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【完結】【連載版】悪役令嬢のメイドAですが、お嬢様の婚約破棄を阻止するのも私の仕事です  作者: 天地サユウ


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第二十一話 王者の行進

 翌朝。

 バルコニー会議。

 グレン様は、昨日のハエトリソウに噛まれた指に絆創膏を巻いていた。


「……おはよう、アメリア」

「おはようございます。名誉の負傷ですね」

「ああ、植物にまで敵対されるとは思わなかった。それで、今日の課題は?」

「『礼法』です。つまりマナーです。講師はマダム・ロイヤル。歩き方、座り方、扇子の使い方まで、王宮式の作法を叩き込まれます」

「歩き方か。ロザリア嬢は普段から猪突猛進だからな」

「猪ならまだマシです。お嬢様の移動速度は暗殺者並みですから」


 私は、お嬢様が廊下を音もなく疾走する姿を思い浮かべ、頭を抱えた。

 淑女の歩き方とは対極にある、実戦的な動きだ。


「頼むぞ。殿下の婚約者として、最低限の品位は身につけてもらわないと困る」

「追加料金次第で、足に重りをつけてでも矯正します」


 ◇


 午後。ダンスホール。

 頭に本を乗せ、背筋を伸ばして歩く練習が行われている。

 講師のマダム・ロイヤルは厳格な老婦人。


「――背筋を伸ばし、顎を引き、水面を滑るように歩くのです。足音を立ててはいけません。優雅に、かつ堂々とです」


 令嬢たちが静かにゆっくりと歩く中、お嬢様だけが異質だった。

 シュッ、シュッ、シュッ。 

 音はしていない。けれど速い、速すぎる。

 残像が見えるほどの速度で、頭に乗せた本を微動だにさせず他の令嬢たちを障害物のように回避して進んでいく。


「おどきなさい! わたくしの進む道はクロード様への最短ルートよ!」


 その動きは淑女の歩みではない。

 敵陣への潜入工作だ。

 マダム・ロイヤルが、あまりの速度に目を回した。


「ロ、ロザリア様、速すぎます! 競歩ではありませんよ!」

「あら、遅刻は淑女の恥でしょう? 殿下をお待たせしないための最速移動術ですわ!」

「優雅さが足りません! もっとゆったりと歩くのです!」


 そこへ、エレノア嬢が優雅に割って入る。

 彼女は頭に本を3冊乗せ、堂々とした足取りで歩いていた。


「おやめなさい、ロザリア様。速さだけが能ではありませんわよ。大地を踏みしめ、体幹を安定させてこそ、真の美しさ。見てくださいませ、このふくらはぎの緊張感を!」


 エレノア嬢がドレスの裾を少し持ち上げ、筋肉質な足を見せつける。

 やはり方向性が違う。

 マダムが杖で床を叩く。


「二人とも不合格です! ロザリア様は忍び足すぎます! エレノア様は兵士の行進です!」


 一日足りとも欠かさない退学の危機。

 私は即座に、お嬢様の背後に音もなく忍び寄る。


「失礼いたします、マダム。少々誤解がございます」

「アメリア、これが誤解ですか!? どう見ても不審者の動きでしょう!」

「いいえ、これは『王者の行進』の極意でございます」


 私はお嬢様の肩に手を置き、解説を始める。


「主人は将来の国母として、いかなる緊急事態にも即座に対応できるよう、常に臨戦態勢の歩法を実践されているのです」

「り、臨戦態勢……?」

「はい、ドレスを着ていても、有事の際には殿下をお守りして脱出する。そのための音を消し、気配を断ち、風のように移動する。これぞ『守護の歩み』なのです」


 私が力説すると、マダム・ロイヤルが考え込んだ。


「守護の歩み……? た、確かに王妃たるもの、時に自らの足で危機を脱する覚悟も必要……。ただ、優雅なだけの温室育ちでは国は守れない……」


 マダムの中で、何かが目覚めかけている。

 そこへ、エレノア嬢が追撃する。


「そうですわ! そして私の歩みは大地に根を張る大樹のごとき安定感! 揺るがない意志と下半身の筋肉の表れですわ!」

「エレノア様、筋肉の話は置いておきましょう」


 私がたしなめると、マダムは深く頷く。


「分かりました。昨今の軟弱な貴族社会に一石を投じる、力強い解釈です。ロザリア様の『疾風の歩み』、エレノア様の『重戦車の歩み』。どちらも個性的ですが、異種的な品格が感じられました」


 マダムが遠い目をしている。

 洗脳完了だ。


「評価はAとします。ただし、ロザリア様。廊下で残像を出すのは禁止です。お化けが出たと騒ぎになられても困りますから」


 ◇


 放課後。

 私はグレン様の元へいつも通り、報告に向かった。


「……残像を出したと?」

「はい、マダムも『新しい時代の歩き方』と納得されました」

「……この学園の教師陣は、君に何か弱みでも握られているのか?」

「いいえ、皆様、教育熱心で純粋なだけです」


 グレン様が頭を抱えた。


「明日は『乗馬』の再試験らしい。前回の老馬ではなく、今度はまともな馬を用意した」

「本当に大丈夫ですか? また暴走しませんか?」

「ああ、今回も老馬だが、元軍馬だ。多少の衝撃には動じない」


 その言葉に、私は嫌な予感しかしなかった。

 お嬢様と軍馬。

 戦場しか思い浮かばない。

 私は懐のグラン様の『遺書セット』を確認し、静かに部屋を出た。

ここまで、お読みいただきありがとうございます!

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