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第五話 暗殺人形は銃声の唄を奏でる

10


「ひとつも……のこさない……」


 イスカ・ライプニッツは、遠方にある木造ビルの屋上を転々と移動しながら、王国警察が集めた警備用ゴーレムや、機動隊の人形駆動車を狙撃して、悉くを破砕せしめた。

 彼女の対物狙撃銃は、魔術に頼らずとも2000m先の標的を撃ちぬける、この世界で最長の射程を誇る携行兵器だ。敵がどれほどの人員が集めても、生身ではキリルが用意した青銅巨人に太刀打ちできない。


「つよくなる……。つよくなって……パパにあいにいく」


 イスカが引き金を引くたびに、スコープの中の人形が、手脚をとばし胴に穴をあけて倒れ、輸送車は横転する。

 こうやっておもちゃをこわせばこわすほど、ヤーコブはかせはよろこび、ほめてくれるだろう。

 そうすれば、もういちどパパにあえるかもしれない。おおきなてのひらで、なでてくれるかもしれない。

 王国の打倒? 大陸の新しい秩序? そんなものはどうでもいい。ただ父親に逢いたい。そんなささやかな願いだけが、イスカの望みだった。

 紫色に染まった遠くの空から、街中の学校に向けて、鳥型の人形輸送機が降りてきた。射程はぎりぎり。一撃で撃ち落せるかどうかは難しい。

 だから、灰色熊のぬいぐるみ、ベルの助言に従い、イスカは特別な弾頭を使った。

 氷の魔術が封じられた魔術弾―――。イスカが射出した弾丸は、中空で飛散、巨大な球状の魔法陣を形成した。

 直径20mに達する魔法陣は、つららをばら撒きながら爆発し、鳥型輸送機を飲み込んだ。後は大地に叩きつけられるか。空中で分解し、墜落するか……


「いけません! イスカ。ターゲットは無事です。次弾を、いえ、迎撃の用意をっ」


 白い霧に包まれて、輸送機を守るように、巨大な盾が広がっていた。

 明滅する魔術文字によって描かれた、円形魔法陣の盾は、爆風と氷柱を受け止めて揺るぎもしない。

 こんなものを作れるのは、イスカと同じ―――


「盟約者が来ますっ」


 契約神器(アーティファクト)の使い手のみ!


「……」


 白いローブにすっぽりと顔を隠し、イスカは弾倉に残る残弾を次々と射出した。

 空中に足場となる魔法陣を展開し、王国の盟約者は、まるで水をきる石のように、イスカへと迫ってくる。

 鋼鉄の装甲をも容易く穿つ銃弾は、王国の盟約者がもつ巨大な半円の刃と魔術文字の盾に弾かれて、損傷を与えられない。


(強い。私と同じ『神焉戦争(ラグナロク)』からの生き残りか)


 契約神器は魔術道具と違い、自身の意志と世界樹から魔力をくみ出す核を持っている。

 戦えば戦うほど攻防は洗練され、破壊すればするほど対象から魔力を奪って核を強化する。

 つまり、契約神器は成長するのだ。その目安となるのが位階だが、たとえ核の非力な低位の神器であっても、戦闘経験が豊富であれば、盟約者次第で上位の神器とも渡り合うだろう。


「イスカ、離脱をっ。あの者達は強いっ」

「ン」


 イスカが屋上を蹴り、宙に身を躍らせる。灰色熊のぬいぐるみ、ベルゲルミルは、イスカの着地点となる魔法陣を展開しつつ、彼女の身体に機能強化の魔術をかけて、脱出を助けた。

 ここで戦うわけには行かない。まだイスカは幼すぎるのだ。神器としての《力》が互角ならば、盟約者の技量と体力が勝負をわける。


(もう二度と、盟約者(あるじ)を殺させるものかっ)


 敵の盟約者が、半円の刃を投げつけてくる。自ら盾を手放したかと思ったが、違う。とび色の髪をひとつにくくった女。彼女の手には、いまだ刃が掴まれており、飛んできたのは三日月状の刃だ。否、それだけではない。少し膨らんだ十日夜月状の刃、対となる更待月状の刃などが、彼女の手から生じ、イスカを目掛けて飛来する。


(同一存在を複製可能な神器!)


 灰色熊のぬいぐるみは、つぶらな瞳で敵の神器の特性を把握して、ほぞを噛んだ。相性が悪すぎる。たとえるなら、取り回しのよい突撃銃を相手に、狙撃銃で市街戦をやらかすようなものだ。こちらの優位はあくまで有効射程の長さだ。障害物が多いこの場所で、鉄壁の防御と速射性を誇る相手にどう戦う。


(周囲の被害さえ考えなければ、迷わずにすむものを―――!)


 死と災厄をもたらすためだけに育てられた殺戮の人形。彼女を引き取った養父は、三つの約束を誓わせ、枷を嵌めた。


 ひとつ、仲間を殺してはいけない。

 ひとつ、己に武器さついを向けていない相手を殺してはいけない。

 ひとつ、死を辱めてはいけない。

 

 イスカは誓いを守るだろう。

 逃げ遅れた民間人がまだのこっている可能性がある以上、ナラールの荒野で使ったような強行制圧手段は使えない。

 そして、ベルゲルミルも知っている。誓いの破棄が、イスカを人間以外のモノに貶めることを――。


「イスカ。逃亡を最優先。射撃は控えてっ」

「……ン」


 イスカは襲い来る刃を徹甲弾で狙撃して、どうにか斬撃を交わしていた。撃っても撃っても刃の数は、増えてゆく。十六夜月、立待月、居待月、寝待月……。ビルとビルの間を潜り、時には魔法陣を使って屋上へと跳びあがり、誰もいない街をかけて、敵盟約者を誘導する。

 海岸に近づけてはならない。これだけの強さの敵だ。ゴーレム如きでは瞬殺される。

 イスカが逃れたのは、郊外の街奥にある小さな森。そこに作られた小さな墓場だった。


「んふふふ。つーかまえた」

「イスカっ」


 不意をつき、死角となっていた木陰から、半円の刃をもった女が飛び出してくる。

 気配をまったく感じられなかった。投げつけた無数の刃を囮に、なんらかの魔術で自身を迷彩し、接近を図ったのだろう。

 間一髪で刃を逃れるも、ローブはまっぷたつに避け、迷彩服をきた少女の顔があらわになる。


「この街は、私の庭みたいなものなの。さあ降参しなさい……って子供!?」


 半円の刃をもつ、とび色髪の盟約者、ジェニファ・ポプキンスは、イスカ・ライプニッツの素顔に絶句した。

 どう見ても10の齢に届かない幼い子供。こんな相手が警備のゴーレムを破壊し、輸送車を炎上させ、多くの警官(なかま)達を殺傷したというのか。


「……貴方を逮捕します」


 長い沈黙のあと、ジェニファがようやく吐き出した言葉。

 許せなかった。どこのどいつか知らないが、こんな子供をテロリストに仕立て上げた誰かが許せなかった。

 ジェニファは、赤褐色の瞳に怒りと悲しみをこめて、言葉を続ける。


「武器を捨てて。盟約者が相手なら、威嚇なしの攻撃も認められているの。絶対に、悪いようにはしないから」


 イスカは、無言で、腰に差したナイフを引き抜き、切りかかった。

 訓練されていたから。相手の甘さには、躊躇ちゅうちょなくつけこめ。それが王国人相手の鉄則だと学んだから。


「やめなさい。貴方は、騙されてるのっ」


 通じない。ジェニファは器用に半円の刃を回して、ナイフを弾く。

 それならば、と、イスカはナイフを投げつけて、作った一瞬の隙をついて、ジェニファに対物狙撃銃を向けた。


「このきょりなら……、はずさない」

「駄目ですっ、イスカ。その弾丸では私達も巻き込まれます」

「貴方、死ぬつもり?」


 ジェニファは、先ほど空中輸送機に飛んできた魔法陣の砲撃を思い出し、背筋を震わせた。

 彼女の神器で、もう一度受け止められるかは、五分と五分。

 でも、奇妙なぬいぐるみにイスカと呼ばれた娘は、確実に死ぬ。


「パパにあえないなら、いきていてもしかたがない」


 彼女の顔は、怒りも悲しみもなくて、ただ透き通って綺麗だと、ジェニファは思わず見惚れた。

 大地を踏み抜く。止めるために。


 でも、すでにかけられた指を止める事はできなくて。

 イスカ・ライプニッツは、引き金をひいた。


11

 

『パラディース教徒は神に選ばれた徳高き存在であり、奴隷のように労働で汗を流す下品な真似をしてはならない』


 西部連邦人民共和国で信仰されるパラディース教の教えのひとつである。

 残念ながら、こういった価値観は珍しいものではない。赤枝たちの世界でも、我々は白人だから有色人種を働かせるべきだ。とか、我々は大衆を導くエリ-ト市民であるため、愚鈍なる大衆こそが働くべきだ。とか、我々は官僚なので(略)、我々は組合員なので(略)、我々は団体(略)。

 ともあれ、パラディース教団にこういった考えをもつものが現れたのは、自然な流れだろう。


『我々は高貴なる存在なので、自ら手を汚すべきではない。戦争や粛清といった穢れた行為は、相応の道具が行うべきだ』―――と


 こういった教団幹部たちの需要にこたえるため、共和国では、古来から暗殺者を育成する機関がいくつも作られてきた。

 かつては栄華を誇りながら、あまりの横暴ぶりで政権を追われた軍閥〝四奸六賊しかんろくぞく〟の依頼によってヤーコブ博士たちが実行した殺戮人形計画もその流れを汲むものだ。

 博士たちは、共和国内で誘拐された赤ん坊や戸籍のない赤子を買い取り、標的を殺すためだけの道具として、徹底的な教育を加え育て上げた。こうして「製造された」人形達の心に倫理は無く、殺人に対する禁忌も、哀れみや慈しみといった余計な情愛ももたなかった。

 そもそも自我がないのだ。彼らは均一化され、同じ思考をもつことを強制され、主のため道具として使い捨てられることを、常識として受け入れた。その上で、万が一の反逆もないように、身体には外科手術で爆薬が埋め込まれ、徹底した精神束縛の魔術で心を縛られて、殺すという技術のみを刻み込まれた。


 第一ロットの最年少固体が八歳になった時、出荷前の最終品質確認試験が行われた。

 試験任務は、四奸六賊にとって目障りな、別軍閥の工作員を暗殺すること。

 事前の調査によれば、標的は、女にだらしなく大酒のみで、定まった住処を持たない流れ者。槍術が得意で格闘戦に秀で、魔術の心得もあるが、アーティファクトは所持していない。――まさに手ごろな暗殺対象だった。

 二〇体の殺戮人形達は、入念な準備の上で万全を期し、幾重もの罠を張った上で、森での野宿していた標的を計画的に襲撃した……が。


「こんな魂のこもらん刃や魔術で、この俺様が倒せるかぁぁああ」


 ニーダル・ゲレーゲンハイトという名の遺跡荒らしは、たった一人で全員を返り討ちにしたあげく、人形達をそのまま解放した。


「別れ際の言付けは、 

 ――男は二度と来るなよ~。次は容赦なくぶっ殺ス#から。

 ――女の子は勿論、何度来てもオッケー。10年ぐらいしたら優しく抱いてやるからなあ。

 であったということです」


 助手の報告に、ヤーコブ博士はしわの浮いた額をゆがめ、白髪をかきむしって、研究所の黄ばんだ床板を蹴りつけながら、地団太を踏んで憤激した。


「ワシの育てた人形達が、一矢も報えずじゃと!? 色仕掛けはどうしたのじゃ?」


 ヤーコブ博士の言うとおり、仮に襲撃に失敗したとしても、計画には保険があった。相手は名に背負う色狂いだ。床で殺すくらいわけもないはずだった。


「十二体全員が別個のやり方で誘惑したものの。――餓鬼には欲情できん。もう少し、しおらしさを学べや、な。と諭されたそうです」


 眼鏡を光らせて続けられた助手の報告に、ヤーコブ博士は天を仰ぎ、男泣きに泣いた。


「お、おのれ、ワシのロマンをっ、レーゾンデートルを否定するつもりぁ」

「は、博士っ? お気を確かにっ」

「そうじゃ。男は? フフフ。きゃつめ、漁色家は仮の姿、実は少年愛者じゃったか!」


 博士があまりに自信満々だったので、『だったら始末できてますよ』と、助手は指摘できなかった。仕方なく、棒読みで報告を続ける。


「八体が仕掛けたものの、全員が失敗。『ニーダル・ゲレーゲンハイトによる、よい男になるための三千の約束』という半日に及ぶ講義をみっちり聴かされたようです。……精神汚染は重度のものです。救護室の中でも、まるでノイローゼのように約束を繰り返しています。博士宛にも、講義を記録した水晶が届けられていますが、ご覧になりますか?」

「いらんっ! 嫌がらせか!」


 ガシャンと、送りつけられた記録媒体を床に叩きつけ、ヤーコブ博士は深く重いため息を吐いた。


「ワシらの計画の何が失敗じゃった……?」

「ひとつに、標的が悪すぎたというのがあります。人形達にかけた精神拘束の魔術と、間接部に埋め込んだ炸薬が、完全に消滅させられていました。異物とはいえ、肉体に癒着し精神に融合したものを、何の外的痕跡や内的後遺症を残さずに消し去るなど、我々にも、いえ、神器使いであろうとも不可能です。我々は、ニーダル・ゲレーゲンハイトを盟約者でないと侮っていましたが、彼は一流の、……怪物的なまでの魔術師です」

「相手が悪かっただけではあるまい」


 ヤーコブ博士は、粉々に砕けた水晶を見下ろした。割れた破片が、鏡あわせのように向かい合い、何人もの博士の顔を映し出す。


「怖れながら、価値観も同じ、思考法も同じなら……。同じ陥穽かんせいにおち、同じ弱点をかれ、同じ攻略法で撃破されます。身長も体重も性別も異なるものたちに、同一の存在である事を強いたのが、間違いだったのかもしれません。彼らは人形ではなく、人間なのですから」

「減点じゃ。彼らは人間ではなく、人形じゃよ。なぜなら、クライアントが、軍閥〝四奸六賊〟が人形であることを望んでいるからじゃ」


 真実も、正義も、道徳も、あらゆる定義は、教団上層部の意向が優先される。

 それこそが、この世に平等と繁栄の楽園を約束する、パラディース教の教義なのだから。


「じゃが、道具にはさみ七輪しちりんがあるように、多少の個性は許されよう。再度、精神拘束の魔術をかけて、個別に修行に送るとしよう。師匠候補となりうる暗殺者と魔術師をリストアップしておけ。依頼主にはワシが掛け合おう」

「はっ」


 命を受けた助手が部屋を退出しようとしたとき、ヤーコブ博士はいたずらっぽい笑みを浮かべて彼を止めた。


「待て。20番は、ニーダル・ゲレーゲンハイトの元へ送れ。あれは成績こそふるわんが、こう鞭打つとな、怯えた色気のある目でワシを見上げるんじゃ……。ニーダルよ、貴様も幼女の魅力に溺れ、十字架を背負うがいいわっ、ヒョォッホッホッ」

「博士、目的がかわってませんか……」

「うるさい。減点、減点じゃっ」

「ひええええっ」


 博士の思惑はともかく、なんとなく大丈夫だろうと助手は、あたりをつけた。

 ニーダル・ゲレーゲンハイトは、巷で噂されているほど悪人でも常識知らずでもない。

 少なくとも、自分達よりは―――と。


 彼の予想は、なかば的中し、なかば斜め上に外れることになった。

 一年後、ニーダル・ゲレーゲンハイトから送り返されてきた20番は、否、イスカ・ライプニッツ・ゲレーゲンハイトは、第六位級とはいえ、契約神器(アーティファクト)の盟約者となっていたからだ。


「き、きゃつは馬鹿かかぁああ」


 助手の報告に、ヤーコブ博士は土気色の顔を真っ赤に染め、白髪を逆立てて、研究所の黄ばんだ床板を踏み抜きながら、地団太を踏んで激昂した。


「ニーダル・ゲレーゲンハイトが、潜っていたライプニッツ遺跡で発掘した神器を修繕し、20番に与えたそうです。

 ――遺跡探索は共同作業だから、お前の取り分だ、と。

 信じられません。契約神器をひとつ教団に献上すれば、家どころか街ひとつ、いえ、それ以上のものを与えられるでしょう。それほどの宝を、自分を殺しに来た子供に与えるなど、狂気としか思えません。彼は、馬鹿です。大馬鹿者です!」


 眼鏡にひびを入れて続けられた助手の報告に、ヤーコブ博士は穴の開いた床と土で汚れた靴を見下ろしながら、がっくりと脱力した。


「契約神器を20番から奪うことは、出来るじゃろうか?」

「不可能です。契約神器の意志は、20番を我々の攻撃から全力で守るでしょう。盟約者でないものが、盟約者と戦っても、勝てるみこみがありません」

「契約を破棄させることは、どうじゃ?」

「20番から聞き出した契約の内容は、母たる魔女を守るという不可解なものです。破らせるには意味が不明ですし、仮に我々が契約の破棄を強要していると判断されれば」

「我々が神器にとって排除の対象となるか。忌々しいものじゃ。これで20番は、道具でありながら、道具ではなくなった……」

 

 それは偶然の出会い。ほんの小さな気まぐれが重なって吹いた、変化の風。


「NO.20です。きょうからいちねんかん、アナタのオモチャとなります。どうぞごジユウにおつかいください」


 ヤーコブ博士に教わったとおりに服を脱ぎ、白い裸身をさらした20番に、ニーダルは纏っていた赤い外套を投げつけた。


「……ったく、ドクトル・ヤーコブめ。なんて悪趣味な教育をしやがる。いいか、俺の言いたい事は二つだ。ひとぉつ、服を着ろ。俺はロリコンではないので、お前に裸になられても、近所の子を銭湯へ連れてくみたいで落ち着かん。ふたぁつ、お前は道具(オモチャ)じゃなくて人間だ。覚えてないんでさぁっぱりわからんが、人間を人間扱いしない宗教やら思想やらが、俺は心底嫌いだった気がする」

「でも、NO.20はドウグなのです」

「ああわかった。だったら今日から一年間、お前は俺の娘だ。これは命令だ。拒否は許さねえ」

「??」


 赤い外套にすっぽりと包まれて、20番は何を命じられたのか考えた。


「ちゃんとした名前もつけてやらねえと。ガキをナンバーで呼ぶな、破綻者(マッドサイエンティスト)ども。クソじじい(エーエマリッヒ・シュターレン)…にゃ任せられねーな。俺にゲレーゲンハイトなんて姓つけやがるし。皮肉かっての。……あん?」


 20番が、いや、先ほどまで20番だった「期限付きのニーダルの娘」は、父親に飛びついた。


「……パパっ」

「……い?」

「パパっ…パパっ…パパっ…」


 ニーダルは、すがりつく少女を抱き上げた。崩れかけた遺跡天井の割れ目から、空を飛ぶ名も知れぬ野鳥の姿が見えた。


「今日から一年間、よろしくな。イスカ・ライプニッツ。俺の娘」


 運命の風は、確かにイスカ・ライプニッツの扉を叩き、未来への道を解き放った。

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― 新着の感想 ―
[一言] こっちでも四奸六賊が出て来ましたか、と思ったらニーダル!(°°;) 赤枝の物語で名前が登場するとは。 彼が最も欲しがっている部員の情報が手に入るチャンスなのでしょうか。 名前が違うから気が付…
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