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大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


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第88話 別れ際の沈黙

小雨が、車のフロントガラスを細かく叩いていた。


 朱里は助手席で、静かに手元のカップを見つめていた。映画館を出たあと、嵩が「ちょっと温まろう」と立ち寄ったドライブスルーのコーヒー。紙コップの中の温もりは、もうほとんど残っていない。




「雨、やみそうにないな」


「ですね……」




 短い会話のあと、ふたりの間にまた静寂が落ちた。


 ワイパーが一定のリズムで窓を拭うたび、朱里の心も少しずつ整っていくようで、でも同時に、どこか締めつけられるようでもあった。




「……楽しかったです。今日」


 朱里がそう言うと、嵩はゆっくりと視線を向けた。


「俺も。なんか、時間が早かったな」


「本当に。あっという間でした」




 たった数時間なのに、何日分もの感情が詰まっている気がした。


 沈黙を破るように、嵩が小さく息をついた。




「……中谷さん」


「はい?」


「“なんで私なんですか”って、この前言ってただろ」




 朱里の胸が、きゅっと縮まった。


 忘れたくても忘れられない、あのときの自分の言葉。


 嵩は前を向いたまま、ゆっくりと言葉を選ぶように続ける。




「たぶん、俺……理由なんてないんだと思う。気づいたら、そうなってた」


「え……」


「理由を探すと、なんか違う気がして。中谷さんだから、なんだよ」




 その一言で、朱里の喉が熱くなった。


 何か返したくても、言葉が見つからない。


 窓の外の雨が、急に遠くに聞こえた気がした。




 嵩が車を停め、ウインカーの音が小さく鳴る。


「送ってくれて、ありがとうございました」


「こっちこそ。……気をつけて」




 朱里はドアノブに手をかけたが、開けることができなかった。


 心のどこかが「まだ帰りたくない」と叫んでいる。


 けれど、それを口に出す勇気もない。




「……じゃあ、おやすみなさい」


 朱里がようやくそう言うと、嵩は少しだけ笑った。


「おやすみ、中谷さん」




 雨の夜、朱里は小走りでマンションの階段を上る。


 玄関の前で深呼吸をして、やっと気づいた。


 ──あの沈黙の中に、きっと嵩の“答え”はあったのだと。




 濡れた髪の先から、ぽたぽたと雫が落ちる。


 それが涙か雨か、自分でももう分からなかった。



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