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封印されし魔女、四千年後の世界を歩く  作者: しまえび
冒険都市セルティア

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第11話:魔女と冒険者ギルド本部

 石畳の感触が、靴底を通してかすかに響く。

 旅路の先、いくつもの街を通り過ぎた果てに私は、ひとつの都市の前に立っていた。


《冒険都市セルティア》


 ギルド発祥の地とされ、周囲には深い森と未開の魔力圏が広がっている。

 多くの冒険者が集い、腕を試し、実績を積み、名を上げていく。

 地図でその名を知ってはいたが、実際に訪れるのは、これが初めてだった。


(……空気が、違いますね)


 街の門をくぐった瞬間、微かに肌を刺すような緊張の残滓が頬を撫でた。

 それは街そのものに染み込んだ魔力の層、日々の訓練、戦闘、そして生き残るための術式の痕跡。

 通りを歩けば、すれ違うのは武具を携えた者ばかり。

 革鎧に剣を背負った男、魔法銃を手入れしている女、肩に幻獣を乗せた双子の冒険者。

 誰もが道具としての魔法を使いこなし、その気配は日常に溶けているというより、むしろ研ぎ澄まされている。

 先日まで滞在していたノルト=ヴィレルでは、魔法は美と生活に寄り添うものだった。

 ここでは違う。

 戦うために洗練され、実戦の中で磨かれている。


(この都市では、魔法は力のまま残っている。そんな印象を受けます)


 誰かを支えるためでも、生活を潤すためでもなく。

 あくまで、自らを守るための力。

 それは、かつて私が否定されるきっかけとなった魔法観の、今の形なのかもしれなかった。


 だが、不思議と拒否感はなかった。

 この時代では、選び方が違うだけだ。

 力を持つ理由も、使い方も、人によって異なる。それを尊重する自由が、ここにはある。


(さて……)


 私は通りの先に見える建物に目を向ける。

 石造りの三階建て。ギルドにしては、装飾が少なく、どこか要塞のような印象すらある。

 掲げられた紋章には、三本の槍と結界陣。

 その下に刻まれた金の文字。


《冒険者ギルド本部》


 この都市の中心ともいえる場所。

 そして、次の一歩を踏み出す場所。


「……行きましょうか」


 私は深く息を吸い、ギルドの扉に手をかけた。

 鈍い金属のきしみが、小さく音を立てて空気を押し広げた。


 ギルドの扉をくぐった瞬間、空気が変わった。

 内装は、街の質実剛健な印象そのままに、無駄のない配置と、機能的な導線で構成されている。

 冒険者たちが受付に並び、掲示板に群がり、時折小声で情報交換をしている。

 どの動きにも隙がない。無駄な喧騒もなければ、装飾じみた浮つきもない。


(……効率を、重んじているのでしょうか)


 受付カウンターの背後では、ギルド職員が端末を操作し、連携する魔法紙を束ねている。

 事務的でありながら、魔法との接点をここまで技術として扱っているのは、この街ならではの形だろう。

 私は列の合間を縫いながら、受付へと歩を進める。

 淡い藍の外套が揺れ、数人がちらと視線を向けたが、特に何も言わない。

 ただ、その目には見慣れない者への警戒と、同業者を見る静かな観察があった。

 受付の女性は、淡く結界繊維の入った制服を着ていた。

 こちらが言葉を発するよりも早く、彼女の指が端末を滑る。


「ようこそ。冒険者証をお持ちでしょうか?」


「……はい。こちらになります。昇格試験に興味がありまして詳しくお聞かせいただければと思います」


 私はギルド端末を差し出す。

 受付の女性は一瞬だけ眉を上げると、魔力認証の照合を始めた。


「……お調べいたします。ルシア・フェーン様、アルマ=リード支部にて正式登録後、現在はFランク、活動履歴は三週間。確認いたしました」


 端末に表示された履歴に、受付の女性が一度うなずいた。


「以前、セルティアの昇格制度については、すでにお読みいただいておりますね?」


「はい。登録時に案内文を確認しました。この街では、昇格には試験案件が必要だと伺いました」


「ええ。セルティアはギルド創設時からの方針で、一定以上のランク昇格には本人希望と支部推薦を両立させた試験制度を設けています」


(思っていたよりも、きちんと段階が整備されているんですね)


「……私も、そろそろ次の段階を見据えてみようかと」


 私がそう言うと、受付の女性はわずかに表情をやわらげた。


「では、昇格希望として登録いたします。初回審査では、推薦者の有無と過去の依頼内容を加味して、試験案件を提示いたします」


「推薦者、ですか……」


 私はほんの少しだけ思案した。

 この街に限らず、私には冒険者に知り合いは一人もいない。

 ならば、どういう形で推薦に値する実績を見せるかが鍵となるのだろうか。

 そのとき、受付の女性がふと思い出したように端末を確認し、言った。


「参考までに、ですが……最近Dランクに昇格された方にお繋ぎしましょうか? 推薦ではありませんが、試験の実態や雰囲気をお聞きになるのは、有用かと」


「……ぜひ、お願いします」


 そうして数分後、控え室の扉が静かに開かれた。

 姿を現したのは、一人の少女だった。

 銀に近い明るい灰色の髪を束ね、軍服調の実戦装備を自然に着こなしている。

 年齢は、私より少し下くらいだろうか。けれど、その瞳には無駄のない研ぎ澄まされた光があった。


「ご紹介いたします。こちら、 ノア・アウステルさん。つい先日、試験案件を経てDランクに昇格された方です」


 受付の女性が紹介すると、彼女は軽く頷き、私の方へ視線を向けた。


「……Dランク冒険者。ノア・アウステルです」


 声音は簡潔で、過不足ない挨拶だった。

 私は静かに一礼する。


「ルシア・フェーンと申します。この街で、昇格に向けて試験を受けようと考えています」


「……そうですか」


 彼女はそれだけ言うと、隣の空席に座る。

 あくまで対応役という立ち位置なのだろう。無理に話そうとはせず、静かに端末を開いてこちらに見せた。


「……これが、私が受けたときの案件です」


 そこには、《第5区域における低ランク魔物〈ハウリングバット〉の巣の掃討および音波障害の記録収集》と記されていた。


「魔物の掃討に加えて、記録も……ですか?」


「ええ。セルティアの試験は、単なる戦闘力の誇示ではなく、行動判断と実務処理の確実性が見られます。例えば、音波障害が起きている環境での冷静な制圧手順とか。そういう部分ですね」


(……なるほど。魔法そのものの威力ではなく、扱い方を問うという意味で、今の時代なりの基準になっているんですね)

 

 彼女の言葉には、過剰な自信も、過剰な警戒もなかった。

 ただ、必要な情報を静かに提示する、そんな姿勢があった。


「昇格は、誰にでも許されるものじゃありません。けれど、本当に実力があるなら……この街は、正当にそれを評価してくれる。私は、そう思っています」


「……参考になります。ありがとうございます」


 私は素直にそう返した。

 言葉の奥にあった芯の強さに、少しだけ惹かれるものを感じた。

 それが、これからこの街で交差する縁の始まりだと、この時点ではまだ、私は知らなかった。

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