05-1
次の休日、私は父と共に、バラルトのさらに南にあるエンシーナを訪れた。
モンテスよりも国の中央に近いこともあり、モンテスよりも大きく、人も多い街だ。駅前に噴水付きの広場がある点からして、都会っぽい空気を感じる。
「ティナ、行くぞ」
駅員からゴルドベルグ修道院の場所を聞いて戻ってきた父が、私を追い抜きつつ言う。私は「うん」と返事してその後を追った。
正直言って、私は修道院よりも別の物に関心を抱いている。
だってここには、私の目標への第一歩があるのだから。
傭兵採用試験は、一次、二次、最終の3段階の試験で構成されている。
一次を小試験、二次以降を本試験と呼び、国の各地にある小試験場で行われる一次試験に合格した者だけが、首都カランカで行われる本試験へとコマを進めることができるんだ。
そして、ここエンシーナにもその小試験場があり、私はここで一次試験を受ける予定。
受験申請受付は一次試験のひと月前から始まるから、その時またここに来なくちゃいけない。
大通りの向こうに、小試験場の建物が見える。それを見ているだけで、気分が高揚した。
だけど、修道院はそっちには無い。大通りから小さな通りに入って見えなくなるまで、私は小試験会場を見つめ続けた。
そのせいで、人にぶつかりそうになったけど。
両側に様々な店が並ぶ細い道を進み、やや開けた場所に出た後、さらに街の東へ進む。
ここらは住宅街のようだ。駅前やそこから続く大通りの周辺とは異なり、この辺りの街並みは落ち着いている。
街の規模はモンテスよりも大きいし、モンテスと比べれば都会な雰囲気だけど、大通りから一本入れば、やっぱりここも田舎町なんだなと認識させられる。
「……ああ、あれかな」
父が見つめる先、住宅街の中を走る道、その奥の方に、大きな建物が見えてきた。近付くにつれ、視線が上向いていく。
白い壁で囲まれた広い敷地の中に、白い石造りの立派な建物。門から繋がる広場には噴水があり、建物の周囲には緑が広がっている。
まるでお城のようだけど、それほど巨大ではない。よくよく見れば全体的に薄汚れていて、壁のレリーフは風化しかかっている。それなりに、歴史がありそうな修道院だ。
「とりあえず、入ってみるか」
父はそう言って、ずかずかと敷地内へ。門のところには誰もいないからそうするしかないんだけど、こんなところに勝手に入ってもいいものかと不安になる。
……まったく。今日行くって約束するなら、駅で待っていてくれとかついでに言っておくか、最低でもここの場所を聞いておくかしておくべきでしょうに。要領が悪いんだから。
それにしても、人の姿が無いな。みんな建物の中にいるんだろうか。
「どちら様でしょうか」
「!」
突然声をかけられ、私達は足を止める。声のした方を見ると、どこから現れたのか、紺色の修道服に身を包んだ女性がこちらを見ていた。
その修道女は静かに歩み寄ってきて、私達の前で足を止める。
「……ああ、えぇと、ここにフランカという娘がいるはずなんだが」
父の言葉に、修道女の瞳が細められる。
「まだ、私の質問に答えていただいておりませんが?」
……この人、なんか怖いな。
「ああ、俺はクレイグ・ロンベルク。こいつは娘のティナだ。先週、バラルトでフランカと出会ってな、一緒に訓練したんだよ。で、今度会いに行くって約束したんだ」
「……そうですか。では、そのままこちらでお待ち下さい。今、確認して参りますので」
修道女は怪訝な表情を浮かべたままそう言い残し、修道院の中へ入っていった。
その背中を見送った後、父は「あれが従者かな」と呟く。
「従者?」
そう聞いて顔を見ると、父は「ああ」と答えた。
「まだ確定したわけじゃないが、フランカが本当に王女だったなら、城からたった1人で出てくるなんて考えられんだろう? 何人か従者がいると見て間違いない」
……なるほど。この前、フランカとその関係者が一緒に暮らしているだろうと言っていたけど、そういうことか。
修道院を見上げる。
ホント、なんだって王女様がこんなところに。いや、まぁ、まだ決まったわけじゃないけどさ。
……何か、嫌なことでもあったのかな。
その後、すぐに戻ってきた修道女によって院内に入ることを許された私達は、一階東側の奥にある客間に通された。
そこはあまり広くない部屋だったけど、ソファやテーブル、カーペットやカーテンは綺麗で、よく手入れが行き届いているのが見て取れた。
外観から少し心配していたけど、中はそうでもないようだ。
「どうぞ、おかけになってお待ち下さい。今、お茶をご用意します」
ジゼルと名乗った修道女は、ほぼ無表情でそう言うと、私達の返事を待つことなく、客間の中にあるドアを開けて、隣の部屋に姿を消した。
……う~ん、まだ怪しまれてるなぁ。
2人並んで柔らかくもしっかりとしたソファに腰を下ろし、フランカを待つ。
すると、すぐに廊下の方から足音が聞こえてきた。早足、……いや、こりゃ走ってるな。
すぐに、客間のドアが開く。
「……おっ、お待たせいたしましたっ」
フランカはそう言い放って部屋に入ると、呼吸を整えながらこちらに歩み寄ってきて、「本当に、来て下さったのですね」と嬉しそうに向かいのソファに座った。
……さて、この子は本当にこの国の王女様なんだろうか。
父の顔をちらりと見やる。すると父もこちらに目をやり、私達は小さく頷き合った。




