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大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


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第94話 恋の温度、ふたりの距離

休日のショッピングモールは、家族連れとカップルで賑わっていた。

 エスカレーターの上から見下ろすと、人の流れがまるで波のように動いて見える。

 朱里はその中に立ちながら、少しだけ息を吐いた。


 「中谷先輩! こっちです!」


 瑠奈が手を振って駆けてくる。白いブラウスにベージュのスカート。

 その笑顔は相変わらずまぶしくて、まっすぐだ。

 自分とは違う種類の“太陽”みたいだと、朱里はいつも思う。


 「ごめん、待たせた?」

 「いえ、私が早く着きすぎただけです。……あ、カフェ寄っていきません? 朝ごはんまだなんです!」


 カフェ。その単語に、朱里の心がわずかに跳ねた。

 昨日の光景が、ふいにフラッシュバックする。

 窓際の席、嵩の笑顔、あの穏やかな時間。


 「……そうだね、いいかも」


 笑顔を作って答えたけれど、胸の奥がざわつく。

 まるで昨日の“続きを隠してる”みたいで、少し罪悪感があった。





 カフェの店内に入ると、昨日と同じような席が目に入る。

 朱里は一瞬、視線をそらした。

 そんな様子に気づかず、瑠奈はメニューを見ながら無邪気に話す。


 「この前、平田先輩に新しい映画おすすめされちゃって。見に行こうかな〜って!」


 ──その名前に、思わず手が止まった。

 カップを持つ指先が微かに震える。


 「そ、そうなんだ。……何の映画?」


 「“Re:memories”っていう恋愛映画です。朱里さん、知ってます? 平田先輩、意外とロマンチックなんですよね〜」


 “知ってる”。

 ──むしろ、昨日いっしょに観た。

 けれどそれを言えるはずもなく、朱里は笑顔で返す。


 「へぇ……そうなんだ。ちょっと意外かも」


 自分でも驚くくらい、声が上ずっていた。

 瑠奈は何も疑う様子もなく、ストローをくるくると回している。




 「先輩、聞いてもいいですか?」


 瑠奈が急に真顔になる。

 「平田先輩のこと、どう思ってるんですか?」


 心臓が跳ねた。

 それはまるで、彼女に心の奥を覗かれたような感覚だった。


 「え? ど、どうって……先輩、だよ? それ以外、何かある?」


 「うーん……“大嫌い”ってよく言ってる割には、視線、追ってません?」


 図星だった。

 朱里は思わずカフェラテを一気に飲み干した。


 「そ、そんなこと……ないし!」


 「ふふっ、図星だ。先輩って分かりやすいですよね〜」

 瑠奈は笑う。明るく、屈託のない笑顔で。


 だけど、その瞳の奥にほんの少しの探りがあることを、朱里は見逃さなかった。




 カフェを出たあとも、胸のざわめきは収まらなかった。

 昨日の温かい時間が、少しずつ不安に塗り替えられていく。


 (私、何してるんだろ……。隠してるのは、後ろめたいことじゃないはずなのに)


 それでも、“秘密”があるというだけで、彼に正面から向き合えなくなる。

 こじらせた恋は、まだ終わりが見えない。



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