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マリサが1位なのは、ここにいる全員がわかっていたこと。本番は、ここからだ。
マーセナリーライセンスをぼーっと眺めているマリサ以外の全員に、緊張が走る。
残すは2位から17位。
まだ名前を呼ばれていない22人が、試験官の顔に穴が空くほどの視線を送っている。
試験官は咳払いして、「では、続ける」と手元の順位表に目を向けた。
「第2位。ヘルムヴィーゲ国出身。受験番号2002番、ロシェル・オージェ」
受験番号から見るに、上位2人は小試験からずっと順位を維持してきたってことか。すごいなぁ……。
「第3位。ヘルムヴィーゲ国出身。受験番号2004番、リュシー・ヴェルレ」
やや不満げな顔で返事をして、前へ出て行くリュシー。
そして、ライセンスを受け取って戻る時に、わざわざマリサの横を通って舌打ちの音を残していく。ヤな感じ。
もちろん、マリサは全く動じないし、彼女の方を見ようともしなかったけど。
「第4位。ヘルムヴィーゲ国出身。受験番号2003番、ドミニク・マルティノン」
やっぱり、才能がある人は途中で大きく落っこちたりしないんだね。
「ここまで、ヘルムヴィーゲ出身の奴ばっかだな。やっぱ、ファミリアと戦う機会が多い国の奴らは違うぜ」
イライザが、顔を近づけてきてそう言った。確かにね。
口には出さないけど、なんかずるいよね。実戦経験を、いくらでも積めるんだもん。
そりゃ、強くなれるよ。
「第5位。ヴァルトラウテ国出身。受験番号2008番、ベルタ・シェーンハルス」
未だに、オルトリンデ国出身の子は呼ばれてない。
「第6位。ゲルヒルデ国出身。受験番号2007番、アドリアーナ・バルディ」
心の中で、じょじょに焦りが膨らんできた。
こんな上位にはいないことはわかっていても、まだ自分の名前が呼ばれていないという現実が、重くのしかかってくる。
合格できるのは、あと11人……。
「第7位。ヴァルトラウテ国出身。受験番号2006番、ハンカ・ダイスラー」
うう、怖い。このまま呼ばれなかったらどうしよう。
左隣にいるフランカも、ぎゅっと手を握って、その時が来るのを待ち望んでいる様子だ。
「第8位。ヴァルトラウテ国出身。受験番号2005番、ヨランデ・マッテゾン」
もう、8位まで発表されちゃったよ。
ていうか、まだオルトリンデ国出身の合格者は出ないの?
いや、そんなことよりも、心配でしょうがない。私は? 私の順位は?
「第9位。オルトリンデ国出身。受験番号2009番、キャス・アランデル」
ようやく、このオルトリンデ国から合格者が出た。
自分じゃないのはわかってたけど、オルトリンデという単語が出た瞬間、すごくドキッとした。
「第10位。オルトリンデ国出身。受験番号2030番、イライザ・ヴィッカーズ」
「ぃよっしゃあああぁぁぁっ!」
呼ばれた途端、大声を張り上げて両腕を振り上げるイライザ。
あまりの喜びように、その場の全員が、目を丸くして彼女に注目した。
その後も、「よっし、よっし」とはしゃぎながら前へ進み出たイライザは、ライセンスを受け取ってまた「やったぜー! へへっ」と小躍りし、そのままの足取りの軽さで戻ってきた。
そして、私とフランカを見て「お先に」と全く悪気なく言い放った後、隣にいるマリサとライセンスを見せ合っていた。
私はフランカと目を合わせて苦笑いしたものの、すぐに余裕がなくなって笑みが消える。
鼓動は速く、激しい。
口から心臓が飛び出しそうになるって表現があるけど、今まさにそんな感じ。
「第11位。ヘルムヴィーゲ国出身。受験番号2011番、テッサ・ヴェルレ」
ヴェルレ姉妹は、2人共合格か。
前へ出て行くテッサの背中を、リュシーが見つめていた。
その口元に、意外なほど優しい笑みが浮かんでいたのが印象的だった。
「第12位。オルトリンデ国出身。受験番号2012番、イレーナ・ビリンガム」
あ~、怖い怖い! 早く、早く私の名前を呼んで!
「第13位。ヴァルトラウテ国出身。受験番号2019番、ドーラ・フルスト」
まだ呼ばれない。呼ばれないよっ、どうしよう!
「第14位。ゲルヒルデ国出身。受験番号2033番、カーリン・サンドリ」
あと3人? え、あと3人じゃんか!
私だけじゃない。フランカの名前も、まだ呼ばれてないよ。
まさか、……え? 嘘でしょ?
「第15位。ゲルヒルデ国出身。受験番号2027番、クラリーチェ・ボレッティ」
思わず、私とフランカは顔を見合わせた。
「ティナさん……」
「フランカさん……」
合格者は、あと2人。16位と、17位だけだ。
最終試験最終日の試験を受けるまでは、その順位に私とフランカがいた。
だから、それをちゃんと維持できていれば、2人共合格できる。今から、呼ばれることになる。
だけど、次で私とフランカのどちらも呼ばれなかった場合、どちらかの不合格が確定。
その次も呼ばれなかった場合、2人共不合格が決まる。
……2人共不合格になる事態が、そりゃ一番怖いよ。
だけど、どちらか1人だけ合格するという事態も、充分怖い。心情的には、後者の方が怖いかもしれない。
もしもフランカだけが合格した場合、私は喜んであげるべきだとは思う。
私だけが受かった場合も、フランカはそうするだろう。
でも、きっと心は晴れない。素直には喜べない。
いや、たぶん泣いちゃうと思うよ、そんなことになったらさ。
こんな種類の恐怖を覚えるのは、初めてだ。
怖い。もう言わないで。いや、でも、そんなわけにはいかない。
早く、次を発表して!
「先程言ったように、16位から23位までは、かなりの接戦だった。それぞれ、1、2ポイントしか違わないんだからな。こんな結果は、ここに長年務めているが、初めて見たよ」
ちょっ、ちょっとぉ! そんなことどうでもいいよ! 何語ってんの?
「この8人は、実力がほぼ拮抗しているということだ。できることなら、全員合格にしてやりたいところだが、合格者は17人と決まっている。今から発表する2人は合格。呼ばれなければ、傭兵候補生として頑張ってもらうことになる」
担当官となる傭兵と共に、3ヶ月間実際の仕事を経験する。それが、傭兵候補生となった場合に待ち受けている未来だ。
追い詰められた脳裏に、自然と、それに対する興味が湧いてきていた。
そんなこと、考えちゃいけないのに。ここで合格して、傭兵として働いて、家計を支えなきゃいけないのに。
歯を食い縛り、目をぎゅっと閉じる。
まだ結果は出てない。でも、私の心は、すでに諦めかけている。合格したいという思いと、もう駄目かもしれないという気持ちが、ぐちゃぐちゃに混ざって、ぐるぐると渦を巻いている。
目を開いた直後、協会員の口が開かれた。
どっちだ……?




