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【完結】【連載版】悪役令嬢のメイドAですが、お嬢様の婚約破棄を阻止するのも私の仕事です  作者: 天地サユウ


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第四十九話 真実の姿

 王立淑女アカデミーを最短で首席卒業してから、数日後。


 私たちサザランド公爵家の一行は、クロード殿下との婚姻の正式な承認を得るため、王宮の最も奥深くに位置する『白亜の謁見の間』へと足を踏み入れていた。

 

 玉座には国王陛下が座し、殿下がお嬢様の手を取りながら、誇らしげに卒業の報告を行っている。

 

「父上、ロザリアは規定の通り、最低年数での首席卒業を果たしました。彼女の国家防衛に関する深い見識と、私を支える覚悟は疑う余地もありません。どうか、私と彼女の婚姻に正式な許可をいただきたく思います」

 

 殿下の言葉に、国王陛下も深く頷き、承認の印璽(いんじ)に手を伸ばす、その時だった。

 

「……お待ち。その書類に判を押すのは、いささか早計というものです」

 

 謁見の間の重厚な扉が開き、杖をつく静かな音が響いた。

 現れたのは、豪奢な漆黒のドレスに身を包んだ白髪の老貴婦人。

 先代国王の妃であり、現国王ですら逆らうことのできない王宮の絶対的権力者――ヴィクトリア大皇太后陛下であった。

 

「お祖母様……。しかし、ロザリアはアカデミーの審査員たちからも完璧な評価をもらっています」

「ええ、報告は聞いておりますよ。見事な防諜プロトコルに、完全なる食料安全保障、そしてシェルター構築。実に素晴らしい『国家防衛の才』ですこと」

 

 大皇太后は鋭い眼光でお嬢様を射抜くと、ゆっくりと視線を私に向けた。

 

「……ですが、それらの高尚な政治理念は、すべてそこの『有能なメイド』が後付けででっち上げた詭弁に過ぎません。そうでしょう?」

 

 私の心臓が、冷たい手で鷲掴みにされたように跳ねた。

 

「アメリアと言いましたね。お前のその類稀なる頭脳と、主人の異常な行動を『国家防衛』にすり替える話術には、感嘆すら覚えます。ですが、私の目は誤魔化せませんよ。ロザリア、お前の腹の中にあるのは、国家への忠誠でも王室の安寧でもない。ただ、クロードを己の鳥籠に閉じ込めたいという、醜く狂おしい『独占欲』だけです」

 

 一切の容赦もない真実の暴露。

 これまで私が必死に構築してきた論理の城壁が、絶対権力者の言葉一つで崩れ去ろうとしていた。

 

「大皇太后陛下、恐れながら申し上げます。主人の行動はすべて――」

「黙りなさい、メイド」

 

 私が一歩前へ出た瞬間、大皇太后が杖を床に強く打ち鳴らした。

 同時に、謁見の間に控えていた近衛兵たちが一斉に動き、私を壁際へと制圧した。

 

「アメリア……!?」

 

 お嬢様がハッとして私に手を伸ばそうとするが、近衛兵の冷たい槍の柄が遮る。

 

「クロード、お前は少しこの娘の狂気に甘やかされすぎました。王家の玉座は個人の身勝手な愛着で座れるほど軽いものではありません」

 

 大皇太后は殿下を厳しく一瞥すると、孤立したお嬢様の目の前へと歩み寄った。

 

「ロザリア、お前が真に王太子妃の器であると言うのなら、そのメイドを剥がした状態で証明してみせなさい。……今宵、私が主催する晩餐会において、クロードの新たな『婚約者候補』として、隣国の大公息女を招き入れます」

「……新たな婚約者候補?」

 

 お嬢様の声が低く、地を這うように響いた。

 

「ええ、お前は今宵、有能なメイドの口出しも、軍部エレノアの支援も一切禁じられます。己の言葉と立ち振る舞いのみで、その大公息女を退け、私に『お前の愛が王家を背負うに足る重さである』と認めさせてみなさい。もし、見苦しい嫉妬に狂うようならば、即座に婚約は破棄。サザランド公爵家ごと、王宮から追放とします」

 

 王家の権力を総動員した、極めて理不尽で残酷な『最終試験』。

 私という翻訳を失い、完全に孤立無援となったお嬢様。

 ただの嫉妬深い令嬢であれば、絶望して泣き崩れるか、殿下に助けを求める場面だ。

 

 だが、お嬢様は、うつむいたまま静かに肩を震わせて笑い出した。

 

「……ふふっ。良いでしょう。アメリアの知恵も、エレノアの力も不要ですわ」

 

 お嬢様は淑女の微笑みを浮かべ、大皇太后の厳しい視線を正面から受け止めた。

 

「大皇太后陛下、貴女は一つ致命的な勘違いをされておいでです。わたくしがアメリアに翻訳をさせていたのは、わたくし自身の行動を正当化するためではありませんわ。わたくしのクロード様への『重すぎる愛』が、無知な周囲の者を恐怖で壊してしまわないように、アメリアに『手加減フィルター』をさせていただけですの」

 

 それは誇り高き公爵令嬢による、隠された枷の解除宣言だった。

 

「今宵の晩餐会、楽しみにしておりますわ。わたくしのクロード様に馴れ馴れしく近付く羽虫(大公息女)を、王室の威信ごと、この手ですり潰して差し上げますから」

 

 私がいなくても、ロザリアお嬢様は決して弱い令嬢ではなかった。

 その根底にあるのは国家権力すら恐れぬ、クロード殿下への底知れぬ独占欲と純愛。

 

 壁際で近衛兵に拘束されながら、私は静かに息を吐き、口角を上げた。

 ――大皇太后陛下。

 貴女は、開けてはならないパンドラの箱を、ご自身の手でこじ開けてしまわれたのです。

 

 王立淑女アカデミーを最短で突破した公爵令嬢の『真の恐ろしさ』が、王宮の晩餐会で解き放たれようとしていた。

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