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【完結】【連載版】悪役令嬢のメイドAですが、お嬢様の婚約破棄を阻止するのも私の仕事です  作者: 天地サユウ


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第二話 夜会準備

 屋敷に戻ったのは、午前八時過ぎ。

 お嬢様の着替えをエルシーさんに任せた後、私は執務室で冷めたコーヒーを啜っていた。


 今日も朝の日常は守りきった……そう安堵したのも束の間。廊下越しに、お嬢様の部屋から絶叫が響き渡る。


「アメリア! 早く来なさい!!」


 今度は何事かと、私はため息をつきながらマグカップを置く。

 家出の罰として、今日のおやつを『乾パン』にするつもりだったが、その通達をする暇もなさそうだ。


 部屋に入ると、クローゼットの中身が全て床にぶちまけられ、その中心で、お嬢様が一枚のカードを握りしめて震えていた。


「これを見なさい! たった今、王宮から届いたものよ!」


 お嬢様が差し出してきたのは、金色の箔押しがされた招待状だ。


『季節外れの仮面舞踏会 〜隣国よりクロード殿下をお迎えして〜』


「今夜よ! 今夜、クロード殿下が王宮にいらっしゃるのよ!」

「はあ、それが何か?」

「決まってるじゃない! 家出に失敗しても、わたくしの愛は揺るがないの! 直接会いに行って、この想いを伝えるのよ!」


 私は頭痛を覚えた。

 今しがた家出に失敗したばかりだというのに、このメンタルの回復速度はどうだ。

 この一途すぎる想いだけは、評価に値するとも言えなくもないが。


「お嬢様、謹んで申し上げますが、今は謹慎処分中でございます。夜遊びなど旦那様が許しません」

「ふふん、お父様なら領地視察で不在よ! 今の間に殿下にお会いして結婚の約束を取りつければ、こっちのものだわ!」


 全く懲りない人だ。

 お嬢様は床に落ちていたピンク色のフリル全開のドレスを拾い上げ、ポーズを決める。


「見てなさいよ。今夜こそ、わたくしの魅力でクロード様をメロメロにして、サザランド家の将来を盤石にして差し上げるわ! おーほっほっ!」


 お嬢様の言う「メロメロ」が過去の統計データ上、『ドン引き』または『政治問題』に変換される確率は99%。

 けれど、今さら止めても無駄だろう。窓から飛び降りてでも行こうとするはず。

 ならば、私の仕事は一つ。


 私は懐中時計を確認し、瞬時に脳内で今夜のシフトを組み直す。

 警備配置、馬車の手配、そして緊急時の逃走ルートの確保までを3秒でシミュレートした。


「承知いたしました」

「え、いいのね!?」

「ただし条件があります」

「……条件って、何よ?」

「そのピンクのドレスは却下です。センスが壊滅的ですから、私がコーディネートします」


 私は床に散らばったドレスの山から、深紅のベルベット生地の一着を引き抜く。


 お嬢様の派手な顔立ちには、パステルカラーよりも原色の方が映える。

 悪役顔なのだから、それを活かすべき。

 まさに毒をもって毒を制す。

 強い美貌には、強い色をぶつけるのが正解なのだ。


「それと、会場では私の指示に従っていただきます。今夜の任務は、クロード殿下への求愛の突撃ではなく、家名の保全ですから」


 ――夜会。

 それは貴族たちの戦場。

 そして私、メイドAの主戦場でもある。


「さあ、お嬢様。最高に美しく、そして最高に『無害』な淑女に仕上げて差し上げます」

「何よ、その目は……。わ、分かってるわよ! 指示に従えばいいんでしょ!」


 ◇


 夜の帳が下りる頃、サザランド家の馬車は王宮の前で止まる。

 今宵は『仮面舞踏会』。

 素性を隠した貴族たちが、一夜の遊戯に興じる社交場だ。


 ロザリアお嬢様は、深紅のドレスに身を包み、扇子で口元を隠しながら震えていた。

 武者震いではない。

 極度の緊張によるものだ。


「うぅ……アメリア、気持ち悪いわ……」

「お嬢様、仮にドレスを汚した場合、クリーニング代はお小遣いからの天引きとします」

「鬼! 悪魔!」


 私はお嬢様の背中をさすりながら、今朝の出来事を思い出す。


 出発の一時間前。

 支度を終えたお嬢様が部屋を出た後、私はいつものように『日課』を行っていた。

 それは、お嬢様の書き物机の横にある、豪奢なゴミ箱の中身を確認することだ。


 捨てられているのは、くしゃくしゃに丸められた羊皮紙。

 私はそれを毎朝拾い上げ、丁寧に広げる。


『怖い……夜会なんて怖い。

 また「悪役令嬢」って、笑われるのかな?

 でも、殿下に会いたい。

 もし会えたら「素敵な夜ですね」って言いたい。

 「ダンスを踊ってください」って言いたい。

 私の手を取って優しく微笑んでほしい。

 他の誰かじゃダメなの。

 クロード様、貴方じゃなきゃダメなの。


 頑張れロザリア。負けるなロザリア。

 私はサザランド家の娘なんだから、胸を張るのよ!


 (以下、うさぎが泣きながらガッツポーズしている下手くそなイラスト)』


 インクが滲んでいる。

 書いている途中で怖くて泣いたのだろう。


「これがあるから辞められないんですよね……」


 私は小さく呟き、その紙を綺麗に畳んで、懐の『厳重保管ファイル(鍵付き)』にしまった。

 これでファイルは、12冊目になる。


 我が主、ロザリア・フォン・サザランド。

 外面は悪役令嬢で有名だが、実のところ内面は人一倍臆病で、誰よりもクロード殿下を愛している不器用な少女。


 緊張が限界を超えると、防衛本能として「罵詈雑言」が飛び出してしまう不具合さえなければ、結婚できるはずなのだが。


 どうやら神様は、ロザリア様に美貌と家柄というハイスペックを与えた代わりに、言語出力回路に致命的なバグを埋め込んだらしい。

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