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嫌われようと努力したのに、今日も攻略対象に追いかけられています。  作者: 限界まで足掻いた人生


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54話 知識の代償

クロード王子が知識の光に包まれた時間は、永遠のように感じられた。


彼の体が受け入れているのは、この世界の始まりから終わりまで、カミが弄んだ無数の運命の輪、武神と千鶴の力の源泉、そして彼らが作り出したすべての悲劇の筋書きだ。


光が消え去った後、クロード王子はゆっくりと目を開けた。彼の瞳は、かつての憎しみや、私への情熱とは違う、無機質で、全てを見通すような冷たい輝きを放っていた。


彼は立ち上がり、私やライオネルの姿をした時の導き手、そして知神アザトースに、一瞥もくれなかった。彼の視線は、ただ目の前の巨大な砂時計に向けられている。


「クロード…」


私が声をかけると、彼は初めて私に目を向けた。その視線は、私を「愛しい人」ではなく、「運命の構成要素」として見ているようだった。


「リリアーナ。俺の選択は、合理的だった」


彼の口から出たのは、知神アザトースのような、感情を排した言葉だった。


「憎しみは、武神の力となり、混沌は千鶴の力となる。それらを同時に打ち破るためには、感情という不確定要素は排除すべきだ」


私は、彼の変貌に、胸を締め付けられる思いがした。憎しみを克服した代償として、彼は感情を失ってしまったのだろうか。


「クロード!あなたは本当に愛を捨てたの?」


私が必死に問うと、彼は静かに答えた。


「愛は、この世界の運命を最も大きく歪ませる要素だ。そして、カミが最も楽しむ要素でもある。それを断つことが、私たちに残された唯一の道だ」


時の導き手(ライオネルの姿)が、悲しげに呟いた。


「アザトース様…あなたは、クロードの憎しみを消す代わりに、彼の人間性を奪ったのですね」


「均衡が保たれたまでだ」


知神アザトースの声は、相変わらず冷たかった。


「武神の血による憎しみの暴走を鎮めるには、同等か、それ以上の知性の力が必要だった。彼は今、私と同じ思考構造を持っている。感情に左右されない、完璧な道具として」


アザトースは、クロード王子を「道具」と呼んだ。私の心は、激しく怒りに震えた。


「そんな…クロード王子は、道具なんかじゃない!」


「では、どうする?」


クロード王子が、私に問いかけた。


「知識によれば、武神と千鶴を同時に討つ最善のタイミングは、彼らが最も油断する次の混沌の始まりだ。我々は今すぐ、次の戦場へ向かう必要がある」


彼の言葉は、迷いなく、正確だった。彼には、もはや一切の躊躇がない。


「どうすればいいのですか…」


私は、戸惑いながら、時の導き手に助けを求めた。


「クロードの指示に従うしかないわ」


時の導き手は、悲しみを押し殺すように言った。


「彼の知性は、今やカミをも凌駕している。彼こそが、私たちを勝利に導く、合理的な戦略家よ」


クロード王子は、周囲にいる私たち全員に、静かに指示を与えた。


「リリアーナ。お前は、次の舞台で、愛の幻影を演じろ。千鶴の目を引きつける必要がある」


私に向けられたのは、戦術的な命令だった。私は、彼の計画の「駒」でしかない。


「レオンハルト。お前は、ライオネルの姿を借りた時の導き手を、戦場まで護衛しろ。彼には、運命の巻き戻しに必要な役割がある」


「分かった…」レオンハルト殿下は、重い口調で答えた。彼は、クロードの変貌に耐えながらも、友の指示に従うしかなかった。


クロード王子は、再び千鶴の杖を手に取った。憎しみを捨てた彼の体には、今や武神の血と、アザトースの知識が、冷たい力として同居している。

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