10話 悪役令嬢、逆襲の狼煙を上げる
私の「愛していない」という言葉に、レオンハルト殿下は、その場に崩れ落ちた。彼の顔は絶望に染まり、私をまっすぐ見つめる瞳には、もはや光がなかった。
「完璧ね。最高の悪役令嬢だわ」
本物のリリアーナは、満足げな笑みを浮かべ、私に歩み寄る。しかし、彼女の勝利を確信したその瞬間、私は彼女の耳元に顔を寄せ、囁いた。
「いいえ。これは、あなたの始まりの合図ではありません。私の、復讐の始まりです」
私の言葉に、本物のリリアーナは、一瞬だけ表情を凍り付かせた。私は、彼女がその完璧な悪役を演じている間に、彼女の「弱点」を分析していた。それは、彼女が「悪役令嬢」という役割を、誰よりも完璧に演じることに固執していることだ。
私が本当に「悪役」になったら、彼女のシナリオは崩壊する。
私は、崩れ落ちたレオンハルト殿下を見下ろし、冷たい声で言った。
「レオンハルト殿下。あなたは、私を愛した。そして、その愛は、あなたを地獄に突き落としました。これは、当然の報い。あなたは、私がどれだけあなたを破滅させたかったか、知るべきです」
私は、あえて最も残酷な言葉を選んだ。本物のリリアーナは、私の予想外の行動に目を見開いている。
「そして、私は、この物語の主人公になります。あなたは、脇役として、私の復讐を見届けるのです」
私は、そう言って、レオンハルト殿下の頬を軽く叩いた。彼の瞳には、再び光が戻っていた。しかし、それは絶望の光ではなく、怒り、そして憎悪の炎だった。
「リリアーナ……貴様……!」
レオンハルト殿下は、私を、憎しみに満ちた目で見つめている。よし。これで、彼を完全に嫌われ役へと仕立て上げることができた。
私は、本物のリリアーナに、満面の笑みで言った。
「さあ、本物の悪役令嬢。あなたの舞台は、もう終わりよ。これからは、私の舞台です」
本物のリリアーナは、私の言葉に、怒りに震えている。彼女は、私を操るつもりだった。しかし、私は、その操り人形の糸を、自らの手で断ち切ったのだ。
その時、周囲にいたアルフレッド殿下、ロベルト様、ジル殿下も、私を見つめていた。彼らの瞳にも、憎しみや怒りの感情が見て取れる。
「リリアーナ様……どうして……!」
彼らは、私を愛していた。そして、私は、その愛を利用し、彼らの心を弄んだ。彼らの絶望と憎しみは、私にとっての最高の「嫌われ」の証だった。
私は、彼ら一人ひとりに、視線を向ける。そして、私の口角は、ゆっくりと吊り上がった。
「あなたたちを愛してなんていません。私はただ、この世界のルールを理解し、あなたたちを、そしてこの世界を、支配しようとしているだけです」
私は、高らかに宣言した。もはや、悲惨な運命を回避するためではない。これは、私の「悪役」としての、本当の人生の始まりだ。
私は、この世界で、最も嫌われ、そして最も恐れられる存在になる。それが、私を陥れた本物のリリアーナ、そしてこの世界のルールへの、最高の復讐なのだから。