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【完結】【連載版】悪役令嬢のメイドAですが、お嬢様の婚約破棄を阻止するのも私の仕事です  作者: 天地サユウ


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第四十七話 最終実技試験

 王立淑女アカデミーの最終実技試験。

 規定である『最低二年での卒業』は、十年に一人と言われる難業だが、出番を待つお嬢様の背中に、気負いは見受けられない。

 しかし、その静寂をヴァレリア王女がヒールの音で踏み破りながら、歩み寄ってきた。


「ごきげんよう、ロザリア」

「……また、アンタ。本当に懲りないわね」

「まあ、そう仰らないで。最後に貴女へ言っておくことがありましてよ。明日、私は短期留学を終えてファルネーゼへ帰国いたしますの」

「あら、そう。やっとこの学園の空気も綺麗になるわね。せいせいするわ」

 

 お嬢様が鼻で笑って冷たくあしらうと、ヴァレリア王女は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

 

「ふふ、強がるのも今のうちですわ。貴女は『二年の壁』に阻まれて、もう一年この窮屈な学園に居残りでしょうから……殿下のことは、私が海の向こうから慰めて差し上げますわ」

 

 帰国するという身軽さを利用した、最後にして最大の嫌味。

 火花を散らす二人の対峙を、私は壁際から静かに見守る。

 

「居残りですって? 寝言は船の上で言いなさいな。わたくしが今日、最短での卒業を確定させる理由はただ一つ。クロード様の隣に陣取り、アンタみたいな泥棒猫からの書簡も声も、二度と届かないように叩き落とすためよ。帰りの船で、せいぜい自分の無力さを嘆いて絶望なさい」

「くっ……! その強がりがいつまで続くか見物ですわ。せいぜい最終試験で大恥をかくことですわね」


 お嬢様の揺らぎない卒業宣言。

 圧倒的な気迫に、ヴァレリア王女は息を呑み、逃げるように足早に去っていった。

 

 ◇


 大講堂の特設サロン。

 重鎮たちが審査席に並ぶ中、いよいよお嬢様の実技試験が幕を開ける。


 科目は『有事における国賓の接待』。

 審査席には重鎮たちが並び、主賓役には、クロード殿下だ。

 

「サザランド公爵家、ロザリア様」

 

 お嬢様は殿下の対面に座るなり、扇子で合図を送る。

 サザランド家のメイドたちが一斉に動き、楽団や給仕など無関係な人員を室外へ叩き出し、窓のカーテンを閉め切った。 

 外界から隔絶された薄暗い空間。

 

「クロード様、有事の外界は嘘に満ちています。ですから、貴方の視界も耳に入る音も、わたくしが絞り込みました。もう何も見ず、何も聞かなくて結構です。泥棒猫の甘言も、外の景色も、すべて遮断した静寂で、わたくしの声だけを信じてくださいませ」

 

 極めて優雅に実行された、重度な『情報統制と心理的隔離(洗脳環境の構築)』。

 接待の場で客人の情報を遮断する異常行動に、審査長が顔を引きつらせた。

 

「な、なんという無作法な! 国賓から情報を奪って孤立させるなど、ただの軟禁です! 落第ですわ!」

 

 審査長がペンを叩きつけようとしたその時、エレノア嬢が声を上げる。

 

「見事な心理的防諜ですわね、ロザリア様。有事で最も恐ろしいのは不確かな情報による混乱です。人員を排除し、視覚と聴覚を一本化することで、このサロンは暗殺や心理戦のリスクを極限まで下げる『最高レベルの情報隔離室』へと変貌しましたわ!」

 

 狂気的な隔離行動を、情報戦の観点から絶賛したエレノア嬢だが、審査長が「茶会を尋問室にするなどあってはならん!」と顔を真っ赤にして声を荒らげた。


 これ以上、話が妙な方向へ転がる前に収拾をつけるべく、私は静かに前へ出る。

  

「失礼いたします。主人が実演されたのは、我が国が直面し得る『最高警戒レベルにおける、国家元首の意思決定保護プログラム』でございます」

 

 ただの独占欲による情報遮断が、『最先端の危機管理セキュリティ』へとすり替えられた。

 

「外界のノイズを完全に遮断し、自らが唯一の絶対的な防壁となる。これこそが未来の国母としての『実戦的かつ究極のホスピタリティ』に他なりません。そうですよね、審査長殿?」

 

 退路を断つ問いかけに、審査員たちは反論を失い、震える手で『満点(合格)』の欄にペンを走らせた。

 最短期間での卒業が確定した瞬間である。

 クロード殿下は深く息を吐き、優しく微笑んだ。

 

「有事の混乱から僕の思考を守るために、あえて批判を浴びるような徹底した隔離環境を構築してくれていたんだな。ありがとう、ロザリア」

「ッ……!?」

 

 殿下の真っ直ぐな感謝を浴びて、お嬢様の顔が一瞬で真っ赤に染まる。

 

「ば、馬鹿じゃないの!? アンタがすぐ他国の甘言(女)に耳を貸してフラフラするから、わたくしが物理的に情報を遮断して守ってあげるって言ってるだけよ! ちょっと静かな部屋になったくらいで感動してんじゃないわよ、この警戒心ゼロの鈍物ポンコツ殿下!」

「ポ、ポンコツ……」


 殿下は一瞬目を丸くしたが、いつもの照れ隠しからの暴言だと真意を読み取り、嬉しそうに微笑んだ。


 お嬢様の狂気と独占欲に満ちた最終実技試験は、審査員たちを沈黙させるという、前代未聞の結末を迎えたのだった。

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