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傭兵採用試験日程・最終日。
今日で、15日間の試験の幕が下りる。
そして、私たち受験者の、未来が決まるんだ。
合格なら、傭兵になれる。
不合格なら、傭兵候補生か、次回の試験を目指すか、どちらかだ。
次回の試験は、また半年後。
うちに、それを目指しながら生活できるような、金銭的余裕は無い。
今回のこの試験で、合格するのが一番。いや、しなくちゃいけない。
最終試験2日目の段階で、私の順位は16位だった。
一昨日の試験の結果、その順位を維持できていれば、私は合格し、晴れて傭兵としての生活をスタートできる。
……大丈夫。自信はある。自分で自分に言える。よく戦ったと。
大丈夫。大丈夫だ。
合格して、傭兵として、家に、家族のもとへ帰るんだ!
ここでの最後の朝食を4人揃って摂り、私たちは、結果発表の場となるグラウンドへ向かった。
しっかりとした足取りで。
グラウンドでは、受験者たちが、男女別に指示された場所に集合していた。
男女の間にはかなりの距離があり、声もあまり届かない。
「あれ?」
なんか、違和感が……。
「どうされました? ティナさん」
フランカは、気付いていないようだ。
「なんかさ、人数、少なくない?」
グラウンドに入ってくる受験者の姿は、もうとっくに途切れていた。なのに、女子受験者の人数が、35人よりもだいぶ少ない。遅れてるのかな。
「そういえば、そうですね……」
フランカも、そしてイライザも、不思議そうな顔をしている。
「マリサさん、どう思う?」
イライザの隣にいるマリサに問いかけてみると、マリサは「わからない」と答えた。
「……ただ、一昨日の試験でファミリアを倒せなかった人たちが、ここにいないことはわかる」
ああ、そうか。
「怪我のせいで、来られないのかな」
「きっとそうですよ」
確かに、みんなかなりの大怪我を負っていたもんね。仕方ないか。
「……お、そろそろ始まりそうだぜ」
イライザの視線の先には、何やら脇に抱えた協会員の男性が6人。
彼らの半分が男子受験者たちの方へ向かい、残りの半分がこちらにやってきた。
「……よし。全員集まっているな」
全員? やっぱり、ここにいない人たちは、怪我のせいで出てこられないのかな。
私たちの人数を数えた協会員が、一歩前に出る。
「まずは、お疲れ様。よくここまで戦い抜いたね。二次試験も、最終試験も、この目でしっかりと見させてもらったよ。皆、自身の実力を発揮した素晴らしい戦いをしていた。こちらとしては、なかなか見応えがあったよ」
そう言ってから、協会員は一つ咳払いをする。
「さて。気付いている者もいると思うが、ここに最終試験に進んだ35人全員は揃っていない。その理由は、第一に怪我だ。そしてもう一つ……」
怪我以外に、何が?
「最終試験の結果、24位以下の者は不合格が決まり、すでにその者たちには通達済みだ。つまり、ここには、合格者か、傭兵候補生になる者かのどちらかしかいないということになる」
……完全に不合格になる可能性は消えたみたいだけど、胸を撫で下ろすのはまだ早い。
合格、3ヶ月後、半年後と3つあった未来が、2つに減っただけだ。
合格か、傭兵候補生か。
……う~ん。でもやっぱり、私にとっては合格以外は不合格と同じことなんだよなぁ。
「前置きはこのくらいにして、そろそろ結果発表に移ろうか」
と、とにかく、いよいよだ。ついに決まる。……ゴクリ。
「今から、合格者である17名の名前を、1位から順に発表する。呼ばれた者は返事をして前へ出てきてくれ。傭兵の証となる、マーセナリーライセンスを渡そう」
マーセナリーライセンス。その響きに、私の鼓動が激しくなる。
協会員は、脇に抱えていたバインダーを手にし、そこに挟んである紙に視線を落とす。
「……それにしても、今回の試験は極端な結果に終わったな。1人がダントツ、そして11位までと12位以下の差が激しく、16位から23位までは、わずか数ポイントしか違わない。ここ数年は、接戦になることが多かったんだが、今回は稀に見る面白い結果になった」
ダントツの1人ってのは、彼女だろうな。たぶん、ほかの子も確信していると思う。
当の本人は、ピクリとも表情が変わらないけど。
協会員は、また咳払いをして、今度こそ表情を引き締めた。
「それでは、第132期・傭兵採用試験・女子受験者の順位を発表する!」
……始まった。
「第1位。ヘルムヴィーゲ国出身。受験番号2001番、マリサ・トレンス!」
なんか予想通りすぎて、普通なら自分の順位を気にしてドキドキしてるところなんだろうけど、その時だけは全く緊張しなかった。
むしろ、彼女じゃなかったらどうしようって感じだよ。ほかの子も、「やっぱりな」って顔してる。
「はい」
全くいつもの調子で返事をし、すたすたと前へ出て行くマリサ。左右で結われた髪が、ぴょこぴょこ跳ねる。
「君の成績は、終始ダントツだった。最終試験2日目終了の段階で、すでに合格が決まっていたほどだからな」
「マジかよ。すげぇな、あいつ」
協会員の言葉に、イライザだけじゃない。周囲からどよめきが起きた。
じゃあさ、最後のあの試験は、勝っても負けてもやらなくても、どれでも良かったわけだ。
ホント、化け物だな、あの子は。
「へっ」
動揺する受験者たちの中、1人だけ忌々しげに頬を歪めているのは、リュシーだ。
忌々しいというより、単純に悔しいんだろうな、たぶん。
「おめでとう」
そして、マリサの手にマーセナリーライセンスが手渡される。それと、大きめの封筒も。
あれに、これからのことが書いてある書類が、いろいろ入ってるんだろうなぁ。そんな予想をしていると、マリサがやっぱり無表情で戻ってきた。
……さすがに、少しくらい嬉しそうな顔をしても、いいんじゃないかなぁ。




