表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/171

第89話 心が追いつかない朝

目覚ましの音が、夢の残り香を乱暴にかき消した。

 朱里はゆっくりとまぶたを開け、天井を見つめた。

 ぼんやりとした意識の中に浮かぶのは、昨夜の雨の音。そして、車の中の沈黙。


 ──「中谷さんだから、なんだよ」


 その言葉が、耳の奥で何度も反芻される。

 寝起きの心臓には刺激が強すぎる。顔が一気に熱くなって、布団の中に潜り込んだ。


「な、なんなのあれ……」

 独り言がこもった声になって空気に溶ける。

 思い出すたびに胸がぎゅっとして、どうしようもなく嬉しくなる。

 だけど同時に、怖くもあった。


 好き、なんて簡単な言葉で片づけてしまうのが惜しいほど、この感情は複雑で、甘くて、痛い。


 ──“理由なんてない”。

 嵩のあの言葉を、どう受け止めればいいのか分からない。

 彼の気持ちを信じたい。でも、まだ自信が持てない。


 カーテンを開けると、昨夜の雨が嘘のように止んでいた。

 街路樹の葉が朝日を反射して、きらきらと光っている。

 コーヒーを淹れながら、朱里はスマホをちらりと見た。


 ──新着メッセージなし。


 ため息をついて、マグカップを両手で包む。

 “別に期待してたわけじゃない”と自分に言い訳しながらも、

 心のどこかが、静かに沈んでいくのを感じた。


 出勤の支度をしながら、鏡の前に立つ。

 いつも通りのメイク、いつも通りのスーツ。

 でも、鏡の中の自分が少し違って見えた。


「……顔、赤い」

 昨夜からずっと、頬の熱が引かない。

 恋を自覚するって、こんなにも不安定なものなのか。


 通勤電車の窓に映る自分を見つめながら、朱里は思った。

 ──この気持ち、もう“知らないふり”はできない。


 職場のビルが近づくにつれて、鼓動が早くなる。

 今日、彼と顔を合わせたら、私はどんな顔をすればいいんだろう。

 まるで初恋の少女みたいに、心が追いつかない。


 そして──

 エントランスで見上げたガラス越しに、

 嵩が電話をしている姿が目に入った。


 その横顔を見た瞬間、朱里の胸が小さく震えた。

 朝の光に包まれた彼の姿が、まるで夢の続きのようで──

 彼女は立ち尽くしたまま、足を一歩も動かせなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ