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大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


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第85話 嫉妬しているのは、どっち?

翌週の月曜の朝。

 朱里はオフィスの入り口で、深呼吸をひとつした。


 週末のモールでの出来事が、頭の中で何度も再生されている。

 あの、嵩の言葉。

 そして、差し出されたジャケットの温もり。

 思い出すたびに、心臓が勝手にうるさい。


「おはようございます、中谷さん」

 背後から声をかけられ、反射的に振り返る。

 そこには──当の本人、平田嵩がいた。


「お、おはようございます!」

 声が裏返った。最悪だ。

 自分でわかるくらい挙動不審な反応。

 なのに彼は、いつも通り穏やかに微笑んでいる。


「プレゼンの資料、今日確認しますね」

「は、はい!……お願いします」


 朱里は慌てて頭を下げ、逃げるようにデスクへ向かった。

 後ろ姿に向けて、嵩が小さく笑っていたことには、気づかないふりをした。




 昼休み。

 朱里は給湯室で、美鈴に捕まった。

「ちょっと、朱里。あんた週末、何かあったでしょ?」

「へ? な、なんでそう思うの?」

「顔が“恋してます”って書いてある。あと、ニヤけてる」


 ぐさり。

 図星を刺されて、慌てて冷水を飲む。


「……ちょっとショッピング行っただけだよ。平田さんと」

「やっぱり! 二人で?!」

「たまたま、ですよっ。……いや、ちょっとだけ誘ったけど」

「“ちょっとだけ”誘ったって何。かわいい言い訳やめて」


 美鈴は頬杖をつきながら、にやりと笑う。

「で? 進展は?」

「……ないよ。むしろ気まずい」

「気まずいの?どうして?」

「だって、変なこと言っちゃって……“嫉妬してるんですか?”とか」


 美鈴の目がキラリと光った。

「ふぅん。で、なんて答えたの?」

「“そんな子どもみたいなこと、しませんよ”って」

「うわ~、その返し! ズルい男のテンプレじゃん!」


 朱里はため息をついた。

「そうなの。ズルいの。優しいし、冷たいし、わけわかんない」

「それ、つまり“好き”ってことね」

「ちが……」

「ちがわない」


 美鈴はすかさず断言する。

 朱里は言葉を失って、マグカップをぎゅっと握りしめた。

 湯気の向こうで、自分の頬が赤く映る。



 午後、会議室。

 朱里が発表を終えると、部屋の空気がほっと緩んだ。

 資料の完成度も高く、上司からの評価も上々。


 そんな中、嵩が静かに言った。

「……いいプレゼンでしたね。内容も構成も、よく考えられてた」

「えっ、ありがとうございます」


 朱里の胸が温かくなる。

 その声はどこまでも優しくて、

 けれど、不意に心をくすぐる。


「嫉妬、してるのは……もしかして、私のほうなのかも」

 その言葉は、もちろん口には出せない。

 ただ、胸の奥でこっそり呟いた。


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