107話 時の器への偶然の漂流
レオンハルト殿下が隠れ家を後にした後も、本物のリリアーナの肉体は、ベッドの上で不規則な痙攣を繰り返していた。魂が抜けたはずのその体は、時の境界線での激しい消耗により、極めて不安定な「運命の特異点」として機能し始めていた。
この肉体は、長きにわたり時の境界の番人であったため、その細胞一つ一つが「時の流れの記録」を保持しており、魂が抜けた今、それは周囲の運命の歪みに敏感に反応し始めていた。
魂の漂流と共鳴
同じ頃、元の世界。ユナの大学の友人であるミサキは、ユナへの強い劣等感と嫉妬という負の感情の渦の中で、精神的に極度の不安定な状態にあった。
その強い魂の歪みが、時の境界の不安定な状態と偶然にも共鳴を引き起こした。時の境界での半端な封印の影響、そして本物のリリアーナの肉体が持つ特異点としての性質が重なり、ミサキの魂は、元の世界の肉体から強引に引き剥がされ、時空を超えてこの隠れ家へと引き寄せられた。
ミサキの魂は、迷うことなく、横たわる本物のリリアーナの肉体へと流れ込んだ。
覚醒する器と気まずさ
肉体が発していた痙攣は、瞬時に収まった。その代わりに、彼女の顔には、生気を取り戻したかのような不自然な血色が戻った。
ゆっくりと、本物のリリアーナの肉体が目を開けた。その瞳は、彼女自身の穏やかな光ではなく、強い劣等感と、混乱に満ちた、ミサキの魂の光を帯びていた。
「え…何、これ…私の体…じゃない…」
憑依された肉体から発せられた声は、本物のリリアーナの声でありながら、その言葉は、ミサキ自身の混乱を表現していた。彼女は、この肉体の美しさと、秘められた力の波動に、すぐに魅了された。
そして、彼女は、この異世界の状況と、自分がいる場所が、友人であるユナが話していた**「異世界」**であることを理解した。
「ユナ…ここにいるってことは、あの子がこの世界の人間を救ってるってこと…?嘘でしょ、また主役なの…」
ミサキの心にあった劣等感と嫉妬は、この予期せぬ事態によって再燃した。彼女は、この強力な体を手に入れた今、ユナと顔を合わせるのが極度に気まずいと感じた。自分がこの肉体を乗っ取ってしまったこと、そして、元々「負け組」だった自分が、偶然にも「勝者」の立場に立ってしまったこと。
(あの子に、私がこの体に入ったなんて知られたら、絶対に面倒くさい。それに、この力をどうするかもまだ分からない。ここは、正体を隠して動くべきだ)
ミサキは、この肉体を、一時的な**「避難場所」として、そして「ユナより優位に立てる場所」**として利用することを決めた。
彼女は、クロード王子たちが向かう氷結山脈へと、正体を隠した新たな干渉者として、自らの意志で動き出した。




