14話 悪役令嬢、全力で嫌われにいきます。~再~
「めでたし、めでたし」
私は、愛する人たちに囲まれ、安堵と幸福感に満たされていた。私の長い旅は、ようやく終わったのだ。そう、信じていた。
その時、頭の中に、冷たく、響くような声が聞こえた。
「あなたの物語は、まだ終わっていません」
私は、その声にハッと顔を上げた。周囲の景色が、まるで砂のように崩れ落ちていく。レオンハルト殿下の、アルフレッド殿下の、皆の顔が、光の粒となって消えていく。
「な……なにが、起こっているの……?」
私は、その声に尋ねた。
「おめぇは、俺のシナリオを大きく逸脱した。悪役令嬢として、破滅するはずだったのに、なぜか愛され、そして幸せになった。そんな結末は、望んでねぇんだわ」
しかしその声は、野太く別人のモノだった。
「あんたのシナリオではあらへんがな、ほなもういっぺんやり直してもらえますやろか?」
今度のは上品で静かな声だ。
「やり直す……?」
「本物のリリアーナを操ったところで、このシナリオがうまくいくわけあらへんのどすなぁ。」
「ええ。あなたの記憶はそのままに、物語の始まりから、もう一度」
私は、その言葉に、絶望した。これまでの苦労は、すべて無駄だったというのか。あの地獄のような日々を、もう一度繰り返さなければならないのか。
「ま、まって、あなたは.....貴方たちは誰なんですか」
謎の陰が3人現れ周りの景色が一変する
「神です」「神だ」「神どすえ」
その言葉を聞いたと同時に私の意識は、ゆっくりと暗闇に沈んでいった。
次に目が覚めた時、私は、見慣れた豪奢なベッドの上にいた。
窓の外からは、眩しい朝の光が差し込んでいる。そして、私の体は、転生したばかりの、あの頃の体に戻っていた。
「……嘘……」
私は、震える手で、自分の顔を触る。間違いなく、あの頃の私だ。そして、私の脳裏には、過去のすべての記憶が、鮮明に残っている。
(どうして……?どうして、また……?)
その時、扉がノックされ、メイドが顔をのぞかせた。
「リリアーナ様、朝食の準備ができております。本日は、王太子レオンハルト殿下とのご面会が……」
私は、その言葉に、全身から力が抜けていくのを感じた。
ああ、まただ。私は、この物語の始まりに、戻ってきてしまった。
「……嫌だ」
私は、震える声で呟いた。もう一度、彼らに嫌われ、孤独になるために、努力をしなければならないのか。いや、違う。
(前回、私が嫌われようと努力した結果、彼らは私を愛してしまった。ならば……)
私は、立ち上がり、鏡を見た。鏡の中の私は、憂いを帯びた表情をしている。
(今度こそ、徹底的に、完璧な悪役になる。愛される可能性を、微塵も残さないくらいに)
私は、鏡に映る自分自身に、そう誓った。
「神よ。あなたが望む悪役令嬢を、演じてあげましょう。そして、そのシナリオを、もう一度、私の手で壊してあげる」
私の心の中には、新たな決意が宿っていた。
これは、ただの「やり直し」ではない。
神のシナリオを打ち砕くための、悪役令嬢による、第二の物語の始まりだ。