本編
「大学の講義でさぁ、愛の伝わる文章を書きなさいって課題が出たのよ。この手の課題って難しいし、恥ずかしよね。私みたいな乙女には愛の伝え方なんて分らないもんなのに。」
「ふーん」
「もう、またそうやって適当に聞いて、ちゃんと話を聞いてよ。」
「じゃあ聞こう。すでにその課題は終わったの、それともまだ下書きの段階なの。」
「さっき言ったとおり何を書いたらいいのか、さっぱり分かんなくて、とりあえず、恋みたいな感情を好きな人を考えながら書いたけど、ヤンデレ感がヤバくて。それを書き直すとただのプロポーズの原稿みたいになって、とりあえず、無茶苦茶変な気分になったんですよ。」
「ウケる。」
「コメントそれだけ? 酷くない。」
「知りたいんだけど、それってなんの講義の課題なの。」
「認知心理学の第一講の予習課題」
「ふーん」
「何さぁ、全部理解したような顔しちゃって。何を考えてるのか教えてよ。」
「課題って何なのか、考えたことある。」
「地獄のレポートのこと?」
「脳みそ死んでで草。」
「で課題に対する考察ってこれと関係あるの?」
「いや。例えばさぁ、もし自分がこの講義の講師だとしたら、この課題設定は適切なのかなぁ。」
「講師って基本、専門的なことやりすぎてて頭逝かれてるから、そんな課題の正当性的なこと考えたこと
ないと思うけどね。」
「確かにそうだね。でもこの課題は少し変だね。」
「どこが?」
「今までで、これほど回答の幅のある課題を出したことがあるかなぁ。」
「第一講の予習課題だからこれぐらい、抽象的な課題でもいいんじゃないの。」
「違うね。これ言っちゃうと講義つぶしそうだけど。」
「何々教えて。」
「この課題って【愛を伝える文章を書きなさい】なんだよね。」
「そうだけど。」
「愛を伝えるって誰に、何の愛を、どのように?」
「講師に好きな人について、書くこと?」
「そうだとしたら、既に一度プロポーズ分を書いている時点でこの課題から逸脱していることになる
よ。」
「たしかに」
「この、誰に、誰に関する、どのような文面で、という主語、目的語のない課題は受け手の心情によって
書き方が大きく変わるよね。」
「たしかに」
「で講義名が認知心理学なんでしょ。講師のやりたい事、モロバレだよね。」
「やりたい事って?」
「まだ,分からないんだ。馬鹿だねぇ。」
「馬鹿でもいいからさぁ、おしえてよぉ。」
「馬鹿は嫌いだから頭良くなれよぉ。でねぇ、しぶしぶ教えるけどさぁ、この講師はこの予習課題で、認知の差を計りたいんだと思うよ。」
「うんーん?」
「私はね、この課題を出されたら、猫に関する愛、というか好きなところを長々と書くね。肉球が可愛いとか、」
「私に肉球がついたら好きになってくれますか。」
「人外は守備範囲外だし、別にあんたのことは好みだけどね。」
「マジですか」
「まぁこんな感じで、この講師は学生がどんな場面設定でレポートを書くか楽しみにしてるんだよ。」
「なるほど。」
「たださぁ、ヤンデレ文とかプロポーズ文は痛いから止めてね。」
「さすがにそれは出さないよ。ていうか、講義の内容を推察するのはいいけどさぁ。結局、課題できない
じゃん。」
「あ、でもあえてヤンデレ文を提出するのもいいね。下書き見せてよ。」
「死んでもイヤ」
「ならもう、かまわないよ。」
「すいません、ごめんなさい見せるんで、メールで送るんで許してください。ほんと絶縁だけはご容赦く
ださい。」
「よろしい、絶縁はしないであげる。」




