足に痛みが走る。別に怪我をしているわけじゃない。ただの筋肉痛だ。その、ただの筋肉痛がキツい。痛すぎて、感覚が無くなってるもん。


「25! 26! 27!」

「うあっ!」

 衝撃と痛みに耐え切れなくなり、私はまたしても木刀を叩き落された。


「さっさと拾え!」

「うぅ……」

 手が痛い。地面に落ちた木刀の柄には、赤黒く血が滲んでいた。見ると、手のひらにできたマメが全部潰れていて、酷い有り様になっている。


 それを見た父は、溜め息混じりに「休憩だ。手当てしてこい」と呟いた。

 私は「うん」と頷き、フラフラと家の中へ。




 1年も酒浸りになってぶらぶらしていたのにもかかわらず、父の力も体力は、全く衰えていないように見える。


 いや、多少は衰えていたのかもしれないけど、私に指示したトレーニング量と同じかそれ以上を自らもこなすことによって、あっという間に引き締まって以前の状態に戻ったと言うべきだろうか。


 とにかく、父は強い。

 多分、父はものすごく手加減して私に合わせてくれているんだろうけど、それでもついていくのがやっとだ。その証拠に、私は汗だくのフラフラだけど、父は汗一つかかずに平気な顔をしている。


「いたたたぁ~……」

「大丈夫? 姉ちゃん」

 洗って消毒した私の手のひらに、ミリィが包帯を巻いてくれる。私は「大丈夫」と笑って見せたけど、ミリィには「引きつってるよ」と痩せ我慢はすぐにバレた。



 私が父の特訓を受けるようになると同時に、スヴェンとミリィが私の代わりに家事をしてくれるようになった。


 スヴェンは掃除と買い物、ミリィは炊事と洗濯というように、役割を分担して。


 これまで、ほとんど手伝いすらしてくれなかった2人が、まさかこんなに協力的になるなんて思いもしなかった。多分だけど、父に何か言われたんだろうな。


 何にせよ、嬉しい。ただ、まだ2人とも家事に慣れていないから、結局私が出ていって教えなくちゃいけないんだけど。



「ありがと、ミリィ」

 そう言って立ち上がると、ミリィは私の服の裾を引っ張って止めた。その程度の衝撃だけで、私はふらついてしまう。


「そんなフラフラで、まだやるの?」

 不安げに私を見上げるミリィに微笑みかけ、「外でお父さんが待ってるから」とリビングを出た。


 そりゃあ、休みたいよ。もうホント勘弁してくれってとこまで追い詰められてるよ、心も身体も。


 玄関のドアを開け、庭で待っていた父のもとへ戻る。


 ……でもね、やらなきゃいけないんだよね。休む時間が惜しくて惜しくて仕方ないんだもん。


「続き、お願いします」

「おう」

 父に木刀を渡され、構える。


 そうして私達は、完全に日が暮れてスヴェンとミリィが呼びに出てくるまで、特訓を続けた。




 ほぼ全身が筋肉痛。歩くことはもちろん、お風呂に入るのもベッドに寝転がるのも一苦労だ。


 机の上のオイルランプの火を消し、私はのそのそとベッドへ向かった。


「いつつつ……」

 どうにか仰向けになり、掛け布団を引っ張って掛ける。ようやく今日一日が終わることに、私は大きく息を吐いて安堵した。


 基礎体力の向上のため、登下校は走り、家に帰れば、腕立て伏せや腹筋などの筋力トレーニング。そして、それが終われば木刀を持っての剣術訓練が始まる。

 どうにか一週間耐え抜いたけど、これがこの先も続くと思うと、溜め息しか出ない。


 正直、後悔することもある。どうして、傭兵になるなんて言っちゃったんだろうって。

 だけど、すぐに思い直すんだ。苦しむのは私だけだし、私が頑張って傭兵になれば、家族は幸せになれるんだ、って。


 どれだけ後悔しても、その何倍もやる気の方が大きくて強くて、苦しみなんてどうでもよくなる。


 頑張ることを義務だと思ったことは無い。やる気は、自然と湧いてくる。そしてそれが、ちゃんと行動に反映されている。

 試験の日まで、この状態を維持していく。自信はある。やれるって思うんだ。


「……頑張ろう」

 明日のために、私は目を閉じて、眠りについた。

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