57話 過去の防壁
武神・耕太の放つエネルギーは、私の精神を容赦なく削り取った。過去の出来事、クロード王子が味わった悲劇の全てが、私の脳裏に再生される。武神は、その絶望を私に押し付け、私の抵抗心を折ろうとしている。
「チッ、しつこい女だ。お前の言う運命など、俺の物語の炎の前では、一瞬で燃え尽きる!」
武神のエネルギーは、私の体が持つ運命への強い抵抗と、私がクロード王子に抱く純粋な想いによって、辛うじて弾かれていた。しかし、このままでは、私の存在が完全に消滅してしまう。
私は、この過去の運命の原点に、武神が介入する隙を与えてはならない。
私は、残る力を全て集め、武神に向かって叫んだ。
「私は、あなたたちの駒じゃない!あなたがこの世界を弄べば、私も、クロード王子も、他のカミも、誰も幸せになれない!あなたは、永遠に退屈なままよ!」
「退屈」という言葉は、武神の急所だった。彼の動きが一瞬、止まる。
「退屈…だと…?」
その隙に、私は、周囲の庭園の空気を集め、光の膜を創り出した。それは、私の精神エネルギーが形作った、幼いクロード王子と父王を守る防壁となった。
「私は、クロード王子を、憎しみに染めさせない。彼の未来を、孤独な復讐者の運命になど、させない!」
私は、光の防壁を強化しながら、武神に問いかけた。
「あなたは、本当に、クロード王子が、憎しみだけで生きる姿が見たいの?愛を失った人間が、ただ復讐を繰り返すだけの物語は、本当に面白いの?」
武神は、私の言葉に、明確に動揺した。彼が求めているのは、予測可能な復讐ではなく、愛と憎しみの間で揺れ動く、予測不能な物語だったはずだ。
「…面白いだと?ふざけるな!愛を捨てた王の復讐こそ、最高の暴力と悲劇の物語だ!」
武神はそう叫ぶが、その声には、迷いが混じっていた。
私が彼の干渉の意図を、この過去の時点で、**「退屈」**という名の毒で汚染することに、成功したのだ。
しかし、私の力は尽きかけていた。防壁は、いつ破られてもおかしくない。




