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マーセナリーガール -傭兵採用試験-  作者: 海野ゆーひ
第12話「ヴェルレ姉妹」
49/106

12-4

 食堂での一件で、不愉快な心持ちまま、午後の日程を迎える。


 午後は4試合。私は、心の中にわだかまる苛立ちを発散するかのように、剣を振り続け、そして勝ち続けていった。




 そうして、今日の最終戦。


 リュシーの言っていた通り、相手はテッサだった。協会員に聞いて、教えてもらったのだろうか。


「……あの、昼間はすみませんでした」

 心底済まなそうに謝ってくるテッサに、私は「いいよ」と短く応じる。


「別に私、あなたには怒ってないから。謝るべきは、あの子でしょ」

 代わりに謝られても、不満や苛立ちが消えるわけがない。それに、あれだけ好き勝手言われたんだ、簡単に許せるものじゃない。


 すると、テッサは表情を引き締め、「そうですね」と呟いた。


「でも、あの子は謝れと言って素直に謝るような子じゃありません。だから、私が……」

 2人は双子で、テッサが姉だっけ? これまでも、妹の言動には苦労させられてきたんだろうな。


 妹が問題を起こし、姉が火消しをする。私にも妹がいるけど、あの子は他人に迷惑をかけるような子じゃないから、テッサと同じ思いを味わったことはない。

 だけどきっと、テッサはリュシーのことを大切に思っているんだろう。でなければ、代わりに謝ることなんてしないはずだから。


 審判らの手が上がる。私たちは互いに剣を構えた。


 リュシーの言葉を思い出す。

 ――テッサに勝てなければ、自分にも勝てない――

 彼女は、確かにそう言った。そして、私はここで1敗すると。


 ……相当な自信だね。この子がどれだけ強いのか知らないけど、私は負けない。

 絶対に、勝つ!


 そして、審判たちの手は「はじめっ!」の声と共に振り下ろされ、私は早々に地面を蹴ってテッサに肉薄した。




 試合開始から3分ほどは、テッサは私の猛攻を防ぐだけで精一杯といった感じだったんだ。


 だけど、苦しげだった彼女の表情は、突如、一変する。


 顔が、歪んだ。一方的に攻撃されていることに対する歯痒さなどではない。

 それは、明らかに笑みだった。

 しかしそれは、戦うことに喜びを感じているような好戦的なものでもなく、全く異質な微笑。


 ……その顔は、明らかに私を見下していた。


 そしてそこからは、もう私の攻撃は当たらなかった。あの苦しげな様子は、私の実力を計る演技だったんだ。


「この程度なんだ……」

 そんな呟きが聞こえたと思った直後、私の側頭部に強い衝撃が襲う。


「うっ」

 これがもしも真剣であったなら、私は今の一撃で死んでいた。そんな余計な思考が浮かぶのとほぼ同時に、今度は後頭部に衝撃。


「くっ」

 瞬時に身を翻して、その勢いで剣を振るけど、すでにそこにテッサの姿は無い。


「――!」

 いや、いた。下方から突然姿を現したテッサは、刃物のように鋭い視線を私に突き刺しながら、私の剣を大きく弾き、返す刀で私の胸に刺突を繰り出す。


 慌てて剣を振り下ろす。

 しかしテッサは、まるで剣の軌道を知っているかのような無駄のない動きでそれを躱し、私の額に一閃。

 その一撃に思わずふらついた私は、テッサのさらなる猛攻を許すこととなる。


「くっ」

 どうにか体勢を整えて攻撃に転じてみても、いくら刃をかち合わせようとも、それがポイントに繋がらなければ意味が無い。


 私の攻撃は悉く外れ、または受け止められ、テッサの攻撃はほぼ確実に私の攻撃有効箇所を捉えていく。


「くそっ」

 攻撃が外れるたびに、焦慮は募る。焦慮は、次第に攻撃を大振りさせる悪影響をもたらし、私から冷静さを削ぎ落していく。そして、体力を無駄に消耗させていく。


「くそぉ!」

 どうして当たんないの! どうして、……どうして!


 “1敗”の文字が、脳裏をよぎる。このままじゃ、リュシーの言葉通りになってしまう。


「だあぁぁっ!」

 胸に一撃を食らった直後、私はテッサの刃がまだ胸に残った状態で前進し、力任せに剣を袈裟懸けに振り下ろした。テッサの目が、わずかに見開かれる。


 しかし、テッサは首をひょいと横にずらし、私の攻撃を首の付け根に吸い込ませた。そこは、攻撃有効箇所じゃない。テッサは痛みに顔を歪めるけど、それだけだ。

 一瞬の後には、彼女の剣が、もう何度目かになる頭部への攻撃を成功させていた。


 どうやっても、当たらない。その現実に、心が折れかける。だけど、ここで諦めちゃ駄目だと自分を叱咤し、次の攻撃へ移ろうとした、その時だった。


「そこまでっ!」

「――!」

 審判の声が響き、私の眼前で、テッサが構えを解いた。その顔からは、すでにあの嘲笑は消えている。


 あるのは、余力をありありと残した、疲労を感じさせない静かな表情だった。


「61対17で、受験番号2011番の勝ち!」

 無情にも告げられる、試合結果。


 惨敗だ。私とテッサには、あまりにも実力に差がありすぎた。


「こんな程度じゃあ……」

 私の横を通り、一足早く舞台を下りるテッサが、言葉を残していく。


「あの子には、絶対に勝てないですよ」

 舞台の上で1人、私は頬を歪め、歯をギリリと噛み鳴らした。




 初日の結果は、私とフランカが8勝1敗で、マリサとイライザは全勝。

 特にマリサは、9戦全て失点無しというから驚きだ。リュシーの言葉は、ここでも間違っていなかった。


 まだたった1敗だと、落ち込む私をフランカが励ましてくれたけど、彼女の1敗は、うっかり足を踏み外して舞台の外へ出てしまったことによる減点が原因。

 私の惨敗とは、内容が違いすぎる。


 次の試合は明後日。

 私は、それまでに気持ちを切り替えることができるのだろうか。


 不安は募り、心の強度はじわじわと落ちていく。


 ――3敗は確定――

 リュシーの憎たらしい顔と言葉が、何度も私の心を襲い、傷を広げていった。

次週12/30の更新はありません。次の更新は2013/01/06です。

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