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マーセナリーガール -傭兵採用試験-  作者: 海野ゆーひ
第26話「それぞれの明日へ」
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26-1

 マリサが1位なのは、ここにいる全員がわかっていたこと。本番は、ここからだ。

 マーセナリーライセンスをぼーっと眺めているマリサ以外の全員に、緊張が走る。


 残すは2位から17位。

 まだ名前を呼ばれていない22人が、試験官の顔に穴が空くほどの視線を送っている。


 試験官は咳払いして、「では、続ける」と手元の順位表に目を向けた。


「第2位。ヘルムヴィーゲ国出身。受験番号2002番、ロシェル・オージェ」

 受験番号から見るに、上位2人は小試験からずっと順位を維持してきたってことか。すごいなぁ……。


「第3位。ヘルムヴィーゲ国出身。受験番号2004番、リュシー・ヴェルレ」

 やや不満げな顔で返事をして、前へ出て行くリュシー。


 そして、ライセンスを受け取って戻る時に、わざわざマリサの横を通って舌打ちの音を残していく。ヤな感じ。

 もちろん、マリサは全く動じないし、彼女の方を見ようともしなかったけど。


「第4位。ヘルムヴィーゲ国出身。受験番号2003番、ドミニク・マルティノン」

 やっぱり、才能がある人は途中で大きく落っこちたりしないんだね。


「ここまで、ヘルムヴィーゲ出身の奴ばっかだな。やっぱ、ファミリアと戦う機会が多い国の奴らは違うぜ」

 イライザが、顔を近づけてきてそう言った。確かにね。


 口には出さないけど、なんかずるいよね。実戦経験を、いくらでも積めるんだもん。

 そりゃ、強くなれるよ。


「第5位。ヴァルトラウテ国出身。受験番号2008番、ベルタ・シェーンハルス」

 未だに、オルトリンデ国出身の子は呼ばれてない。


「第6位。ゲルヒルデ国出身。受験番号2007番、アドリアーナ・バルディ」

 心の中で、じょじょに焦りが膨らんできた。


 こんな上位にはいないことはわかっていても、まだ自分の名前が呼ばれていないという現実が、重くのしかかってくる。


 合格できるのは、あと11人……。


「第7位。ヴァルトラウテ国出身。受験番号2006番、ハンカ・ダイスラー」

 うう、怖い。このまま呼ばれなかったらどうしよう。


 左隣にいるフランカも、ぎゅっと手を握って、その時が来るのを待ち望んでいる様子だ。


「第8位。ヴァルトラウテ国出身。受験番号2005番、ヨランデ・マッテゾン」

 もう、8位まで発表されちゃったよ。


 ていうか、まだオルトリンデ国出身の合格者は出ないの?

 いや、そんなことよりも、心配でしょうがない。私は? 私の順位は?


「第9位。オルトリンデ国出身。受験番号2009番、キャス・アランデル」

 ようやく、このオルトリンデ国から合格者が出た。


 自分じゃないのはわかってたけど、オルトリンデという単語が出た瞬間、すごくドキッとした。


「第10位。オルトリンデ国出身。受験番号2030番、イライザ・ヴィッカーズ」

「ぃよっしゃあああぁぁぁっ!」

 呼ばれた途端、大声を張り上げて両腕を振り上げるイライザ。


 あまりの喜びように、その場の全員が、目を丸くして彼女に注目した。


 その後も、「よっし、よっし」とはしゃぎながら前へ進み出たイライザは、ライセンスを受け取ってまた「やったぜー! へへっ」と小躍りし、そのままの足取りの軽さで戻ってきた。


 そして、私とフランカを見て「お先に」と全く悪気なく言い放った後、隣にいるマリサとライセンスを見せ合っていた。


 私はフランカと目を合わせて苦笑いしたものの、すぐに余裕がなくなって笑みが消える。

 鼓動は速く、激しい。

 口から心臓が飛び出しそうになるって表現があるけど、今まさにそんな感じ。


「第11位。ヘルムヴィーゲ国出身。受験番号2011番、テッサ・ヴェルレ」

 ヴェルレ姉妹は、2人共合格か。


 前へ出て行くテッサの背中を、リュシーが見つめていた。

 その口元に、意外なほど優しい笑みが浮かんでいたのが印象的だった。


「第12位。オルトリンデ国出身。受験番号2012番、イレーナ・ビリンガム」

 あ~、怖い怖い! 早く、早く私の名前を呼んで!


「第13位。ヴァルトラウテ国出身。受験番号2019番、ドーラ・フルスト」

 まだ呼ばれない。呼ばれないよっ、どうしよう!


「第14位。ゲルヒルデ国出身。受験番号2033番、カーリン・サンドリ」

 あと3人? え、あと3人じゃんか!


 私だけじゃない。フランカの名前も、まだ呼ばれてないよ。

 まさか、……え? 嘘でしょ?


「第15位。ゲルヒルデ国出身。受験番号2027番、クラリーチェ・ボレッティ」

 思わず、私とフランカは顔を見合わせた。


「ティナさん……」

「フランカさん……」

 合格者は、あと2人。16位と、17位だけだ。


 最終試験最終日の試験を受けるまでは、その順位に私とフランカがいた。

 だから、それをちゃんと維持できていれば、2人共合格できる。今から、呼ばれることになる。


 だけど、次で私とフランカのどちらも呼ばれなかった場合、どちらかの不合格が確定。

 その次も呼ばれなかった場合、2人共不合格が決まる。


 ……2人共不合格になる事態が、そりゃ一番怖いよ。

 だけど、どちらか1人だけ合格するという事態も、充分怖い。心情的には、後者の方が怖いかもしれない。


 もしもフランカだけが合格した場合、私は喜んであげるべきだとは思う。

 私だけが受かった場合も、フランカはそうするだろう。


 でも、きっと心は晴れない。素直には喜べない。

 いや、たぶん泣いちゃうと思うよ、そんなことになったらさ。


 こんな種類の恐怖を覚えるのは、初めてだ。

 怖い。もう言わないで。いや、でも、そんなわけにはいかない。


 早く、次を発表して!


「先程言ったように、16位から23位までは、かなりの接戦だった。それぞれ、1、2ポイントしか違わないんだからな。こんな結果は、ここに長年務めているが、初めて見たよ」

 ちょっ、ちょっとぉ! そんなことどうでもいいよ! 何語ってんの?


「この8人は、実力がほぼ拮抗しているということだ。できることなら、全員合格にしてやりたいところだが、合格者は17人と決まっている。今から発表する2人は合格。呼ばれなければ、傭兵候補生として頑張ってもらうことになる」


 担当官となる傭兵と共に、3ヶ月間実際の仕事を経験する。それが、傭兵候補生となった場合に待ち受けている未来だ。


 追い詰められた脳裏に、自然と、それに対する興味が湧いてきていた。


 そんなこと、考えちゃいけないのに。ここで合格して、傭兵として働いて、家計を支えなきゃいけないのに。


 歯を食い縛り、目をぎゅっと閉じる。

 まだ結果は出てない。でも、私の心は、すでに諦めかけている。合格したいという思いと、もう駄目かもしれないという気持ちが、ぐちゃぐちゃに混ざって、ぐるぐると渦を巻いている。


 目を開いた直後、協会員の口が開かれた。


 どっちだ……?

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