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13話 そして、悪役令嬢は.......

私は、誰にも気づかれることなく、王都を離れた。私の「嫌われる努力」は、最終的に、私自身と、そしてあの世界の住人たちの運命を断ち切るという形で、結実した。


もう、私の周りには、私を愛する者も、私を憎む者もいない。私は、ただ一人、静かに旅を続けていた。


数ヶ月後、私は、人里離れた森の奥で、小さなパン屋を営んでいた。


焼きたてのパンの香りが、森の木々を通り抜け、私の心を温めてくれる。私は、この静かで、何もない生活に、満たされていた。


私は、もう「悪役令嬢」ではない。私はただの、パン職人だ。


ある日の午後、店の扉が開いた。チリン、と鈴の音が響く。


「いらっしゃいませ」


私が顔を上げると、そこに立っていたのは、見慣れた顔だった。


「リリアーナ……」


レオンハルト殿下だった。彼の隣には、アルフレッド殿下とロベルト様、そしてジル殿下もいる。彼らは皆、旅の途中で、偶然私の店に立ち寄ったようだった。


「どうして、ここに……?」


私が戸惑っていると、レオンハルト殿下は、震える声で言った。


「君を、探していたんだ。ずっと」


「……どうして?もう、あなたたちの人生に、私は必要ないはずです」


私は、冷たい声で言った。もはや、彼らと関わるつもりはなかった。


しかし、レオンハルト殿下は、私の言葉に、首を振った。


「違う。……君がいなくなってから、僕たちは、初めて気づいたんだ。僕たちが愛していたのは、君が演じていた『優しいリリアーナ』だけではなかった。君という、存在そのものだったんだ」


アルフレッド殿下も、静かに口を開いた。


「私たちは、君を誤解していた。君は、僕たちのことを考えて、愛されることを拒絶していた……。本当の悪役令嬢から、僕たちを守ってくれていたんだ」


ロベルト様は、涙を流しながら言った。


「私たちは、君にひどいことを言った。君を信じられなかった。本当に、申し訳なかった……!」


そして、ジル殿下は、私の前にひざまずき、深く頭を下げた。


「君が教えてくれた魔法は、僕の研究を大きく進歩させた。君は、僕の人生の光だった。君がいない世界は、何もかもが色褪せて見えたんだ」


彼らは、私を愛していた。そして、彼らの言葉は、全て真実だった。


私の「嫌われる努力」は、彼らを私から遠ざけた。しかし、それは同時に、彼らに、本当の私を愛するきっかけを与えていたのだ。


私は、彼らの言葉に、涙が止まらなかった。


「もう……もう、いいんです。私は、ここで、幸せに暮らしていますから……」


私は、そう言って、彼らに背を向けた。しかし、その時、私の手が、温かい手に包まれた。


「リリアーナ。僕たちは、君を置いていかない。もう一度、僕たちを信じてくれないか?」


振り返ると、そこにいたのは、レオンハルト殿下だった。彼の瞳には、もう絶望の色はなく、ただひたすらに、私への愛が溢れていた。


私は、その手に、ゆっくりと自分の手を重ねた。


悪役令嬢として嫌われることを望んだ私。

愛されることを拒絶し、孤独を選んだ私。


しかし、私の物語は、ここで終わらなかった。


私の「嫌われる努力」は、私を、そして彼らを、本当の幸せへと導くための、遠回りだったのだ。


私は、もう一度、彼らと共に、愛される道を選ぶことを決めた。


そして、悪役令嬢は、幸せに暮らしました。


めでたし、めでたし。

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