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第9話 ライバルの影

木曜の夕方。


朱里はオフィスのコピー機の前で、資料を整理していた。


ふと視線を上げると、廊下の向こうで嵩と瑠奈が話しているのが見えた。




「平田先輩、この間のセミナーの件、本当にありがとうございました!」


「いえいえ。望月さんの頑張りのおかげですよ」




笑顔を交わす二人。


(……なんか、距離近くない?)


朱里の胸に、ざわりとした感情が広がった。




そんなとき──瑠奈がふと振り返り、目が合った。


「あっ、中谷先輩!」


勢いよく駆け寄ってくる瑠奈に、朱里は一瞬身構える。




「実は……ご相談があって」


「な、何?」


「私、平田先輩のこと、すごく尊敬してるんです。だから、もっと近づきたいっていうか……」




瑠奈は小声で照れ笑いした。


「先輩って、いつも平田先輩と一緒にいるじゃないですか? だから、中谷先輩にアドバイスもらえたらって」




(ちょ、ちょっと待って……なにそれ!)


朱里の脳内は大混乱。


自分の“恋のライバル”が、堂々と協力を仰いでいるのだ。




「ア、アドバイスなんて……別にないわよ」


「えぇ〜!そこをなんとか!」




瑠奈は人懐っこい笑顔を浮かべ、朱里の腕に軽く触れてくる。


その仕草が余計に苛立ちを煽った。




「……とにかく、私は関係ないから!」


思わず強い口調になってしまう。




「そっか。じゃあ、ライバルですね!」


瑠奈がキラキラした目で、まるでゲームを宣言するみたいに言った。




「はあ!?」


「だって、中谷先輩って平田先輩のこと、好きなんですよね?」




図星を突かれて、朱里の顔が一気に赤くなる。


「ち、ちがっ……大嫌いよ!」




反射的に飛び出した言葉。


瑠奈は一瞬驚いた後、ふっと笑った。




「そっか。じゃあ私、全力でいきますね」




その笑顔は挑戦状そのものだった。


朱里の胸は不安と怒りと、そしてどうしようもない焦りでいっぱいになる。




(……本当に“ライバル”が現れちゃった)




帰宅途中、駅のホームで朱里はスマホを握りしめた。


美鈴の診断を思い出す。




──“放っておくと、相手は別の人に行っちゃうわよ?”




まさにその通りになりかけている。


でも、素直になれない。


「大嫌い」と言いながら、心の奥では嵩のことを誰よりも大切に思っている。




朱里はため息をついた。


(どうすればいいのよ……)




その背中に、知らず知らずのうちに「こじらせ」の影が濃く落ちていた。





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