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嫌われようと努力したのに、今日も攻略対象に追いかけられています。  作者: 限界まで足掻いた人生


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44話 再び、運命の扉

元の世界に戻ってから、どれほどの時間が経っただろうか。


私は、あの世界での記憶を抱えたまま、この世界で「私」としての日々を送っていた。しかし、心は常に、遥か遠い異世界にあった。クロード王子が、私を失い、孤独な王として生きているという事実が、私を深く苦しめていた。


私は、愛を信じない彼を、救うことができなかった。


カミの言葉が、耳から離れない。


「クロードは、これから、運命を信じない、孤独な王として、生きていくだろう」


あの世界での私の行動は、すべて、彼をより深く絶望させる結果に終わった。私は、ただの異物として、排除されただけなのだ。


ある日、私は大学の図書館で、異文化の神話に関するレポートを作成していた。気分転換に、中世ヨーロッパの神話の資料を手に取ったとき、手が止まった。


その資料には、**「三柱の創造神」**に関する記述があった。そして、そこに描かれた挿絵は、私が見たカミたちと驚くほど酷似していた。


武神—荒々しい鎧を纏い、巨大な剣を携えた姿。

知神—冷静沈着な表情で、知識の書を抱える姿。

時のカミ—静かに佇み、砂時計を持つ、女性的な姿。


そして、その資料の隅に、カミの眷属として描かれた、鶴のような飾りをつけた少女の絵があった。


その絵を見た瞬間、私の心臓が激しく脈打った。彼らは、ただの神話上の存在ではない。


私は、図書館を出て、人気のない裏通りを歩いていた。


「まさか、本当にいるなんてね」


突然、背後から、聞き覚えのある、楽しげな声が聞こえた。


私は、恐る恐る振り返った。


そこに立っていたのは、一人の女性だった。エキゾチックな着物をまとい、髪には、小さな鶴の飾りをつけている。そして、何よりも、その表情。退屈を面白がるような、冷たい嘲笑。


「誰…ですか」


私は、恐怖で声が震えるのを抑えられなかった。


女性は、ふわりと笑った。


「あんた、まさか、わての顔、忘れたんか?」


私は、確信した。


鶴神千鶴。あの世界で、混沌を撒き散らしたカミの一柱だ。いや、カミにそっくりな、別人なのかもしれない。しかし、その纏う空気は、間違いなくあの時の千鶴だった。


「どうして…ここに…」


「どうしてって、ここは、わてらの元の世界やからな。あんた、異世界人やと思ってたやろ? 残念ながら、カミは、どこにでもおるんや」


千鶴は、そう言って、私に顔を近づけた。


「あんたの運命、最高の悲劇やったわ。クロードが、運命を信じられへん、孤独な王になる。わてのシナリオ通りや」


私は、怒りに震えた。


「やめて…!」


「おっと。でもな、リリアーナ」


千鶴は、突然、真剣な顔になった。


「武神様が、ちょっと不満なんや。あんたが消えたことで、クロードが完全に復讐心に囚われて、物語が単調になりすぎたってな」


千鶴の言葉は、私に、再び希望の光を与えた。


「あんたが、もう一度あの世界に戻って、武神様の運命の鎖を、もう一回、ややこしくしてみたら、どうや?」


彼女は、そう言って、私の目の前に、手のひらを差し出した。


「あんたの運命で、クロードを救えるかもしれへんで。もちろん、その結果、あんたがどうなっても、わては知らんけどな」


私は、千鶴の手を見つめた。


この手を取れば、再び、あの世界に戻れる。再び、クロード王子に会える。


私は、彼の孤独な運命を、変えたい。彼の心を、憎しみから解放し、運命を信じる勇気を与えたい。たとえ、その代償が、私自身の命であったとしても。


私は、迷うことなく、千鶴の手を掴んだ。


「行くわ。もう一度、あの世界へ」


千鶴は、満足そうに微笑んだ。


「決まりやな。次は、どんな悲劇の運命を見せてくれるんか、楽しみにしとるで」

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