12話 運命の糸を断ち切る
私の放った光の魔法は、本物のリリアーナの黒い稲妻を打ち消し、彼女を驚愕させた。
「な……!なぜ……!あなたが、魔法を……!」
本物のリリアーナは、信じられないという顔で私を見つめている。彼女は、私がただの「転生者」であり、魔法の力を持たないと高を括っていた。だが、私は前世で、このゲームの隠し要素を全て知っていた。その中には、悪役令嬢リリアーナが、実は隠された光の魔力を持つ、という設定があった。
「私は、あなたと同じ。いいえ、あなたよりも優れた才能を持っている。そして、あなたの弱点も、すべて知っている」
私は、彼女にゆっくりと近づいた。彼女は、恐怖に顔を歪ませ、一歩後ずさる。
「やめなさい!私に近づかないで!」
彼女の叫び声に、私は冷たい笑みを浮かべた。
「あなたは、自分が完璧な悪役だと思っていた。しかし、あなたには、たった一つ、致命的な弱点がある」
私は、彼女の耳元に顔を寄せ、囁いた。
「あなたは、愛されることを、心の奥底で望んでいた」
私の言葉に、本物のリリアーナは、目を見開いた。
「どういうこと……?」
「あなたが、病弱な子供として愛されずに育ったこと、私は知っています。だから、あなたは、この物語の「悪役」として、完璧に嫌われることで、自分の存在を証明しようとした。愛されなかった悲しみから、愛されることを拒否し、嫌われることで、自分を守ろうとしたのでしょう?」
私の言葉は、鋭い刃となって、彼女の心臓を貫いた。彼女は、何も言い返すことができず、ただ震えていた。
「でも、残念でしたわね。あなたのその努力は、私の『嫌われる努力』と衝突した。そして、私の、あなたへの復讐の道具となった」
私は、そう言って、彼女の頬を優しく撫でた。
「私が、あなたの代わりに、愛されるという苦しみを受け止めた。そして、あなたの復讐の道具となることで、あなたを支配した。これで、私たちは、お互いの運命から解放されます」
私は、彼女の運命を背負い、そして断ち切ったのだ。
その時、背後から、レオンハルト殿下たちが私に近づいてくる気配がした。
「リリアーナ……!」
彼らの顔には、もはや憎しみはなかった。憎悪の炎の裏に隠された、深い悲しみと、戸惑いの表情。
私は、彼らに振り返り、冷たい笑みを浮かべた。
「さあ、皆さん。これで、皆さんの悲劇的な運命は終わりました。私は、この物語から退場します。そして、皆さんは、愛する人と、幸せに暮らすことができます」
私は、そう言って、ゆっくりと歩き始めた。私の後ろには、呆然と立ち尽くす、レオンハルト殿下たちと、涙を流す本物のリリアーナ。
(これで、いいんだ……。私の役割は、終わった……)
私は、この物語で、誰からも愛されることなく、ただひたすらに嫌われることを選んだ。それが、この物語の真の「悪役令嬢」としての、私の結末だった。
私は、この世界から、静かに姿を消した。私の「嫌われる努力」は、最終的に、私自身と、そしてこの世界の住人たちの、運命の糸を断ち切るためにあったのだから。