4話 もう、悪役令嬢なんてやめたいです。
悪役令嬢として嫌われるために、私は新たな作戦を実行する。
しかし、なぜかその努力は、ヒロインの恋愛成就に貢献してしまっていた。
もはや、この世界の「勘違い」は、私の想像を遥かに超えている。
嫌われるどころか、愛され、そして利用され……
このままでは、本当に私の身がもたない。
すべての策略が裏目に出る、絶望の第4話
「リリアーナ様、今日のお相手は、この私です」
朝、私が学園の玄関に到着すると、そこにはすでに第四攻略対象、ジル殿下が待ち構えていた。いつもは研究室にこもりっきりなのに、どうしてこんなところに。
「ジル殿下?どうしてここに?」
「決まっているでしょう。昨日のレシピのお礼です」
彼は、私を優しくエスコートしようと手を差し出した。私は、心の中で叫んだ。
(お礼?あれは、下痢薬のレシピなのに!)
私が困惑していると、今度は反対側から第二王子、アルフレッド殿下が現れた。
「ジル、リリアーナ様を独占するのは感心しないな。彼女は今日、私と園芸部の手伝いをする約束をしている」
「ほう。園芸部?私が昨日、彼女に渡した魔術具を試す約束ではないのですか?」
二人の間で、火花が散る。
私が何の手伝いも、魔術具の約束もしていないことは、二人とも分かっているはずだ。これは、もはや「建前」を使った、私を巡る争奪戦なのだ。
そこへ、第三攻略対象である騎士団長ロベルト様が、颯爽と駆けつけてきた。
「リリアーナ様!お待たせいたしました!今から私と、真の強さとは何かを探求する訓練を!」
私は、もう、どうすればいいのか分からない。彼らが私の周りに集まるたび、周囲の生徒たちの視線が、痛いほど突き刺さる。もはや、悪役令嬢として嫌われる以前に、「なぜかイケメンに囲まれている女」として、嫉妬の対象になっている。
その日の放課後、私はこっそりと学園の裏庭に逃げ出した。こんなに追いかけられたら、まともな生活も送れない。
(このままだと、本当に破滅ルートだ。誰か、私を嫌ってくれる人はいないの……?)
その時、私の背後から、静かな声が聞こえた。
「リリアーナ様。一人で、何をされているのですか?」
振り返ると、そこにいたのは、原作のヒロイン、イザベラ・クレメンスだった。透き通るような茶色の髪と、可愛らしい顔立ち。彼女はいつも、私に怯え、陰でこそこそと泣いていたはずだ。
「イザベラ伯爵令嬢……」
私は驚きを隠せない。彼女が、自分から私に話しかけてくるなんて。
「リリアーナ様、いつものように私を苛めてくださるのですよね?今日は、どんな嫌がらせをされるのでしょうか。楽しみにしています!」
イザベラは、キラキラと目を輝かせながら言った。
「……え?苛める?」
私の頭は混乱した。イザベラは、私を嫌っているどころか、むしろ「苛めてくれること」を期待している?
「リリアーナ様が私を苛めてくださるたびに、王子様たちが私を助けてくれるんです。おかげで、皆様と仲良くなれて……!だから、今日もお願いします!」
イザベラは、そう言って、私に満面の笑みを向けた。
(嘘……。私が嫌がらせをすればするほど、ヒロインの好感度が上がっていく……?)
私の「嫌われる努力」は、間接的にイザベラの「愛され」ルートを進めていたのだ。私は、絶望とともに、この世界の理不尽さを悟った。
その時、私の腕が強く掴まれた。
「イザベラ、リリアーナに何をさせている」
振り向くと、そこには第一王子レオンハルト殿下。いつもより、表情が険しい。
「レオンハルト殿下!いえ、リリアーナ様は、私のことを気にかけてくださって……」
イザベラは必死に弁解しようとするが、レオンハルト殿下は彼女を一瞥もせず、私を強く抱きしめた。
「リリアーナ。君は、自分の愛する者を守るために、そこまでするのか。君が嫌われ役を演じて、この娘の恋を助けようとしていたこと、私は知っている」
「……は?」
「だが、もうやめてくれ。君が傷つく姿を見るのは、もう耐えられない。君の優しさは、私だけが知っていればいい」
レオンハルト殿下は、私の耳元で囁いた。彼の独占欲は、もはやとどまるところを知らない。
私の「嫌われる努力」は、回り回って、レオンハルト殿下を暴走させてしまったようだ。私は、もうこの状況から抜け出す方法が、まったく見つからなかった。